第455話 リクの剣は呪われた代物なのかも
夕食の終えた獅子亭で、同じテーブルで対面に座る人達を眺める。
黄色信号さん……黄色の髪が目立つグリンデさんが俺を睨んでるのに、溜め息が出そう。
俺のせいじゃないんだけどなぁ……多分。
アンリさんはユノと一緒にエルサをつついてる。
随分と、エルサやユノと馴染んだね。
昼間、一緒に街を歩いて色々話したからなんだろう。
ミームさんは相変わらず、何を考えているのかわからない表情で、どこからか取り出した焦げた肉を齧ってる。
ジャーキーとか干し肉みたいに、ちびちびと食べてるようだけど、夕食を頂いた後なのによく食べられるなぁ。
そして問題のルギネさん。
グリンデさんに手伝ってもらって、なんとか夕食を食べられてたけど、テーブルに突っ伏したままで動く元気はないようだ。
何故こうなったかと言うと、早い話が魔力切れ。
元々、剣を使う戦士で、ソフィーのように魔法を使えない人らしく、魔力は多くないみたいなんだけど……。
「リクの剣は危険ね。使おうとすると、被害者が出るわ」
「さすがに、エルフのフィリーナなら、そんな事はないと思うんだけど……」
「前に見た時、どれだけの魔力を消耗するか知ってるわ。……いかにエルフとはいえ、一振りする程度の間持って平気だったら、それだけで尊敬されるわよ?」
「そんなに?」
エルフは人間より魔力量がかなり多いというのは、周知の事実。
そんなエルフであるフィリーナが、そう言うという事は、俺の使っている剣は相当な魔力量を必要とするようだ。
確かに、買う時に普通の人間には扱えない量の魔力を使うと聞いたし、複数の魔法が発動する事で、異常な魔力量を消費するようになった……なんて聞いたけども。
「驚いたぞ、リクがルギネを運び込んで来た時は」
「私は、お姉さまが拉致されて来たのかと思いました!」
「あははは……とにかく休める所に運ぼうと思ったからね」
経緯は簡単。
俺の剣に興味を持ったルギネさんが、説明を聞く中で真偽を確かめようと手を伸ばす。
試してみるくらいならいいかと、俺が剣を渡してルギネさんが剣を抜き、構えようとした瞬間にしなびた植物のように剣を落として、力なく地面に倒れた。
あの時のルギネさん、全身から力が抜けたようだったなぁ……。
多分、剣を構える時に魔法が発動してルギネさんの魔力を、ほとんど吸い取ってしまったんだろう。
意識はあったけど、倒れて動こうともしないルギネさんに焦った、俺とアンリさんは、街の散策どころではなく、ぐったりしてる体を抱き上げて急いで獅子亭へ連れて帰った。
まぁ、抱き上げたのも運んだのも、全て俺だけどね……アンリさんは力持ちらしいけど、エルサを抱いたままだったし。
そこで、ちょうど夕方の営業を開始したばかりの獅子亭へ、食事をしに来ていたグリンデさんとミームさんに合流。
俺がルギネさんを抱いて運んでいる事に、グリンデさんが食って掛かろうとしたけど、アンリさんの手によって止められた。
小柄なグリンデさんが、アンリさんの片手がおでこに当てられて、それ以上前に進む事ができなくなり、その場で腕をぐるぐる回していたのは、ちょっと面白かった。
その後、すぐにマリーさんに事情を話し、フィリーナを連れて来てもらう間に、店の片隅のテーブルに座らせてルギネさんを休ませる。
呼ばれて来たフィリーナに診てもらうと、魔力切れが原因で、虚脱症状のように体に力が入らなくなってるんだとか。
ただ、魔力が完全になくなると人間は生きられないため、死なない程度に魔力は残っているそう。
剣には使用者の魔力を吸い尽くしてしまわないように、安全装置のようなものが組み込まれており、そのおかげで魔力が完全になくなる事はなかったみたいだ。
不足してる魔力は休んでいれば回復するため、そのままにしておく事になった。
そうして、時間をかけて少しだけ動けるようになったルギネさんが、グリンデさんに介護されて夕食を取り終わり、今に至る……というわけだね。
食事は魔力回復を助けるとの事で、食べさせる事にしたけど、今もテーブルに突っ伏してるルギネさんは、話したりする事もほとんどできない状態だ。
「リクさんの剣は、呪いの武器ね……」
「そうだな。呪われた武器……強力だが、使用者または周囲へ不利益をもたらす物。ほとんどが強力な魔法がかかっていると聞いているが……その一つと言えるな」
「それを普通に使ってるリクさんって……」
俺やフィリーナ、リリーフラワーのメンバーが座ってるテーブルの隣で、こちらもテーブルに突っ伏したまま話してるモニカさんとソフィー。
マリーさんに相当絞られたらしく、食事を取るのも辛そうだったけど、こちらはルギネさんと違って話す余裕はあるみたいだ……まぁ、自分で料理を食べられてたしね。
それはともかく、俺の剣を呪いの武器だなんて……切れ味もいいし、無茶な使い方をしても刃こぼれ一つないから、結構気に入ってるんだけどなぁ。
確かに、ルギネさんのように使おうとしたら、魔力が吸収されて倒れるのは、呪いとも言えるかもしれないけど……。
「母さんの特訓が終わったと思ったら、リクさんが女性を連れ込んでて驚いたわよ……」
「連れ込んだって……人聞き悪いよ、モニカさん」
「お姉さまは、男なんかに連れ込まれたりしません!」
モニカさんが、気だるそうにテーブルに顔を乗せながら、俺をジト目で見る。
連れ込んだわけじゃなく、休ませるために連れて来たんだから……あれ? 似たようなものかな?
でも、変な事を言ったら、またグリンデさんが反応するから止めて欲しい。
さっきは拉致されたかと思った、とか言ってたのに、今は連れ込まれたりしないと叫んで俺を睨んでるから……とにかく俺に突っかかりたい心境らしい。
「まぁまぁ、モニカ。リクが女を連れ込むような甲斐性があるわけないだろう?」
「……それもそうね」
「なんだか、酷く失礼な事を言われてる気がする」
モニカさんと同じような体勢になって、休んでるソフィーが、取りなすように言うけど……それ、フォローになってないからね?
俺だって、その気になったら女性を連れ込むくらい……できるとは思えないけど、あまりしようとも思わないね……うん。
軽い気持ちで、女性を口説くとか、俺にはできそうにない。
姉さんの教育のたまものかもしれない……喜ぶべきことなのかどうかは、ちょっとわからないけども。
「まぁ、もう少し休ませてやればいいだろう」
「そうね……私も疲れたわ……」
「私もだな。だが、この疲れもまた、心地良い」
「二人共軟弱ねぇ。リクに追いつこうとしたら、もっと頑張らないといけないわよ?」
「「いや、追いつこうとは思ってない」」
「マリーさん、見張っていた私から見ても、結構な動きに見えましたよ?」
「そうかしら?」
俺達の事を見ていたマックスさんが、もう少し休むように皆に言ってくれて、モニカさんのジト目もなくなった。
二人共、マリーさんの特訓でかなり疲れてるようだから、今はしっかり休んだ方がいいからね。
ソフィーは、それも楽しそうだけど……特訓した事に満足感があるんだろうと思う。
そんな二人を見ながら、マリーさんが溜め息を吐くように声をかけたけど、二人は真面目な表情で否定していた。
えっと……なんとなく、あまり掘り下げたり突っ込んだりはしない方がいい、かな?
フィリーナが苦笑しながら言うと、首を傾げるマリーさん。
モニカさん達が動くのも億劫なくらいに疲れてるのに、マリーさんにとって十分な特訓でどれほどなんだろうか……?
ちょっと興味はあるけど、俺が受けたいとは考えちゃいけない気がする。
まぁ、俺の方はヴェンツェルさんに頼んで、師匠さんに来てもらう予定だから、それでいいか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます