第415話 勝負は回避



「ふん! どうせソフィーに頼ってばかりで、まともに戦えないんだろう!?」

「リクのどこを見て、そう判断するのかはわからないが……ルギネ、確かまだCランクだったよな?」

「そうだ! もうすぐBランクになる見込みだ!」

「そうか、Bランク間近か。頑張ってるな。……ちなみにリクは、Aランクだぞ?」

「…………は?」

「しかも、ギルド史上に残る最速でランクを駆けあがった。このヘルサルのギルドだけでなく、センテのギルド、王都にある中央ギルドも、リクには期待している。中央ギルドに行けば、ギルドマスターがわざわざ出てくるくらいだしな」

「「「「…………」」」」

「マティルデさんだね……確かに行くといつも対応してくれるけど、暇なのかな?」

「いや、リクさん。ギルドマスターが暇なわけないわよ? リクさんだからだし、ここでも副ギルドマスターのヤンさんが対応してくれてるでしょ?」


 そういうものかな……まぁ確かにヤンさんとか、忙しそうにしてる事が多いような気はするけど。

 日々魔物の討伐やら、依頼の処理やらが必要な冒険者ギルドで、管理する側であるギルドマスターとかが暇なわけないか……パレードではマティルデさんが何かやってたけど、あれは例外だよね、うん。


「どうやってリクと勝負する気だったのかわからないが……冒険者同士だ、模擬戦とか魔物の討伐とかで勝負する事になるんだろう。Aランクの冒険者が、Cランクの冒険者に負けると思うか?」

「……」

「さらに付け加えるなら、とある貴族の騎士団がリクと訓練をして、1対1を繰り返して数十人がリク一人に数回負けた。王都の軍でも似たような事はあったな。そんなリクに、ルギネは敵うと考えるのか?」


 追い打ちをかけるように、ルギネさんへと俺の事を説明し続けるソフィー。

 王都の軍というのは、ヴェンツェルさんの事だろうけど……とある貴族の騎士団って、クレメン子爵の騎士団の事だろうと思う。

 あの時ソフィーはいなかったと思うけど……多分、モニカさん辺りが誇張して話したのかもしれないね。

 ソフィーの説明を聞いているリリーフラワーのメンバーは、全員言葉をなくしている様子で、ルギネさんに至っては、口を開けたまま絶句している。


「人相手だけでなく、魔物相手でもだな。聞いた事はないか? 冒険者でヘルサルや王都を救い、最高勲章を授けられた者がいると言うのを」

「……まさか」

「そのまさかだ。名前で気付くと思ったんだが……まぁ、ルギネは名前よりもリクの事を男だからとしか見ていないか。ともかく、王都やヘルサルが危機に陥る程魔物が押し寄せてきたにも関わらず、リクはあっさりとそれを退けたうえで、怪我一つしていないんだ」


 んー……そういえば、俺ってこの世界に来て魔物相手に怪我をした事ってなかったね。

 まぁ、もし怪我をしたとしても、治癒魔法で治すんだけど……怪我をしないのは、エルサとの契約のおかげもあるんだよね。

 大量の魔力も相俟って、戦闘中の防御はドラゴン並みだとかなんとか……。


「……ルギネぇ、無謀よ?」

「お姉さま、止めましょう。殺されます」

「そうね。戦力差は歴然としているわ。勝てる見込みがなさすぎる。焦げた肉のように」


 ルギネさん以外のメンバーは、止めるように声をかける。

 とりあえずグリンデさん、俺と戦ったとしても殺したりはしないから、そんな物騒な事を俺はしないから。

 あと、ミームさんは焦げた肉にこだわり過ぎだと思う……。


「……くっ……覚えてろ! きっと、きっとソフィーを男の魔の手から救い出して見せるからな!」

「あ、ルギネ!」

「お姉さま、待って!」

「逃げ足速いなぁ、ルギネ。焦げた肉のように追いかけましょう」

「はぁ……魔の手が私に伸びて来るなんて事は、ないんだがなぁ……」


 捨て台詞のようなものを残し、今まで俺を睨んでいたルギネさんがくるりと反転。

 建物の出入り口に走って、出て行ってしまう。

 グリンデさんとミームさんは、すぐにそれを追いかけるように去って行き、ソフィーが溜め息を吐いた。

 ……何だったんだろうなぁ。


「ごめんねぇ、絡んじゃって」

「いや、アンリも大変だな」

「まぁねぇ。でも、直情型のルギネだから、他の皆も慕ってるところもあるのよぉ?」

「はは、相変わらずのようだ。まぁ、リクも気にしていないようだし、大丈夫だ」

「え、あ、うん。大丈夫。ちょっと驚いたけどね……」

「さすが、英雄様は心が広いわねぇ。それじゃ、お騒がせしましたぁ」


 唯一この場残ったアンリさんが俺達に謝るように、頭を下げる。

 ソフィーとも少し話しているけど、この人が一番話が通じそうだね……焦げた肉にこだわらないし……って、俺にもうつっちゃったかな?

 ともかく、俺の表情をちらりと見たソフィーが、アンリさんにフォローをするように言い、それに同意する。

 いきなりの事で、気分を悪くする以前の問題だけど、俺は特に気にしてない。


 ルギネさんに絡まれて驚いたけど、あれは俺だからじゃなく、ソフィーと近い男だからってだけだろうしね。

 怒るとか気を悪くするとかって感じじゃない。

 男嫌いも大変だなぁ……くらいの感想だ。


 俺達に謝って、頭を下げたアンリさんは、ゆっくりと歩いて冒険者ギルドを出て行った。

 最初から最後まで、眠そうな目でゆったりした雰囲気を崩さない人だったね。

 リーダーのルギネさんが、突っ走ってしまう直情型のようで、パーティにはああいう調整役が必要なのかもしれない。

 俺達で言うと……モニカさんのような役割……かな?


「……」

「リクさん……?」

「あ、いや……なんでもないよ、うん」

「……まぁ、アンリは女の私から見ても、異常な程の色気を醸し出しているからな。リクが見とれるのも無理はない」

「いや、その……そんなつもりはないんだよ?」

「リクもやはり男だという事だろう。モニカ、これくらいは許してやれ?」

「……わかってるわよ。はぁ……むしろいい事なのかもね、今までそういう事に興味がないようにも見えてたから……」

「?」


 ゆっくりと去っていくアンリさんの後ろ姿を、ぼんやり眺めていると、隣のモニカさんからジト目で見られた。

 ソフィーさんも言っているように、確かに異様な色気を感じる。

 何か怪しいような雰囲気にも見えるんだけど、それの正体がつかめず、気になるって程度だったんだけど、モニカさんやソフィーには、俺が見とれてたように見えたらしい。

 いや、お尻を振りながら歩いて行くのを、ジッと見てたのは間違いないんだけどね。


 弁解する俺を見て、慰めるように言うソフィーと、溜め息を吐くモニカさん。

 二人が何を話しているのかはよくわからず、俺は首を傾げるだけだ。


「話は終わったようね」

「フィリーナ」

「私が近くにいたら、複雑になってたでしょうから、離れて見てたわ」


 リリーフラワーの人達が去って行った後、離れていたフィリーナがこちらに来て話しかけて来た。

 確かに、エルフであるフィリーナも一緒にいたら、話がややこしくなったかもしれないね。

 特に、ルギネさんは女性に対して色々とあるようだから、もしかするとフィリーナを見たら黙っていられなかったと思うし。

 日頃好奇の視線にさらされる事があるフィリーナだから、変にややこしくしたりしないよう、離れてたんだろう。


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