第414話 信号機パーティ



 冒険者パーティ、リリーフラワーのメンバー三人目、ミームさん。

 青い髪を肩口まで伸ばしており、一番冷静な目でこの場を見ている気がする。

 一番、話が通じそうな気がするけど……焦げた肉ってなんだろう……いや、好きな人はいないと思うんだけど。

 ミームさんは目立つ武器を持っていない事から、後方で魔法を使ったりするのかもしれない。

 全身をローブのような物ですっぽり覆ってるしね……だから体格とかはよくわからないけど。


 そしてパーティリーダーのルギネさん。

 赤い髪を短く切りそろえて、釣り目をキリッとさせているその顔は、ソフィー以上に凛々しく中性的な印象を受ける。

 なんだろう……宝塚的な感じと言えば、わかりやすいか。

 身長もパーティで一番高く、俺と同じくらいで、スラっとしている。

 横に置いてある荷物の上に剣や盾があったり、背中に両手剣と見られる大きな剣を背負っている事から、パーティの前衛を務めている事がわかる。

 問題はその恰好だ。

 どこぞのゲームに出て来る女戦士のような赤い鎧だけど、大事な部分しか隠しておらず、目のやり場に困る。

 これで体を守るって、魔法的な補助でもない限り無理な気がするんだけど……?


「リクさんねぇ? 私はアンリ。よろしくねぇ?」

「……私はグリンデ」

「ミームです。焦げた肉のようによろしくお願い」

「はぁ……えっと、よろしくお願いします」

「何を悠長に挨拶してる! ソフィーが男といるんだぞ!? 小さな子供もいるし……これは由々しき事態だ!」


 ソフィーの紹介により、それぞれ声を上げて俺に挨拶。

 それに応えるように、会釈しつつ挨拶を返していると、再び叫ぶルギネさん。

 そんなに叫んで、喉が痛くらないんだろうか……?

 というより、ミームさんだっけ? 焦げた肉のようにってどういう事?

 嫌われてるのかな……初対面なのに。


 それにしても、冒険者パーティ、リリーフラワーのメンバーは皆髪の色がはっきりと別れて、誰が誰か覚えやすいね。

 リーダーのルギネさんからして、真っ赤な髪……赤、青、黄色、緑……信号機かな?

 緑の髪をしているアンリさんと、青い髪のミームさんは無害そうだし……焦げた肉は置いておく。

 黄色の髪をしたグリンデさんは、ルギネさんと同じくこっちを睨んでて剣呑だし、赤い髪のルギネさんは、敵視すらしてるような目でこちらを見ている。

 うん、信号機パーティ……とか考えて笑いそうになるのは失礼だから、表に出さないように気を付けよう。

 信号機が何か知らないだろうけどね。


「ともかく、どういう事なんだ、ソフィー! 私とではなく、そんな男とパーティを組むなんて!」

「どういう事と言われてもな……」


 何やらルギネさんは、俺という男とソフィーがパーティを組んだのが気に食わない様子。

 確かにソフィーは、知り合った時誰ともパーティを組まずにソロで活動していたから、久しぶりに会って驚いたのかもしれないけど……そんなに驚く事かな?

 色んなパーティから勧誘を受けてて、それを断ってたというのは、以前聞いたけども。


「あれだけ私達の誘いを断っていたというのに……男なんだな!? やっぱり男なのか!」

「いや、確かにリクは男だが……別にだからというわけでは……」

「私という者がありながら、男にほだされるとは……!」

「ほだされるって……ソフィーは自分で決めて、一緒にパーティを組んでくれただけですけど……?」

「黙れ! 男が私に話し掛けるな!」

「えぇ……」


 なおもソフィーに言い募るルギネさん。

 困ったようにしているソフィーをフォローするため、俺からルギネさんに声をかけたんだけど、それは睨みと叫びで拒否された。

 もしかして、男嫌いなのかな……?

 というか、女性だけのパーティで、ソフィーを勧誘してて、男嫌い……。


 パーティ名はリリーフラワー……リリー……確かリリーってユノ事だったよね、えっと……百合の花?

 百合、百合ねぇ……そういう事か。


「えっと、ルギネさん? 俺とソフィーは単純に冒険者として、お互い活動に必要だからパーティを組んでいるだけですよ? 邪推するような仲ではないですから……」

「うるさい! そうやって適当な事を言って、ソフィーを垂らし込んだに違いないんだろう!」

「えぇ……」


 ルギネさんが何に怒っているのか、なんとなく察した俺は、ソフィーとはそういう間柄ではないと、弁解するも、やはり聞く耳を持ってくれない。

 ……どうしたら納得してくれるのか。

 というより、これだけ男に拒否反応を示して、ソフィーの事に対して感情をむき出しにするという事は、間違いなんだろう。

 後ろに三人も他の女性がいるのに……世の中には、色んな人がいるんだなぁ。


「……そうか、わかったぞ」

「ルギネ?」

「どうかしましたか?」


 俺を睨み、叫んでいたルギネさんが、唐突に何かを思いついたように静かになる。

 その様子に、俺だけでなく他の皆も首を傾げている。

 ……なんだか、嫌な予感がして来たけど……気のせいだといいな。


「リクと言ったな。お前、私と勝負しろ!」

「……勝負ですか?」

「はぁ……ルギネ……。リクに敵うとでも思っているのか?」

「はん! 男なんかに私が負けるわけがない!」


 その自信はどこから来るのか疑問ではあるけど、ともあれルギネさんはソフィーを巡って、俺と勝負をしたいという事らしい。

 何故、俺と勝負をしたらソフィーを……と考えられるのか、その思考回路が不思議だけど……。

 ともあれ、ルギネさんにとって、男に負ける事はないのだと信じているようだ。

 体を守っているのか不思議な鎧はさておいて、身のこなしは悪くなさそうだし、使い込んだ剣や盾をみるに、かなり戦えそう、かな。

 少なくとも、低ランクの冒険者ではないように見える。

 もちろん、後ろにいる同じパーティの人達も同様だ……アンリさんのデカい斧だけが、異様に目立ってるけど……。


「ルギネ、冷静になれ」

「私は冷静だ! こんな大して強そうでもない男に、私が負けるわけがないだろう! 待っていろソフィー、すぐにその男から取り返して見せる!」

「取り返すも何も、私は元々リクのものでも、ましてやルギネのものでもないんだがな……ともかく、無謀すぎるぞ?」


 大して強そうでもないかぁ……そう見えるのかな、俺って?

 まぁ、大柄で見るからに強そうなマックスさんや、ヴェンツェルさんに比べれば、確かに弱そうに見えるかもね。

 あまり筋肉がある方ではないし……確かに強そうには見えないか。

 自分の体を見下ろし、納得している俺を放っておいて、ルギネさんとソフィーが話してる。


「何を言っているソフィー! そこの男がパーティリーダという事だが、ほとんどソフィーがいるおかげで何とかやっていけているだけだろう!」

「いや……むしろ私は足手まといなくらいなんだが……本来、リク一人で全てできるしな。なぁ、モニカ?」

「……そうね。たまに、私達は必要なのか疑問に思うくらいよ」

「いやいや、モニカさんやソフィーには、いつも助けてもらってるよ。足手まといだなんで、思うわけがないからね?」


 ソフィーやモニカさんが足手まといなんて、あるわけがない。

 二人には色々と助けてもらってる。

 二人がいなかったら、まともに冒険者として活動できなかったんじゃないか? と思ってるくらいだ。

 特に、野宿とかまともにできなかっただろうしなぁ……。

 魔物と戦うのだって、俺一人じゃなく協力して討伐した方が、周囲に被害を出さなくて済むしね。

 そう考えて声を出すけど、ルギネさんはやっぱり聞く耳を持たないらしい。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る