第456話 マックスさんもスイカに興味



「そういえば、リク。夕食時に追加の野菜を仕入れたら、八百屋のオヤジさんから面白い事を言われたぞ?」

「ん? 八百屋のおっちゃん、獅子亭に来てたんですか?」

「あぁ。足りない野菜がでたから、すぐに持って来てもらった。その時になんだが、リク、珍しい野菜を食べたんだってな?」

「あぁ……スイカですね」

「「「スイカ?」」」


 マックスさんから、話を変えるように声をかけられ、八百屋のおっちゃんが来ていた事を聞かされる。

 獅子亭は評判のお店だから、元々仕入れていた食材が足りなくなる事が時折ある。

 その際に、八百屋さんを始めとした、ヘルサルにあるお店からすぐに足りない分を持って来てもらうようにしてるんだ。

 その時に、スイカの事を聞いたらしいね。


 聞き慣れない野菜の名に、モニカさんやソフィー、マリーさんも首を傾げてる。

 ルディさんは、アンリさんを変な目で見ないように、カテリーネさんより監視中だから、離れた場所にいるため、こっちの話が聞こえてないみたいだ。

 アンリさんはスイカを食べた一人だから、納得顔で、ルギネさんは気に入っていたせいか、肩をピクリと反応させていた。

 グリンデさんとミームさんは知らない事なので、キョトンとしてるね。


「なんでも、本来とは違う食べ方を提案したんだってな? 八百屋のオヤジが感動してたぞ。売れるのは間違いないとも言っていたな」

「あー、えっと……俺が以前住んでた場所には普通にあった物で、そこでの食べ方を教えたんです。八百屋さんが言うには、こちらでは切ったりもせず、洗ってそのまま食べるだけだったみたいなので。まぁ、スイカは間違いなく売れるでしょうね」

「そんなに美味しいのか?」

「スイカは絶品なのだわ! あれは、キューに勝るとも劣らない、最高の食べ物なのだわ!」


 マックスさんと話し、俺が以前スイカを食べた事がある事を教える。

 俺が異世界から来た……というのはマックスさんやマリーさん、モニカさんやソフィーも知っているから、全員納得したような表情だ。

 ルギネさん達は知らないため、はっきりではなくぼかして言ったけど、伝わったようだ。

 八百屋さんに勧められて食べたスイカは、甘くて美味しい物だったので、こちらでも十分に売れると思う。

 作ってる数が少ないらしいから、店が潤う程仕入れられるのかわからないけど……。


 料理をする店を開いているくらいだから、マックスさんはスイカの味が気になるようで、興味深そうに聞いて来る。

 甘くて美味しい……と俺が伝えようとする前に、ユノとアンリさんにモフモフをいじられていたエルサが、勢い込んで叫んだ。

 スイカを食べさせた時、かなり感動していた様子だったけど、そんなに気に入ったのか……。

 そうか……キューに勝るとも劣らない、か。

 これは、考えてる事が上手く行けば、エルサも喜ぶだろう。


「スイカって、もしかして……女王陛下の献上品になってるっていう?」

「フィリーナ、知ってるの?」


 エルサへの対策……というほど大袈裟じゃないけど、キュー以外の好物ができた事に喜んでいると、フィリーナが思い出したように声を上げた。


「えぇ。確か、エルフの集落から、そう離れていない村で作られてるのを、見た事があるわ」

「エルフの集落近くかぁ……」


 エルサに乗って移動するんじゃなかったら、かなり離れてる場所だね。


「数年前の事だけどね、陛下が国中の視察をしている時に、その村へ寄ったらしいのよ。そこで作られてる作物に、痛く感激して、名前を付けただけでなく献上品とするようにした……らしいわ」

「らしい?」

「私達はエルフだからね。ある程度外の村との交流はあったけど、積極的に関わらない事が多いわ。少しずつ、交流を深めるようにはしてるけど。その中で、以前こんな事があった……という話で聞いたのよ。ついでにスイカの方も、食べさせてもらったわ」


 エルフの集落は、エルフだけで成り立ってる。

 だから、外との交流を避けるようにしていたらしいし、実際長老と呼ばれてる人達は、人間を嫌って閉じこもろうとしていた。

 俺を怒らせたと思って、今は本当に引きこもってるらしいけど……それはともかく、若いエルフの中で、人間との交流を推進したいという意見が増え、最近では魔法技術を伝えたりして、色々な交流を図っているらしい。

 エルフに取って若いだから、人間の数倍の年齢だけど……それはともかく、そうして森の近くに家を建てたりして、生活様式も少し変わって来ているみたいだ。


 その交流の中で、集落の近くにある村で作っていたのがスイカということらしい。

 姉さんがスイカを発見した後で、フィリーナ達エルフがその村に行って教えられ、食べさせてもらったという事だろうね。


「味は、どうだったんだ? リクや八百屋の話では、間違いなく売れると言える程らしいが……」

「……正直、私は美味しいと思いませんでした」


 マックスさんの質問に、フィリーナは眉をしかめさせて答える。

 スイカが美味しくない……?

 好みというのはそれぞれだから、偶然フィリーナには受け入れられなかったという事もあるけど、もしかして、その時の食べ方って……。


「見た目はキューと似てるのですが、大きさは抱えるほどあります。さらに丸いです。それを丸かじりして食べるんです。キューとは違って皮は硬いですし、美味しいとは言えません。中の赤い部分まで行くと、確かに甘みも感じるんですけど……皮や白い部分が混ざって、その甘みもほとんど感じません」

「そうなのか……」

「さらに、大きいために皮を食べるだけで精一杯で……すぐにお腹いっぱいになります。結局、一人では赤い部分をほとんど食べられず……美味しいとはとても言えない物でした。正直、陛下が何故あのスイカを献上品にしたのか、不思議でしたね」


 やっぱり、フィリーナは八百屋のおっちゃんが言っていたように、スイカを丸ごと一つ、皮ごと齧り付いたようだ。

 皮には栄養が豊富とも聞くし、実の方は水分が豊富という事で、作っていた村では栄養と水分を得るためにそういう食べ方になったのかもしれないけど……味を求めるのなら、その食べ方は間違いだね。

 食べられないわけじゃないけど、キューと違って皮をそのまま食べるのは、俺だって遠慮したい……硬いしね。

 それに、今日食べたあのスイカくらいの大きさだとしたら……フィリーナが皮でお腹いっぱいになったと言うのも頷ける。

 美味しくない皮ばかり食べて、お腹いっぱいになった挙句、本来一番美味しいはずの実を食べてないんだから、悪い評価になるのは当然だね。


「スイカなんだけど……いくつかに切り分けて、皮を食べずに実だけ食べると美味しいよ? 水分も豊富で、甘みもある。食べてみればわかるけど……野菜と言うより、果実に近いんじゃないかな?」

「え? そうなの!? 野菜と聞いていたから、青臭いのも当然だとばかり……正直、何かに混ぜて料理するのにも使えないと思っていたわ……」


 分類としては……確か、果実的野菜とか言われてるんだっけ?

 定義を詳しく知らないけど、野菜でもあり、果物でもあるって感じかな。

 何もせずに皮をそのまま食べたのなら、フィリーナの言う通り料理に使う事を思いつかないかもしれない。

 皮だけを切って、食材として使う事もできるんだけど……美味しくないと思い込んでしまったから、使途が浮かばなかったんだろう。

 ……なんで姉さんは、食べ方とかを教えてないのか……これは王都へ帰ってから問い質してみようと思う。



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