第397話 キュー対策会議エルサ抜き
大きなくしゃみをして、鼻から垂れた鼻水をすするエルサ。
……ドラゴンでも、くしゃみをして鼻水を出すんだな。
くしゃみをする時、ユノの方へ顔を向けたから、色々と直撃したらしい。
ヒルダさんに近寄って、タオルで拭いてもらうユノ。
「エルサ様、お鼻を……」
横からメイさんが、ハンカチでエルサの鼻周りを拭きながら、ついでとばかりにモフモフを触っていた。
チャンスを窺ってたようだね……。
モフモフに触りたいのなら、素直に言えばいいのに……と思わなくもないけど、メイさんはメイドとして一歩下がって接しているのかもしれない。
一歩下がるのはいいけど、気配は消さないで欲しいけど。
それからしばらく、くしゃみをしたり、鼻を拭かれていても、それを気にする事なく俺をじっと見ているエルサ。
視線をそらしたり、ユノやレナに話を振ったりして、なんとか誤魔化しつつ、和やかな雰囲気でのんびりと過ごした。
多分、誤魔化せた……と思う。
というかエルサ、キューの事を気にし過ぎだろう……。
「さて、皆に集まってもらったのは他でもないわ。キューの価格上昇と、不足に関する事よ」
夕食前、モニカさん達が戻って来た頃を見計らって、兵士さんが部屋まで呼びに来て、連れられて来たのは姉さんの執務室。
歴代の国王が使う執務室だから、綺麗な装飾とかがあって、豪華な部屋かと思ったけど、そんな事はなかった。
俺に用意された部屋より大きいけど、執務室には何かの資料や報告書と思われる、紙束がまとまっておかれてる棚と、本が詰まっている棚。
あとは人間が寝転がれるくらいの、大きな机と革張りの椅子。
その椅子に座ってる姉さんの後ろに、国旗が掲げられているくらいだ。
質素というか、本当にただ仕事をするだけの部屋って感じだね。
俺達が執務室に入ると、人払いをしてフランクに話す体勢になる姉さん。
ここに来たのは、町への聞き込みをした仲間の中で、モニカさんが代表として来た事以外に、俺とヒルダさん、貴族としてエフライム、国内外の情報を扱う部隊長としてハーロルトさんだ。
エルサは、話を聞いて変に暴走しないよう、部屋に置いてきてソフィー達に任せてある。
まぁ、離れるためにここへ集合したんだしね。
「……エルサちゃんは?」
「ソフィー達が見てるよ。エルサは耳がいいけど、さすがにこれだけ離れてたら、聞こえないと思う」
「そう。聞かせられない話じゃないけど、突然行動されるといけないからね。おとなしくしていてもらいましょう」
集まった目的を言った後、俺の頭を見た姉さんに、エルサがどうしてるのかを聞かれた。
執務室は、俺がいた部屋とは階層も違い、城の中でも離れた場所にある。
これだけ離れてたら、結界を使わなくとも、エルサに聞こえる事はないだろう。
俺とユノがいれば止められるとは思うけど、いらぬ騒ぎを起こす必要もないしね。
「それじゃ、会議を始めましょう。まずは……ハーロルト?」
「はっ! 部下に調べさせた情報を報告させて頂きます!」
エルサには聞かれないだろうという事で、ホッとした様子の姉さんが、ハーロルトさんを指名し、まずは報告が始まる。
何か調べる事あると、ハーロルトさんが動く事になるのか……情報部隊だからだろうけど。
最高権力者の姉さんが直々に、という事もあるんだろうけどね。
「町では、リク様やエルサ様がキューを食べている姿を……」
ハーロルトさんが報告する内容は、昼食前にヒルダさんから聞いた事がまず一つ。
その他に、噂が広まっている範囲等の情報だった。
正確にはまだ調査中らしいけど、まだ王都から近い街や村くらいまでしか広まっていない、との事だ。
だけど、この先広い範囲で噂が広まると、キューの供給が追い付かないだろう事と、生産は問題なく行われており、魔物からの襲撃で数が減ったのは微々たるものであろうという事も、報告された。
オシグ村でも、余り被害は大きくなかったからね。
魔物による被害はあれど、他も似たようなものだったんだろう。
「ハーロルトからの報告だと、このまま放っておくと、消費は増えるばかりという事ね?」
「はっ! リク様に関する噂は根強く、また、皆歓迎しているため、風化を待つよりは広まりの方が早いと思われます。さらに、陛下とリク様に関する噂も、消費に拍車をかけている模様です」
「あの噂かぁ……」
例の、俺と姉さんがお似合いだとかなんとかって噂の事だね。
「キューを食べる事で、リク様のように強く……また、幸せな家庭を築ける……という噂もあるようです」
「はぁ……噂には尾ひれ背びれが付くのは、よくある事だけど……また荒唐無稽な噂ね」
ハーロルトさんが報告する噂の内容を聞いて、溜め息を吐く姉さん。
俺も溜め息を吐きたい気分だ。
キューを食べて強くなったり、結婚して良い家庭を築けるとかなら、人間何も苦労はしないだろうなぁ……。
まぁ、そういったよくわからないのも噂というものだろうし、それを信じてしまう人がいるのも、人間だから仕方ないか。
「荒唐無稽とわかっていようと、何かに縋りたくなるというのもまた民衆でしょう」
「そうね。魔物の襲撃なんかもあったから、リクがいたとしても、不安は全て取り除けたわけではないものね」
魔物のいる世界だ。
王都は兵士さん達や冒険者も多いから、比較的安全とはいえ、先日の魔物襲撃の件がある。
多少なりとも、不安に感じる部分はあるんだろう。
それは、きっと人の少ない街や村に行く程大きくなる……。
皆何かしらで誤魔化す……と言うと聞こえが悪いかもしれないけど、前向きになろうとしてるんだ。
そのための噂だと思うと、悪い事ばかりでもないんだろうね。
「さて、予想よりもわかりやすい原因だったわけだけれど、解決策を考えなければならないわ。もちろん、ここで決める事ではないけれど、もし何か意見があるようなら、今のうちに聞いておきましょう。そのために、皆を集めたんだしね」
ここにいる人達だけで、解決策を決定するのは、城にいる文官達の意味がなくなるから、できないけど、参考になる意見は聞いておきたいという事だろう。
こういう事は、少しでも色んな意見があった方がいいしね。
「ヒルダさんとも話したんだけど、やっぱり生産量を上げるのが一番じゃないかな?」
「そうね。それが一番の解決策になるのはわかるわ。けど……やっぱり時間がかかるわね……」
昼前にヒルダさんと話していた事を提案。
でもやっぱり、すぐに増やせるわけじゃない事が、課題になるみたいだ。
「エフライム、子爵領の方で生産量を上げるとしたら、どうかしら?」
少しだけ考えた姉さんは、エフライムに声をかける。
「はい、現在子爵領はキューの生産に関して余裕はあると考えます。農地の拡大、従事者の確保には多少時間はかかるかと思いますが……他の領地と比べると、時間はかからないものと……また、リクに関する噂はまだ広まっておりませんので、数にも余裕があるものと」
「クレメン子爵が動けなかった事と、王都に通じる道の途中にある、野盗が原因ね。悪い事ばかりじゃなかったのは幸いだけど、やっぱり時間はかかるか……」
子爵領で、多少は数を増やせる可能性はあるみたいだ……。
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