第457話 試食会が獅子亭で開催決定



「リクからすると、食べ方が違うという事だな?」

「お腹を満たしたり、食物として見たら間違っているとは言いにくいかもしれませんが……味を求めるのなら、違う方法で食べないとですね」

「ふむ、それは料理にも言える事だな。腹を満たすだけなら、そこまで手を加える必要はない。味を求めるから、料理をするのだからな。よし、明日は八百屋のオヤジさんに言って、幾つか仕入れてみよう!」

「いいんですか?」

「なぁに、リク達が美味しいと言ってるんだ、大丈夫だろう。それに、新しい物は食べて味を確かめないとな! 八百屋のオヤジさんは、数個くらいなら融通すると言っていたからな。店には出せないだろうが……いい刺激になるかもしれん」

「ただ、リク達が美味しいって言ってるから、興味があるだけでしょうに……」

「む、まぁ、そうだな……」


 味を考えなければ、皮ごと食べるというのも間違いじゃない。

 まぁ、栄養分は高いからね。

 それに、実の部分まで行けば美味しいんだから、スイカを作ってる村の人達はそれを知っていたんだろう。

 フィリーナは、皮部分だけでなく、実の部分を多く食べるべきだったなぁ……お腹いっぱいになってしまったんだから、仕方ないけど。

 皮の味に辟易してしまい、時間を空けて残りを食べるという事も、考えられなかったんだろう。


 どれだけの数を仕入れるつもりなのかわからないけど、珍しくて数が少ない物らしいし、店に出せる程の数は仕入れられないんだろう。

 マックスさん個人が興味あるとして、マリーさんに見抜かれつつも、少しだけ仕入れる事に決まったようだ。

 俺としては、またスイカが食べられるから、喜ぶべき事だね。

 話を聞いていたエルサも、アンリさんやユノにつつかれながらも、テーブルの上で小躍りしてるな……やっぱりキューと同じくらい気に入ったみたいだ。


 ドラゴンの小躍り……滅多にみられるものじゃないよね。

 モフモフが柔らかそうな感触と一緒に揺れてて、面白いけど。


「うぅ……私も、食べるぞ……」

「ルギネさん?」


 テーブルに突っ伏していたルギネさんが、スイカを仕入れると聞いて、うめくように声を上げた。

 少しだけ顔を上げてるし、魔力も多少は回復したんだろう。


「今の話を聞いてなかったのぉ? お店に出せないって言ってたのよぉ? 食べられるとは思えないわぁ」

「くっ……」


 アンリさんがルギネさんの方へ顔を向け、否定した。

 確かに、俺やモニカさん達はともかく、ルギネさん達は本来お客さん側だしなぁ……。


「まぁ、話に聞く限りでは、大きな物らしいからな。食べさせてやるぞ?」

「ほんとですかっ!? ……うぅ……」

「ほらほら、無理しないでぇ」

「お姉さま、もう少しゆっくりして下さい!」


 ルギネさん達がどうなのか考えていると、マックスさんが食べさせても構わないと言う。

 いくつ仕入れるかわからないけど、確かにスイカは大きいから、複数人で食べた方がいいかもしれない。

 この世界に冷蔵庫なる物は当然ないから、一度切った後のスイカの保存が難しいしね。

 スイカを一度に食べきるのなら、人数が多い方がいい。


 ……残っても、ユノやエルサが全部食べ尽くしそうではあるけども。

 マックスさんとしては、興味があるだけで独占しようとは考えていないし、食べたい人がいるのなら食べさせてやるというスタンスのようだ。


「その代わり、明日の夕食もこの店で食べる事。それが条件だ」

「っ! ……っ!」

「お姉さま、そんなに美味しかったんですか?」

「あの味を経験すると、そうなるのもわかるわぁ……」

「焦げた肉と、どちらが美味しいかしら? 焦げた肉は不味いけど……」


 スイカを食べる条件は、ちゃんと客として獅子亭に来て、料理を頼む事。

 それで売り上げに貢献しつつ、スイカが多くの人に受け入れられる物なのか、試す算段みたいだ。

 横で、マリーさんがジッとマックスさんを見ているから、利益を考えて付け加えただけかもしれないけどね。


 マックスさんの言葉に、ルギネさんは満足に動かせない体で、必死に頷き、グリンデさんは不思議そうにその様子を見ている。

 アンリさんは一緒に食べたから、美味しさを知ってる一人として、嬉しそうだ。

 あとミームさん……やっぱり焦げた肉は不味いんだね……わかってた事だけど、それならなんでそこまでこだわってるのか……本当に謎だ。


「以前食べた時は、本当に美味しいとは思わなかったけど……リクが言う違う食べ方があるのなら、食べてみたいわ。集落の近くで作られてるし、もしかしたらエルフ達が作る事もできるかもしれないしね」


 フィリーナは、以前とは違う食べ方というのに興味があるらしい。

 いや、どちらかというと、集落で作物とする事ができるかどうかに興味がありそうだ。

 近くの村で作られているという事は、エルフの集落でも作れる可能性が高いという事だしね。

 もしスイカを気に入って、広く受け入れられると思ったら、エルフの集落でも作られ始めそうだ……。

 それはそれで、スイカを食べる機会が増える事になりそうだし、俺にとっては歓迎できる。

 多分、姉さんも喜ぶと思う。


 そうして、スイカの話を続けてしばらく、夜も遅くなったので解散となる。

 ルギネさんは、まだ完全に回復していなかったけど、なんとか立ち上がれるようにはなっていたので、アンリさん達に支えられながら、宿へと帰って行った。

 モニカさんとソフィーもある程度疲れが取れたようで、早々にお風呂へ入って寝るようだ。

 もちろん、風呂上がりのドライヤーもどきで髪を乾かすのも予約して。


 ドライヤーもどきで癒されると、ぐっすり寝られるらしい。

 それは俺も嬉しいんだけど、その場で寝ないよう注意して欲しい。

 お風呂上りで薄着だし……モニカさんとソフィーが相手って、色々誘惑が多いんだよなぁ……というのは、表情には出さないように気を付ける。

 これで気まずくなっても嫌だしね。

 変な事はしないようにしてるし、ユノやエルサもいるからできない……いや、エルサは途中で寝るか。

 ともかく、夕食の片付けを手伝い、俺もエルサを連れてお風呂へと入った。


 ユノはモニカさん達と一緒に入り、俺とエルサがお風呂から上がったら、待ち構えていたように部屋で待機していた。

 もちろん、モニカさん達もだ。


「あぁ~やっぱりリクさんのこれは、気持ち良いわ~」

「そうなだなぁ……」

「……喜んでくれるのは良いんだけど、寝ないでね?」

「……寝ると、リクさんが何かして来るのかしら?」

「それはちょっと、どうかと思うぞモニカ?」


 ドライヤーもどきの風を受けながら、気持ち良さそうに声を漏らすモニカさんとソフィー。

 エルサは早々に横に倒れて寝入っているし、ユノも風を受けて気持ち良さそうにしている。

 その中で、不穏な事を言っているモニカさんが、ソフィーに軽く注意される事もあったけど、特に何事もなく髪を乾かし終える。

 疲れからか、少しふらついてる足取りで、部屋へと戻るモニカさんとソフィーを見送り、俺もユノやエルサと一緒に就寝。

 相変わらず、エルサを挟んでモフモフを堪能しながらだけどね。


 今日は、ほとんどアンリさんに抱かれてたから、エルサのモフモフ成分がちょっと足りない気がする。

 熟睡してるエルサには悪いけど、しばらく堪能してから寝よう。

 ……お腹を出してぐっすりだから、多少寝苦しくても起きそうにないから、大丈夫そうか。

 エルサのお腹の毛は、他の場所よりもふんわりしていて、触れている手をモフっと包み込むようで……癒しと眠気を誘うなぁ……ぐぅ――。



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