第454話 リリーフラワーの趣味



「あとは……私は武具店が多いな。パーティメンバーにもそれぞれ考えがある。全て一緒というわけではないな」

「そうねぇ……私は、服屋が多いかしらぁ? ルギネは……その破廉恥……プッ……んんっ。そんな恰好で満足してるようだけど、やっぱり女性は身に着ける物に気を付けないとねぇ?」

「……笑うんじゃない。この鎧は、由緒正しい物であってな……」

「はいはい、武具店の人に勧められたのよねぇ……騙されてると思うんだけど。まぁ、私の目の保養になるから、いいかぁ」


 ルギネさんは、ソフィーと近いのかもしれないね。

 同じ前衛を務める戦士という事も、関係があるのかもしれない。

 アンリさんは、女性らしく服を身に行ったりする事もあるようで、いわゆる女子力というのは高そうだ。

 料理はできないみたいだけど、常日頃から気を付けてるからこそ、異様にも思える色気が醸し出されるのかもしれない。


 それはいいんだけど……途中でルギネさんの方を見て、軽く噴き出すアンリさん。

 さっき、破廉恥って言われた事を思い出して、笑ってしまったんだろう。

 ルギネさんも、自分がそういう格好をしている自覚はあるみたいだけど……本当にその鎧には由緒正しい謂れがあるのだろうか?

 いやまぁ、ある意味俺のような日本で育った人間には、伝統というか、それにちかいものはあるかもしれないけど……。


 ともあれ、アンリさんとしては目の保養になるから、止めるように注意する事はないみたいだ……小さく呟いてたけど、ちゃんと聞こえてた。

 まぁ、百合の花……リリーフラワーだからね、女性同士の方が好みという事で、アンリさんは男性に近い視点も持ってるのかもしれない。

 それにしては、俺を敵視する事もなく、ルギネさんをからかう事の方が多いけど……人の趣味は様々だ。


「グリンデは……私について来る事が多いな……」

「あの子は、ルギネ第一だからねぇ。自分の事よりも、ルギネについて行く事の方が重要そうよねぇ」

「ふっ、それだけ私の事を好きだという事だ。……ソフィーもこっちに加わればいいのにな……」

「ソフィーは、そういう趣味じゃないと思うのだけどぉ……まぁルギネが気に入っちゃってるかぁ」


 グリンデさんといえば、あの黄信号の人だね。

 傍から見ていても、ルギネさん優先で、男は敵視してるのがよくわかる。

 急にナルシスト風になったルギネさんが、グリンデさんの事を考えて微笑みながらも、ソフィーの事を呟いた。

 うん、女性に対して男装の麗人のように振る舞う人……と考えればいいのかもしれないね。


 最初にソフィーへ怒ったように絡んでいたのは、ユノが子供だとか変な勘違いをしたからで、普段は違うのかもしれない。

 ……ソフィーがつれないのと、本質的に猪突猛進な気質が原因かもしれないけどね。


「ミームは……自由だな」

「そうねぇ、自由ねぇ」

「自由?」

「あぁ。いつの間にか、フラッと何処かへ行っている事もある。肝心な時にはいてくれるから、誰も気にしていないんだけどな」

「そうねぇ。気配を消すのが上手いわよねぇ。気付いたら、後ろで焦げた肉を取り出して、齧ってたりウするわよねぇ。一応、ルギネにしっかり懐いてるように見えるんだけどぉ」

「そ、そうなんですね……その、焦げた肉って美味しい……んですかね?」


 ミームさんは、ルギネさん達からしても、つかみどころのない感じのようだ。

 焦げた肉が……とか呟く事も多いし、感情を表に出すようにも見えないから、俺から見てよくわからないという印象だね。


「不味いな……」

「不味いわよぉ? 焦げてるしね……」

「そうですよね……」


 当然の事ながら、焦げた肉というのはルギネさん達にとっては不味い物のようだ。

 予想はできてたというか、わかりきってた事だけども。

 何故ミームさんは、不味いはずの焦げた肉に、あそこまでのこだわりを見せるのか……謎だ。


「なんだか、そちらのパーティの事を聞く感じになってるね……」

「……いつの間に……計ったな!?」

「ないない。メンバーの事を話し始めたのは、私達だしねぇ……で、結局何処へ行こうかしら?」


 結局、何処へ行くかという話から、リリーフラワーの人達の話になってしまった。

 まぁ、それぞれ冒険者として動いていない時は、自由に過ごしてる……という事だね。

 参考になったような、参考になっていないような……あまり考えるのは止めておこう。


「それじゃ……とりあえず、服でも見に行こうか? アンリさんが好きそうだし」

「リク、アンリを狙っているのか!?」

「いやいやいや、そんなつもりはいって!」


 何故か唐突に、ルギネさんからそんな疑いをかけられた。

 アンリさんと俺の間に、ルギネさんが庇うように入り、俺が誤解を解くように手を振るのを、ユノが不思議そうに見ている……エルサはまだ胸に抱かれたままご満悦。

 なに、この空間?


「あらぁ? 私は、リク君に興味あるわよぉ?」

「おい、アンリ?」

「え?」

「だってぇ、まだまだ若いのにAランクでしょぉ? それにぃ……腰から下げてるその剣。マギアプソプションと戦ってるのを見たけど、普通の剣じゃないみたいだしぃ?」

「なんだ、そういう事か……」


 ルギネさんの後ろから、アンリさんから妙に色気を感じる声を聞いて、一瞬だけドキっとしてしまった。

 俺だけでなく、ルギネさんも驚いて振り返ってるけど、どうやら興味というの冒険者ランクや武器の事だったらしい。

 ……別に、残念だなんて思ってないよ? うん。

 俺と同じく驚いてたルギネさんは、俺とは別の雰囲気でホッとしている様子だった。


「あー、剣の事かぁ……うんうん、そうだよねぇ……」

「リクが焦っているのだわ。モニカに報告するのだわ」

「そうなの、報告するの!」

「止めて! お願いだから止めて!」


 あれだけの事で、ドキッとしてしまう自分の未熟さを恥ずかしく思いながら、話を剣の方に持って行こうとすると、エルサとユノからジトっとした目をされた。

 何故かわからないけど、モニカさんに言われたら怒られる気がするので、エルサとユノにはお願いして内緒にしてもらう。

 ……お願いだから、言わないでくれよ……。


「えーと、この剣はちょっと特別なんだ。あまり扱える人がいないらしくて……」

「ふむ……確か、剣身が黒かったか……魔法がかかっているんだろう?」


 さすがに、ルギネさんも剣を使うだけあって興味があるのか、俺の腰に下がっている剣に注視する。

 ルギネさんの後ろに隠れてよく見えないが、きっとアンリさんも剣を見ているんだろうと思う。

 とりあえず、恥ずかしい思いを誤魔化すように、一気に剣の説明を始める俺。

 通常は魔法具に魔法は一つだけのはずが、複数掛かっているという所で、ルギネさんもアンリさんも驚いていた。

 やっぱり、そういうものなんだなぁ。


「……本当に、リク以外に使えないのか?」

「んー、試したことはないからわからないけど、そうらしいよ。複数の魔法を同時に発動させて、剣を強化する代わりに、使う魔力量が多いらしいんだ」


 俺自身、どれだけの魔力を使っているのかよくわかってない。

 けど、剣を売ってくれたイルミナさんや、魔法具に詳しいアルネがそう言っていたのだから、そうなんだろう。

 確かに、剣を鞘から抜いて持っていると、魔力がそちらに流れて行くのを感じるしね。


「本当かどうか……試してみてもいいか?」


 そう言って、俺の腰にある剣へと、ルギネさんが手を伸ばした――。



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