第418話 遠目には見えづらいマギアプソプション



「農地の問題はいいんだけど……この広さは凄いわね。ゴブリンの大群と戦ったのは聞いたけど、これだけ広ければ、押し寄せて来るゴブリン達と戦うのは厳しかったんじゃない?」

「いや、それがなぁ……」

「そうね……」

「ん? どうかしたの?」


 農地に問題はないだろうと結論付け、改めて感心した様子のフィリーナ。

 ゴブリンの大群が、この広い場所から押し寄せて来たと考えてるみたいで、フィリーナの言葉を聞いたソフィーとモニカさんは、少し言いづらそうにしている。


「いや、元々この場所には林があったんだ。森という程、木々は密集していなかったが、それなりに広い範囲でな。ゴブリン達も、木々の合間を抜けるように来ていたから、何もないよりは進行が遅かった。だが、それが……」

「ゴブリンと一緒に、リクさんが魔法で……」

「……」

「あはははは……」

「……あれはやりすぎなのだわ」

「見たかったのー」


 簡単にソフィーが説明し、モニカさんが結果を付け加える

 二人の言葉に、絶句したフィリーナが驚愕の表情で俺を見るけど……苦笑するしかないよね。

 エルサは頭にくっ付いたまま、溜め息を吐くように言い、ユノは興味深そうに目をクリクリさせてる。

 あの時の事はよく覚えてるけど、マックスさんが怪我をしたからって、やり過ぎだったと思う。


 姉さんと再会して、封印していた記憶が云々という事はあるけど……さすがにね。

 それに、今ならもっと別の魔法でゴブリンを殲滅する方法があったと思う。

 水を大量に発生させて、ヘルサルに近付いたら足元を凍らせて、動きが止まったところを倒すとか……ヘルサルのこちら側に結界を張って、ゴブリン達を押しとどめつつ数を減らしていくとかね。


「……改めて、英雄と呼ばれる所以がわかる気がするわ。ほんと……これだけの規模の魔法を、私達の住む場所で使われなかった事を、幸いと思うしかないわね」

「いや、さすがにやり過ぎたと反省してるから、もう使う事はない……と思うよ?」

「……そう願うわ」

「リクだからなぁ……」

「そうね、リクさんだしね」


 驚きから呆れの表情に変わったフィリーナは、俺がエルフの集落へ行った時、同じ魔法を使わなかった事に安堵しているようだ。

 けど、範囲もそうだけど、あの魔法はもう使わないと思う。

 そのために、イメージを固定化するための魔法名とか、決めてないしね。

 もしエルフの集落で、同じ事をしていたら……ヘルサルの外壁が解ける程だったから、集落そのものが危ないから。

 そう考えてるんだけど、ソフィーとモニカさんは、違う意見のようだ。


 俺って、そんなに見境なく見えるのかな?

 いや、失敗はよくするけども……。


「そんなに、俺って信用ないかな?」

「信用はしてるのよ? でも、いざという時周囲の影響がスコッと抜けそうで……リクさん、敵には厳しいから」

「私も信用している。リクがいなければ、危ないだけで済ませられない事も多かったしな。まぁ、もう少し周囲を考えて欲しいと思う事は……あるが……」

「王城での事もあるしねぇ。城門前の魔物を一掃する時、人には被害はなかったようだけど、物には被害があったようだし。おかげで多くの人が助かったから、人への被害には変えられないけどね」

「……そういう事もあったね、うん。ゴメンナサイ、これからはもっと周囲に気を付けます」


 なんというか、周囲へ何かしらの被害……主に人以外の物へ被害が出る事に関して、おかしな感じで信頼されてるようだ。

 これに関しては、思い当たる節があり過ぎるというか、自分でも反省している事なので、気を付けるようにするしかない。

 ジト目で過去の状況を言われた俺は、謝って反省しきりだ。


「ふふふ、冗談よ。周囲への影響は考えて欲しいけど、リクさんの事は信頼しているわ」

「そうだな。リクがいなければ、今頃どうしていたか……まぁ、生きていない可能性が高いな。感謝しているぞ、リク」

「エルフの集落も、私やアルネもそうね。周囲への影響を差し置いても、沢山の人を救っているわ。それこそ、多少物へ被害が出ても気にならないくらいにね?」

「そ、そうなんだ……」


 体を小さくしながら謝る俺に、ジト目だった三人はすぐに表情を崩し、笑顔で信頼と感謝を伝えられる。

 ……ちょっと照れ臭いね。

 でも、悪い気分どころか、嬉しくなるくらいだから、これからも頑張ろうという気になる。

 もちろん、今までの事を反省して、調子に乗ったりしないよう注意しながら、周囲への影響もちゃんと考えるように気を付けるけどね。


「それにしても……」


 談笑しながら歩き、随分近くなった農場予定地を見渡しながら呟く。

 農場は、既に四角く区分けされていて、畑と畑の間に人や馬が通る程度の道が作られていたりと、準備は順調のように見える。

 離れた場所からだけど、半分以上が耕されていて、種を蒔いたりする直前の状況のようだ。

 また耕されていない場所は、これから順次耕していくんだろう。


「どうしたの、リクさん?」


 俺の呟きに反応したモニカさんが、こちらに視線を向ける。


「うーん、ここまで近づいたのに、マギアプソプションらしき姿が見えないなぁ、って。他の魔物もいないし……遮蔽物のない場所だから、遠目からでも見えるんじゃないかと思ってたんだけど。」

「確かにリクさんの言うとおりね……」

「その事ね。それなら仕方ないわ」

「どうしてだ?」


 遠目に耕された畑を見ながら、マギアプソプションらしき姿を探すけど、それらしい姿は見えない。

 俺の言葉に、キョロキョロさせて周囲を見渡したモニカさんも同意してくれた。

 けど、フィリーナはそれも当然とばかりに頷く。

 同じく周囲を見ていたソフィーが、フィリーナに問いかける。


「マギアプソプションは、ミミズのように地を這っているわ。しかも、体が土の色と同じで保護色なのよ。遠くから見ても、発見できない事がほとんどね。例外として、討伐に来た人間と対峙していたりすると、触角で攻撃するために鎌首を持ち上げてたりして、離れてても見えるけどね」

「それなら確かに、見つからないのも無理はないね」


 土の色と同じで地面に張り付いてるなら、近付いてみないと発見できないね。

 多少動いてたとしても、大きな体というわけでもないようだし、動きも鈍そうだから、遠目に見る分にはあまり違和感を感じないと思う。

 動きが鈍いってのは、ミミズと同じと聞いて何となくなイメージだけど。


「土の色に自分の体を変えたりもするみたいだし、体の半分を土の中に埋もれさせたりもするから、もっと近付かないと発見出来そうにないわね。それこそ、リクの探査魔法のようなものがあれば、別だけど……」

「それなんだけど……実はさっきから探査魔法を使ってるんだ。けど……」

「けど?」


 探査魔法自体は、ヘルサルを出てしばらくしてから使ってる。

 驚異の少ない魔物と言っても、急に後ろから襲い掛かられたら危険だからね。

 できるだけ怪我をするような危険は避けたいし、魔物がいるとわかってるんだから、前もって調べようと考えてた。

 けど……フィリーナに言われて、少しだけ意識を探査の方へ向けつつ、結果を皆に教えた。



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