第422話 助けに入るリク



「はぁ……猪突猛進なのは相変わらずか。リーダーなのだから、他のメンバーともよく話し合わないといけないだろうに」

「それを、俺に討伐のほとんどを任せようとした、ソフィーが言うの?」

「……まぁ、それは置いておこう。リク、どうする?」


 隣に来たソフィーが、溜め息を吐きながら言うけど、もっともらしい事を言って俺に任せたソフィーが言える事じゃない気がする。

 ジト目でソフィーを見ると、置いておかれた……。

 というかソフィー……顔を逸らしてるけど、俺ってそんなに匂うのかな……ちょっとショック。

 仕方ない事なんだけどね。


「……最初より数が減ってるって言っても、一人はやっぱり危ないんじゃないかな?」

「そうだな。ルギネは両手剣で攻撃重視と、片手剣と盾で防御重視をしたりと、臨機応変に戦い方を変えるが……どちらにせよ一人じゃできる事が限られてる。リクのように、全て一振りで斬り裂いた挙句、事もなげに向こうの攻撃を避けるとかなら、大丈夫だろうが……」


 単体ではDランクのマギアプソプションで、ルギネさんはBランク間近(本人談)のCランクであっても、相手の数が多い。

 囲まれて前後左右から攻撃されたら、避ける事もできなくなるかもしれない。

 俺はソフィーの言うように、簡単に攻撃を避けたりしてるつもりはないんだけど、多分これは今まで俺が多数の魔物と戦って来た経験があるからだろうと思う。

 魔物だけじゃなく、野盗とかも複数で死角から襲って来ようとしてたしね……それに比べれば、動きの遅いマギアプソプションに囲まれて、逃げ道が塞がれないよう気を付けるのは簡単だ……動きも鈍いし。

 でも、ルギネさんにそれができるのかどうか……。


「あ」

「まぁ、あぁなるか……」


 大丈夫だろうかと心配して、マギアプソプションに向かって行ったルギネさんを見ていると、横から来た角の攻撃が、強かに盾へ当たり、パカーン! という音を響かせながら弾かれた。

 マギアプソプションは、あまり体が大きくはないが、その長さを利用して角と顔を大きく振るように横薙ぎをして来る事がある。

 遠心力も加わったそれは、結構重そうだったので、盾を持って防いでも体重の軽そうなルギネさんは弾かれてしまったんだろう。

 本来、ルギネさんはマックスさんのように、受け止めるのではなく受け流す方が得意そうだし、仕方ない。


「相手が多いから、ルギネは盾を使っているようだが……仲間の援護が見込めない状況では悪手だな。片手剣では、リクのようにさっくり両断する事もできない。最終的に、あぁやって受け止めるしかできなくなって、弾かれる」

「いやいや、冷静に分析してる場合じゃないでしょ、ソフィー!」

「血気盛んなルギネには、いい教訓になるんじゃないかと思ってな。今まではなんとかなっていたが、いつも王だとは限らない。今回は、多分私やリクを見たから、躍起になって冷静さをなくしてるんだとは思うが……確かにあのままでは危ないな」

「ともかく、助けに行こう!」

「あぁ、リク……」

「うん?」

「任せた!」

「うえぇぇ!?」


 冷静にルギネさんの戦いを分析しているソフィーだけど、今はそんな事をしている場合じゃない。

 弾かれて地面に膝を付いたルギネさんは、すぐに立ち上がって体勢を整えたけど、その間にマギアプソプションが数体囲むようにして距離を詰めていた。

 このままだと、完全に逃げ道を塞がれてやられてしまう。

 ソフィーに声をかけて、危ないルギネさんの方に駆け出そうとしたら、ふと名前を呼ばれて動きが止まる。

 どうしたのかとソフィーの方へ顔を向けようと思った瞬間、背中を力強く押し出されて、ルギネさんのいる所へ走るような形になった。


「この匂いと見た目……もう少し慣れないといけない。すまないが、ルギネの事は頼んだぞリク!」

「ソフィー、後で怒るからなぁ! ……とっとっと!」

「お前は!」

「えっと、やぁ。助けに来た……でいいのかな?」


 俺を押し出すだけで、自分はそこに留まったまま見送っているソフィーに、恨み節を叫んで、ルギネさんとマギアプソプションの間に割って入る。

 勢いが付き過ぎたため、たたらを踏んでなんとか止まった。

 あのままだと、頭からマギアプソプションの開いてる口に飛び込むところだったじゃないか……ソフィーめ……。


 割り込んで来た俺に、驚いた表情をしているルギネさん。

 とりあえず、緊張感の欠片もなしに登場したので、手を上げて挨拶はしておいた。


「誰も助けなんて求めていない! 離れて見ておけ!」

「いや、そうは言ってもね……ルギネさん囲まれ始めてたから、危ないかなぁと……ほいっと」

「話しながらも攻撃を避け、さらに両断……だと?」

「いやぁ、この剣よく切れるからねぇ」


 俺の助力を断るルギネさんを、説得するように言いながらも、割り込んで来た俺に狙いを定めたマギアプソプションが、右から襲い掛かって来る。

 足を狙って来ていたから、低くなったマギアプソプションの角をジャンプして避け、着地する時ついでに通過して行った体を剣で斬り裂く。

 ……やっぱり、近距離で戦う剣は、飛び散った血が付いてしまうなぁ………臭い。


 あっさりとマギアプソプションを倒した俺に、驚いた様子のルギネさんに、持っている剣を見せる。

 避けたのはまだしも、剣の切れ味がいいのは対ワイバーンでわかってた事だからね。

 掘り出し物を売ってくれた、イルミナさんには感謝だ。

 ……魔法がかかってるせいで、魔力量の多い俺くらいしか使えないみたいだけど。


「黒い剣……何か魔法がかかってそうだな。Aランクともなれば、それくらいの物は持っているか」


 さすがはBランクに近い(本人談)Cランクだ。

 一目で剣に魔法がかかっている事を見抜いた。

 見た目で普通の剣とは違うから……わかるのも当然かもしれないけど。


「それはともかく……どうしますか? ソフィー達の方へ戻るなら、道を切り開きますよ?」


 俺の持つ剣を、興味がありそうな表情で見るルギネさんに、問いかける。

 俺が割って入った時には、まだ人間が通れるくらいの隙間があったんだけど、今はもう完全に囲まれてる。

 動きはそれほど早くないし、軽々と斬って見せたためにマギアプソプションの方も警戒しているのか、一気に襲ってきたりはしていない。

 だけど、じりじりと包囲は狭まって来ているし、いつかは俺達に向かって来るだろう。


 まぁ、大きさはそれほどでもないから、マギアプソプション越しに皆の様子は見えるんだけどね。

 モニカさん達が、俺達の事を一切心配してないのが少し気になるけど……というかルギネさんも心配されてない様子だね。

 ルギネさんの事をそれ程信頼しているのか……まさか、俺がいるから大丈夫だと考えているわけではないと思う。

 今日初めて会ったばかりだし。


「ふん! 助けてもらわなくとも、一人でなんとかできた。さっきは少し油断しただけだ!」

「そうなんですか?」


 俺に対し強がって見せるルギネさん。

 けど、Bランクに近い(本人談)Cランクとはいえ、完全に囲まれているこの状況を一人でなんとかするのは、ちょっと無理がありそうだけどなぁ。

 そう思っていると、鋭い目でジリジリと迫って来るマギアプソプションを睨みながら、持っていた盾を地面に置き、剣を鞘にしまう。

 武器をしまってどうするんだろうと思っていたら、背中に背負っていた大きな両手剣を持ち、鞘から抜いて構えた。


 成る程……防御重視じゃなくて、攻撃重視で行くわけだね。

 けど、囲まれてる状況で、重そうな剣を持つのはどうなんだろう?



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