第376話 休憩所を出発
「烏滸がましいという事は、陛下は感じないと思うよ。気さくというか、偉ぶったり、人を見下したりすることはない人だからね」
「そうか。リクがそう言うなら信じよう。評判通りの、素晴らしい人物なのだな」
「うるさいのだわ、いい加減早く寝るのだわ!」
姉さんだからなぁ……エルサやユノだけじゃなく、モニカさんやソフィー、フィリーナやアルネと楽しそうに接してる姿を見る限り、烏滸がましいとか考える人じゃないのは確かだ。
元弟の俺が保証する。
俺の言葉に、エフライムは安心したようだ。
エフライムと話していると、俺の頭元に丸まっていたエルサに怒られた。
寝袋は小さいから、エルサが暑がるのもあって、中には入っていない……モフモフが……。
今日はお気に入りの風呂に入る事ができず、好きなドライヤーもどきの魔法もなく、濡れタオルで拭くくらいだったから、少し機嫌が悪いのかもしれない。
まぁ、ゆっくり寝ようとして、男同士のコソコソ話が耳に入り、寝られないだけかもしれないけど。
「ははは、怒られたな。仕方ない、話はここまでにして寝るか」
「そうだな。エルサ様に怒られたのでは、黙るしかあるまい。お休みだ、リク」
「うん、お休み、エフライム」
エフライムと少しだけ笑い合い、またエルサに怒られてしまわないよう、さっさと寝る事にする。
寝袋の中で目を閉じ、モフモフがない寂しさを感じ、せめて夢の中だけでも……と願いながら意識を手放した。
――――――――――――――――――――
「おはようございます。見張り、ありがとうございました」
「おはようございます、リク様。慣れているので、これくらいはなんでもありませんよ。ゆっくり休めましたか?」
「はい、おかげさまで」
朝、起きてテントから出た後、近くで見張りをしてくれていた小隊長さんに挨拶。
周囲を見てみると、他の兵士さん達も5,6人が立って見張りをしてくれていたみたいだ。
他のテントからは、休んでいた兵士さん達もちらほらと出て来て、見張りの交代や、朝の支度を始めてる。
それを眺めているうちに、女性用テントの方から、モニカさんが出て来た。
「おはよう、リクさん」
「モニカさん、おはよう」
モニカさんと挨拶し、朝の支度を始める俺。
モニカさんの方は、テントから出るまでにある程度済ませてたらしく、すぐに朝食の支度へと取り掛かってくれてる。
俺も早く支度して、モニカさんを手伝わないとね。
全て任せっぱなしってのは、ちょっと違うと思うから。
「リク様、予定の確認です。王都へ出発後、昼を過ぎた後に一度休憩を挟みます。その後は王都へ到着するまで、問題がなければ止まらず移動となります。王都へは、完全に日が沈んでしまう前には到着する予定です」
「はい、それで構いません」
モニカさんの手伝いをし、朝食の支度がある程度進んだ頃、他の皆が起きて来た。
一番遅く起きたのはレナで、少し寝惚けた感じでテントから出て来たのは、可愛かった。
それはともかく、木材を運んだりと、建物を作る準備を進めてる兵士さん達を眺めながら、朝食を済ませ、後片付け等の出発の準備を終わる頃に、マルクスさんが来て予定の確認。
確認と言っても、途中休憩を一度挟むというくらいの事だったけどね。
何かあれば、どこかで野営をするんだろうけど、何もなければ今日中に王都へ到着できる見込みだ。
俺達と一緒に、王都へ向かう兵士さんは15人程度になる予定らしい。
小隊長さんは、ここに留まって指揮をするらしく、行動を共にするのは他の兵士さん達だ。
兵士さん達もいて心強いし、王都まで何も問題は起きそうにないね。
「リク様、中隊長。全員準備が整いました!」
「そうか。リク様、では」
「はい、出発しましょう」
俺達と兵士さん達の準備が整い、全員が集合する。
俺達とは違い、兵士さん達は木材を運んで来た二台の幌馬車に、それぞれが乗って移動するようだ。
5,6人はそれぞれ馬に乗り、幌馬車や俺達の護衛についてくれるようだ。
とはいっても、子爵領を移動していた時と同じく、俺が探査魔法を使うから、周囲の警戒はあまり必要ないんだけどね。
でも、予定の確認をした後マルクスさんに、兵士達の緊張感を保つためには必要だと言われた。
探査魔法を使っている事は、全員に報せて移動を早めるけど、それでも念のため警戒をさせる事で、緊張感を保ちながら移動するという、実践訓練のような側面もあるのだとか。
まぁ、兵士さん達に危険がないうちに、訓練をさせたいという考えなんだろうね。
「では、出立!」
「はっ!」
俺達の馬車を先頭に、御者台に座ったマルクスさんが声を上げ、馬を走らせ始める。
それに続いて、後ろの幌馬車で御者をする人からも声が響き、全員で王都へ向け出発した。
ちなみに、残る兵士さん達は小隊長さんを始め、全員が手を止めて俺達に向かって敬礼をして見送ってくれた。
「リク様、予定よりは少し早いですが、あと少しで王都へ到着致します」
「はい」
森を出発してしばらく、一度昼食のための休憩を挟んで、王都へ。
少し薄暗くなって来た頃に、遠目に見えて来た王都へ視線を向けたマルクスさんが、俺に伝える。
予定では、日が完全に沈む前くらいだったから、明るいうちに到着できそうだ。
これなら、夕食が遅れてエルサが文句を言う事もなさそうだね。
「あれが王都なんですか?」
「そうだよ、レナ。まだ遠くだからよくわからないけど、近づくと大きさに驚くかもね」
遠目に見える王都を、馬車と御者台の間にある小窓から、顔を覗かせながら呟くレナ。
王都へ行くのは初めてだから、ワクワクする気持ちと、緊張とが混じった、なんとも言えない表情をしている。
「そんなに大きいんですか?」
「ん~、そうだね……少なくとも、レナのいた街の倍以上はあるかな?」
「はは、リク。倍どころではないだろう? 王城も含めると、もっと大きく見えると思うぞ?」
「そうかな?」
王都がどれだけの大きさかに思いを馳せているレナに、今まであまり離れる事なく慣れ親しんだ、子爵邸のある街を引き合いに出す。
あの街の大きさは、外側から少し見ただけだから、正確な大きさを把握してないんだよね。
エフライムが笑いながら、横から話に入って来て、訂正してくれる。
確かに、子爵邸のある街と違い、王城があるから、王都そのものの大きさよりも、さらに迫力を感じるか。
王城は、城壁よりも高く聳え立ってるからなぁ……。
そういえば、聞いた事なかったし、あまり王城内をウロウロしたりしてないので、知らないけど……あれって何階建てなんだろうか?
少なくとも、数十メートルはあるから、5階や6階が最上階って事はなさそうだ。
各階の天井が高いから、日本家屋で考えるよりも、階数は少ないだろうけどね。
「あ、何か見えて来ました!」
俺が特に意味のない事を考えていると、窓から御者台に向かって顔を出していたレナが、王都の方を見て声を上げた。
遠くになんとなく見え始めたのは……王城だね。
城下町の方は城壁が遮って見えないけど、王城は城壁より高く、そこから顔を出してるように見えた。
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