第395話 キューの調査途中経過



「起きるのだわ! キューがどうなったのか、聞くのだわ!」


 翌日の朝、俺やユノより早く起きたエルサの声で起こされる。


「キューがなくなる夢を見たのだわ。早くなんとかしないといけないのだわ!」

「夢って……そんなにすぐなくなる物じゃないから……」


 夢を見たと騒ぐエルサ。

 俺とユノ、エルサにとって、夢は特別な意味を持つけど、さすがにそれは大袈裟過ぎる気がする。

 大方、エルサがキューの事を気にし過ぎて見た夢だろう。

 ユノも、特にエルサの夢に何か意味があるようには感じてないみたいだし。


「おはようございます、リク様、エルサ様、ユノ様」

「おはようございます、ヒルダさん」

「キューはどうなったのだわ!?」

「おはようなの!」


 俺達が朝の支度をしていると、ヒルダさんが入って来て挨拶。

 それに返す中、エルサだけは挨拶ではなくキューの事を聞いている。

 気にし過ぎだろう、エルサ……。


「エルサ、まずおはようだろう。ヒルダさんにも失礼だぞ?」

「……わかったのだわ。おはようなのだわ。それで、キューはだわ?」

「そういう事じゃないんだけど……まぁ、挨拶しただけ良しとするか」

「ふふふ、エルサ様はキューの事が気になって仕方ないのですね」


 エルサに注意して、一応の挨拶はしてくれたけど、やっぱりキューが気になるようで、そちらの事ばかり聞いている。

 ヒルダさんは笑いながら、気にしていない様子で良かった。


「では、気になるエルサ様のために……現在、陛下が調査のための人員を招集している段階です。朝食が終わる頃には、調査が開始される運びになります。お昼ごろには、断片的にでも情報が得られる見込みです」

「そんなに早いんですか?」

「陛下が力を入れているという事もありますが……あくまで断片的に、です。原因が究明できたわけではなく、噂程度の情報と考えていた方がよろしいかと思います」

「まぁ、短時間でならそのくらいですか……」


 姉さんは調査に力を入れてくれてるらしい……昨日のエルサの反応を見て、早く調べないと……と考えているのかもしれない。

 城や町を破壊したり、畑を強襲されたらたまらないからね。

 なんだか、国の最高権力者を、ドラゴンを使って脅してる気分だけど……姉さんも漬物が食べたいと考えてるんだろうし、大丈夫だろう。


「昼にはわかるのだわ?」

「まだ、良くて噂くらいだよ。完全に原因がわかるわけじゃないからな?」

「むぅ……だわ」

「エルサ、我慢するの!」


 早く原因を知りたくて仕方ないエルサは、落ち着かない様子だ。

 そんなに焦っても、すぐに情報が入るわけじゃないから、おとなしくしてた方が、疲れないだろうに。

 またむぅむぅ唸り始めたエルサに、ユノが腰に手を当てて叱る。

 その様子は、おませな女の子が犬を叱っているように見えて、微笑ましい。


 けど……よく考えたら、エルサを作ったのはユノなんだよなぁ……。

 今の姿を見る限り、元神様だとか、叱ってる先がドラゴンだとか、想像できないと思う。

 見た目だけでなく、言動も子供っぽくなってるユノだからというのもあるか。


「とにかく、朝食を頂いて昼まで待とう。噂程度でも、何かわかるかもしれないしな」

「……わかったのだわ」

「お腹すいたのー!」

「では、準備をさせて頂きます」


 まずは朝食をと、エルサをおとなしくさせ、ヒルダさんに準備をお願いする。

 しばらくして朝食を頂いた後、レナとメイさんが部屋を訪ねて来た。

 さらに、モニカさん達も部屋に来て、全員が揃う。

 エルサは不満そうにしながらも、一応おとなしくしてくれていた。


 しばらく皆で雑談した後、モニカさんとソフィーが、町へでて調査の協力をすると言ってくれた。

 もちろん、専門ではないから、城の人とは違って有力な情報を得られる可能性は低いけど、手伝えない俺やエルサに代わって動いてくれるのはありがたい。

 フィリーナとアルネも賛同し、目立つエルフという事を考慮して、耳を隠す帽子を被っての参加となった。

 それでも、そこらの人間より目を引く美形だから、目立つのは仕方ないけど……あまり人の多くない場所を選んで調べる事にしたようだ。


 皆が部屋を出て行って、残ったのは俺とエルサ、ユノとレナさん、それとメイさんとヒルダさんだ。

 ユノとレナは、拗ねたように丸まってるエルサを撫でて、少しでも落ち着かせようとしてくれてる……遊んでるだけかも?

 メイさんは、恐る恐るエルサを手で触れては引っ込める……を繰り返してる。

 もしかして、ドラゴンのエルサがちょっと怖いのかな?


「失礼します。ヒルダさん、よろしいでしょうか?」

「はい、私ですか?」


 お昼になる前、兵士さんが一人部屋を訪ねて来て、ヒルダさんと話し始める。

 この部屋に訪ねて来る人で、ヒルダさんをというのは珍しいね。

 いつもは俺を訪ねて来る人が多いのに……。


「わかりました。ご苦労様です」

「はっ!」


 少しの間、ヒルダさんと話した兵士さんは、何かを伝えた後すぐに退室して行った。

 重要な伝達とかだったのかな?


「リク様、予想より早いですが、新しい情報が入りました」

「……今調べてるあれの、ですか?」

「はい」


 今は、エルサがユノ達に構われておとなしいから、刺激しないよう、キューの名前は出さないようにした。

 キューに反応して、またエルサが騒ぎだしたら、ちょっと面倒だしね。

 頷いたヒルダさんと、エルサから距離を離すように、洗面場がある場所へ。

 さらに念のため、声が漏れないように結界を使っておく。

 これで、今のエルサに聞こえて刺激する事はないと思う。


「エルサは耳がいいですからね。それで、新しい情報とは?」

「はい。キューが不足している原因の多くは、王都に住まう民が、大量に買い求めているからかもしれないとの事です」

「王都の人達が?」


 確実な原因とは言えないかもしれないけど、王都の人が多く買えば、確かに不足する事になる。

 でも何故、珍しい物でもないキューが、今突然売れ始めたんだろう?


「それに関しては、どうやらまた別の噂が流れているようです」

「また噂、ですか?」

「そのようです。なんでも、リク様やエルサ様が、好んでキューを食べている……と」

「それ、噂でもなんでもなく、ただの事実ですよね……」


 俺はもちろんキューは好きだし、エルサに至っては言わずもがなだ。


「そうなのですが……まだパレードを行う前、エルサ様を連れたリク様が、キューを買い、食べている姿があちこちで見かけられたのではないかと……」

「あー、それは見られてるでしょうね」


 城下町でキューを買ったり、エルサにキューを食べさせながら歩いていた事もある。

 エルサを頭にくっ付けた俺は、当然目立つから、それを見られていてもおかしくはない。

 それを見た人達が、噂として話して広まって行ったって事か。


 最初は俺達の事をよく知らなかったけど、パレードで顔を見て、初めてキューを食べてた俺やエルサが……と気付いた人達がいたんだろう。

 キューを食べてる俺を見た人が、知り合いに伝えて、その人がまた……というように拡大して行ったんだろう。

 人の噂って、よくわからないけど、広まるのは早いよね……。


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