第396話 リクとエルサの噂
「そして、その噂がパレードでリク様のお顔を知った人達の間で広まったと……そこから、リク様やエルサ様にあやかろうと、キューを求める人が増えたのでは……との推測です」
「俺達の……? キューを食べても、何かあるわけではありませんが……」
「それは当然、民達もわかっているでしょう。ですが、英雄であり、陛下とも仲の良いリク様が食べていた物なのです。早い話が、爆発的に流行している食べ物……という事になるのかと」
キューを食べたからと言って、急に強くなったり、ドラゴンと契約できたりはしない。
いや、エルサと契約できたのは、キューのおかげもあるかもしれないけど。
ともかく、キューを大量に買って、大量に食べたとしても、魔物を倒す力を得る事はできない。
それなのに、王都の人達はそれを求めて、多く買っているというわけか……。
日本で言うと、有名な人が、これは体に良い! とか、これを食べて痩せました!
なんて言ってた物が、人気になって売れ始める……という事に近いのかもしれない。
俺、タレント扱い?
「ただ、それだけが原因の全てではないようです」
「そうなんですか?」
「王都には、各地から物が入って来ます。もちろん、キューもその一つですが……王都の民達が多く買い求めたとして、こんなに早くの価格上昇と、不足を招くとは考えられません」
「まぁ、どれだけの人が買う量を増やしているのかはわかりませんが……徐々に影響が出て来るはずですね」
流通に関して詳しくないうえ、この世界のこの国でどう行われてるのか、俺は知らない。
だけど、各地から入って来る物は、年に一回とか数カ月に一回とかではないはずだ。
それぞれ別々に入って来るだろうし、同じ場所でも数回に分けて……という事もあるだろう。
そうなると、数日で突然価格が上昇し、キューが品薄になるというのは考えづらい。
「ですので、王都にて、パレードや町を歩くリク様を見た者達が、王都の外へと広めている可能性が考えられます」
「王都の外へ?」
「はい。王都は人の出入りも多いので……キューの噂を聞いた者、噂を発信している者が王都の外へ広がり、それが徐々にキューの消費を促しているのではないかと……」
「パレードを見ていないのにですか?」
「リク様の事は、最高勲章を授与された方として……そして、王城への魔物襲撃を退けた功労者として、さらには、史上最速のAランク昇格を果たした冒険者という事が、各地に広まっています。特に、勲章授与とAランクに関しては、国内の主要な街では知られている事かと」
「冒険者ランクの方もですか? けどあれは、魔物襲撃よりも後の話ですけど……」
実際に魔物に襲われたヘルサルや、近くのセンテ。
王都やエルフの集落とかで広まっているだけなら、わからなくもないんだけど……。
まぁ、勲章授与に関しては、アテトリア王国全域に報せて貴族の人達も集めたから、広まっていてもおかしくないか。
ただ、Aランクになったのが広まったのは、早すぎる気がする。
あれって王城への魔物襲撃後だから、広まる期間としてはまだ短いと思う。
先に魔物襲撃の話が広まる方が、自然に思える。
「冒険者ギルドは、国に寄らない組織です。所属する冒険者達は基本的に自由に行動するので、噂を含めた情報の伝達が早い者と思われます」
自由に行動するってのが、冒険者最大の利点だしね。
ギルド側から、どこそこの街や村へ行ってくれという要請はあるようだけど、それを承諾するのも拒否するのも自由。
しかも要請なんてほとんど出ないから、冒険者達は様々な街や村を行き来して依頼をこなす。
それこそ、国を越える事だってあるようだ。
いこ心地が良いから、長い間特定の街にいる冒険者もいるけどね。
同じ場所に滞在するも、他の場所へ移動するのも、冒険者自身の自由って事だ。
「それと、冒険者ギルド自体も、独自の情報網を持っているので、そこからという可能性もあります」
「あぁ、それはありそうですね」
国を跨ぐ組織なのだから、独自の情報網というのを持っていないといけないだろう。
多分それが、王都で受けた依頼を、別の街でも達成報告できる理由の一つでもあるはずだしね。
情報網がなければ、受けた依頼はそこでしか報告できなくなるはずだし。
「少し話が逸れましたが……そういう事で、王都以外にもリク様達にあやかろうと、キューを買い求める人が増えているようです。そのため、王都へ入って来るキューが減り、王都での消費に追いつけなくなったための、価格上昇と不足に繋がるのではないかと」
「成る程……それは考えられますね」
王都だけの事かと考えていたら、王都の外でもそういった動きが広がって、影響を及ぼしていたらしい。
「さすがに、今朝から調べ始めたので、多くは推測が入っております。仕入れの量が減ったかどうかは、まだ調べられていませんからね」
「でも、確度の高い推測だと思います。……でもそれなら、対処はどうしたら良いのか……」
「そうですね……買う事を止めろとは言えませんし……」
俺やエルサがキューを食べていたという事にあやかって、というのはどうかと思うけど、消費量が多くて数が不足し、価格が上がってしまうから、買うなとは町の人達には言えない。
食料でもあるしなぁ……。
できたとしても、買う量を控えるようにお触れを出すくらいだろうけど、食べ物に関する事だから、反発を招きかねない。
俺が判断できる事じゃないけど……難しい問題だ。
「生産量が増える事が、一番なのですけどね。ですが、農地の確保や農業に従事する者……すぐに増やせるものではありません」
「そうですね。畑を作るにしても、時間はかかりますし……今すぐにでも使える場所と人がいればいいんですが……」
土地はまぁ、人がひしめき合ってるわけじゃないから、何とかなると思う。
けどそれが農地に適しているかわからないし、それを探す手間がある。
さらにそこから、耕したりとの準備をして、そこから種なり苗なりを植えて育てなきゃならない。
人を雇うのも時間がかかるだろうし……今すぐ数を増やせるものじゃないのは、俺でもわかる。
「まぁ、この辺りの事は、俺が考える事じゃないですね。姉さんや、国の偉い人が考えないと。俺じゃ何もできませんから」
「確かに、そうですね。ともあれ、現時点でわかった事の報告でした」
「はい、ありがとうございます。まぁ、俺の方でも一応、何かできる事があるか考えてみます。どうにかしないと、エルサがうるさそうですからね……」
「ふふふ、そうですね」
推測を交えた、ヒルダさんからの報告を終え、結界を解いてエルサ達がいる所へ戻る。
そこれは、飽きもせずユノとレナがエルサをつついていた……まぁ、モフモフは飽きないよな、うん。
エルサは、俺とヒルダさんの行動が気になったのか、ジッとこちらを見ていたけど、何もできる事がない状態で話しても、暴走する可能性があるので、目を逸らして悟られないように気を付けておく。
というか、ユノに鼻を指先でいじられてるのに、何も気にならないのか……?
「……ぶぇっくしょい!! だわぁ……ズズッ」
「エルサ、きちゃないの!」
「わー、エルサ様凄いくしゃみー」
あ、やっぱりくすぐったかったらしい……。
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