第417話 見晴らしの良すぎる農場



「そういう訳で、ルギネ達リリーフラワーのメンバーとは、古い……と言う程でもないが、それなりの付き合いだな」

「そうなんだね」


 俺はまだ、冒険者になって数カ月程度だから、同じ冒険者の知り合いというのは少ない。

 ヘルサルの防衛戦の時、話をしたり協力し合った人達くらいは、一応顔見知り程度にはなってるけど、親しく話す間柄という程でもないしね。

 俺よりも長く冒険者をやってるソフィーだから、やっぱりそれなりに知り合いとかいるんだろうなぁ。

 王都でも、情報を集めるために複数あるギルドを回って、知り合いと話してたみたいだし。

 俺にもそのうち、そういった知り合いの冒険者とかが増えて行くのかな?


「そういえば、アンリさんなんだけど……」

「うん? やっぱりリクも男として、アンリの事が気になるか?」

「……」

「いやいや、そうじゃなくてね。あの背中に背負ってた斧だよ」


 ふと思い至って、アンリさんの事を思い出しながら名前を出すと、何やら面白いものを見るような目つきになったソフィー。

 一緒に歩いてるモニカさんは何も声を出さないが、少しだけ不機嫌な雰囲気を出している。

 確かに、アンリさんの醸し出されいる色気は、男として気にならないと言えば嘘になるけど……今はその事じゃない。


「あぁ、あれか。確かに気になってもおかしくないな」

「うん。アンリさん、あまりそんな雰囲気はなかったけど……あんな大きな斧、使えるのかな?」

「初めて見たらそう考える事が多いようだな。だが、あれでアンリはあの斧を軽々と振り回すぞ。さすがに両手で持っているが……片手でも少しは使えるんじゃないか?」

「え……」


 見た目からもわかる通り、斧って剣より重い事が多いのが普通だと思う。

 以前出会った事のあるフィネさんは、小柄でも斧を使ってたけど、あれは投擲用に軽量化されて、小さい斧だった。

 あれだけでも、結構投げるのに力が入りそうなくらいだけど、アンリさんは巨大な斧を軽々と振り回すらしい。

 斧の刃は両刃で大きく、背中に背負っていても体の左右からはみ出るくらいだったし、長さもそれなりにあった。


 俺が持ってる剣よりも、よっぽど大きくで重そうだったのに……。

 筋骨隆々のヴェンツェルさんや、マックスさんが振り回している姿は簡単に想像できるけど、細身のアンリさんが振り回す姿は想像しづらい……ちょっと見てみたいな。

 そう思ったけど、言葉にするのは躊躇われた。

 ……だって、アンリさんの話になってから、モニカさんから黒いオーラのようなものが滲み出てるから。

 なんとなく、武器に関する事とはいえ、俺がアンリさんに興味があるなんて事を言ってはいけない気がした。



「あー、久々にヘルサルの外に来たなぁ……」

「まぁ、王都に行って以来だしな」

「リクさんは、最近王城から気軽に外へ出られないしね」

「見晴らしが良いわね?」


 適当な雑談をしつつ、ヘルサルの外壁の外へ出て、少しだけ懐かしい気分と清々しい気分になる。

 王都から外へ出る事はあったけど、あんまり自由な行動をしてなかったからね。

 それに、ゴブリンの大群と戦った場所でもあるから、感慨深いのかもしれないね。

 周囲を見渡して、息を吐く俺に、ソフィーとモニカさんから声をかけられる。


 モニカさんは、アンリさんの話を止めてしばらくすると、いつもの雰囲気に戻っていた……良かった。

 フィリーナは外壁から出てすぐ、荒野ではないけど、地平線まで見えるような見晴らしの良さにめを見張っている。

 それは多分……俺の魔法のせいです……。


「大きくなるのだわ?」

「いや、歩いて行こう。たまにはいいだろう?」

「まぁ、いいのだわ……でも、早くするのだわ」

「はいはい。そこまで急がなくても、キューは逃げないからさ」


 モニカさんの腕に抱かれていたエルサが、ふわりと浮かんで俺の前に飛んで来て、大きくなろうとする。

 農場予定地は、街を出て少し歩くから大きくなって俺達を運んでくれようとしたんだろう。

 まぁ、早くキューを作付けして欲しいからなんだろうけど。

 ともかく、俺はエルサを止めて、いつものように頭にドッキングさせる。


 ヘルサルの人達は、以前の防衛戦の時にエルサが大きくなっているのを見ているから、大丈夫だとは思うけど……まだ街が近いしね。

 それに、新しくヘルサルに来た人が驚いてもいけないし……時間に余裕はあるから、焦る必要はないと思う。

 今日やる事は、農場予定地をフィリーナがメインで調査する事と、見つけたらマギアプソプションを討伐するくらいだし。

 早く調査して、魔力溜まりをどうするか考える時間も必要かもしれないけど、それは後でもできる事だし……一分一秒を争う状況でもないから、のんびり行こう。


「でも、本当にここらには何もないのね。逆に農地としてどうなのかしら……?」

「そうなの? まぁ、今はまだ作物を植える前だから何もないけど……この方がやりやすいんじゃない?」


 遮る物がないから、遠くまで見える分便利な気がするんだけど。

 農作業をするには、日当たりが良すぎて辛いという事はあるかもしれないけど……作物に日が当たるのは悪い事じゃないはずだ。

 周囲を見渡しながら首を傾げるフィリーナを見ながら、俺も首を傾げる。


「そうでもないわよ。見晴らしがよすぎるから……遠くから迫る魔物に気付くのは早いでしょうけど……逆に魔物を遮る物がなさ過ぎて、一直線に来てしまうわ。逃げたり隠れたりもできないし……」

「……魔物が来たら、と考えると確かに……」

「それに、普通は風よけに木がある方がいいのよ。多少の雨風なら大丈夫でしょうけど、強風が吹いたら、作物が飛ばされかねないわ。他にも……川とか……は手間でも水を運んで来ればいいんだし、なんとかなるか……」

「ただ開けた場所の方が、農地としていいとは限らないんだねぇ」


 俺が思い浮かべてるのは、日本にある田畑だけど……あまり詳しく見た事がないからね。

 大体は、開けた場所に大きな田んぼや畑があったというイメージだ。

 まぁ、遠くに山や川はあったと思うけど。

 今俺達がいる場所は、遠くに視線をやれば地平線が見える程だから、山は当然見当たらない。


 フィリーナが言う風よけの木も当然ないから、魔物の方がこちらを先に見つけらる可能性もある。

 こちらも魔物を遠くで見つけられる利点もある代わりに、身を隠す場所もないから、襲って来たら街へ避難するしかできないか……。

 街に近い場所だから、なんとかなるとは思うけど……結構色々考えないといけないものなんだなぁ。


「まぁエルフで、木々に囲まれてるのが当然の状況で育った私だから、そう思うのかもしれないけどね。この街がここを農地にすると決めたのなら、ちょっとした問題は対処できるようになってるんでしょう」

「……多分? そういう話はクラウスさんとしてないからわからないけど、ちゃんとやってると思うよ。ヘルサルの近くに、センテって街があってね。そこは農業の盛んな場所らしくて、そこの人達とも話したらしいからね」

「確かにそう言ってたわね。なら、問題ないか。まぁ、私達の仕事は魔力溜まりの調査だし、土への影響を見るだけで大丈夫そうね」


 フィリーナと話しながら、農場予定地へと歩く。

 農地としてどう運営するかは、センテから助言を得て行っていると言っていたから、フィリーナが考えた問題も、何かの解決策があるんだろう。

 既に農地として使う事を決めてるようだし、準備も終わってる。

 人を使って、周囲に目隠しや風よけの木々を植えたりするという事も考えられるしね。



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