第377話 王城への帰還



「あれは王城だね。城壁より高く作られてて、王都で一番大きい建物だから、ここからでもよく見えるよ」

「あれが王城なんですねー!」


 俺の説明に、ワクワク感が勝ったレナは、王都への期待を膨らませている様子だ。

 反対に、エフライムはさっきまで感じられた余裕がなくなり、表情が硬くなってるように見えた。


「どうかしたの、エフライム?」

「……いや、久々なのでな。昔王城に行った時の事は大きかったという事くらいしか、記憶にない。女王陛下に失礼がないよう、気を付けなければ……」

「ははは、そうなんだ」


 王城が見えるようになって、これから陛下……姉さんに会う事になると考え、緊張して来てしまったようだ。

 まぁ、クレメン子爵の名代のような部分もあるから、緊張するのもわからなくもない。

 他の人はどうか知らないけど、ヴェンツェルさんやハーロルトさん、ヒルダさんを始めとした、俺が知ってる人達は、多少の事なら気にしないと思うけどなぁ。

 それに、そもそもが女王様が姉さんだからね……緊張しなくても大丈夫だと思う……というのは、俺と姉さんが元々、姉弟だったという事があったからか。


 捕まっていたのを助け出した時や、地下通路を移動している時は毅然として、子爵邸にいる時はクレメン子爵と一緒にいてこういう姿を見た事なかったから、年相応に見えて少し安心した。

 エフライムも、俺と同じく緊張するんだなぁ……俺も勲章授与式の時は緊張しっぱなしだったし。

 まぁ、国の最高権力者に会うんだから、緊張するのも当然なんだけどね。

 姉さんがリラックスしている状態を見たり、同性の友人のように話してるモニカさんやソフィーも、慣れて来てはいるみたいだけど、多少は緊張するみたいだしね。

 レナはまだ子供だし、エフライムは責任感も強そうだから、大変そうだ。



「お通り下さい!」

「ご苦労」

「ご苦労様です」


 王都の入り口、南門にて衛兵さんに挨拶をして、城壁の中へと入る。

 王都が近付くにつれ、移動する速度を落として、今は馬が歩く程度の速度で移動している。

 南門の衛兵さんは、俺の顔を知っていたらしく、御者台に座っているのを見て敬礼をし、特に何も確認する事なく通してくれた。

 パレードで、一気に顔が知れ渡ったから、ほとんどの人が知ってるんだろうなぁ。


 門を入ってすぐ、馬車や馬等を停める広場のような場所で、一旦停止。

 ここまで一緒に来てくれた兵士さん達は、木材を積み込むため別行動になる。


「リク様、ここから王城へは私が。リク様は馬車の中へ入っていた方がよろしいかと……そろそろ街の者達が気付くかもしれません」

「あ、そうですね。じゃあ……」


 ここでお別れになるから挨拶を、と思っていたら、マルクスさんが忠告してくれた。

 今は、幌馬車で俺達の乗ってる馬車を囲むようにしてるから大丈夫だけど、このまま御者台に乗ってたら、町の人達に見つかって騒ぎになる可能性があるからね。

 うっかり忘れて騒ぎになったら、大変だ。

 パレードから10日以上経ってるし、熱が冷めてるのを願いたいけど……帰って来たばかりで、囲まれるかどうかを試す元気はない。

 忠告してくれたマルクスさんに感謝し、一緒に来てくれた兵士さん達に挨拶を終え、そそくさと馬車に乗り込んだ。


「リクさん、どうしたの?」

「御者台の方じゃなくてもいいのか?」

「リクさんが来てくれました!」

「リクだわ!」


 俺が馬車の中に入ると、モニカさんとソフィーが疑問顔で、レナだけが嬉しそうに迎えてくれた。

 エルサはレナに抱かれていたが、俺が来た事ですぐにその腕から抜け出し、頭にコネクト。

 俺の頭が、エルサにとってのリラックスポイントになってるのはいいけど、逃げ場所にするのはどうなんだ?

 エフライムは……王城が近付くにつれて緊張感が増して来ているようで、俺に構ってる余裕はないみたいだ。

 

「いや、御者台に座ってると、外から丸見えでしょ? 町の人達に見られたら、大変な事になるかもしれないからね……」

「あ、そうね……」

「そういえば、そうだったな。……あれは、もう体験したくないな……」

「何があったんですか?」


 開いている座席へ座りながら、俺と同様に忘れていたらしいモニカさん達へ説明すると、二人は納得した。

 特にソフィーは、人に囲まれるのが苦手らしく、げんなりした顔になってる。

 しばらく王都から離れて、人が集まって来る事を気にする事がなかったからね、忘れるのも仕方ない、と思う。

 オシグ村はのんびりしてたからなぁ……ソフィーが落差にげんなりする気持ちも、わからなくもない。

 レナは俺達の様子を見て、何があったのかと首を傾げてる。


「前に、城下町を使ってパレードをやったんだけどね……」


 馬車が移動し始めるのを感じながら、王城までの道すがら、事情を知らないレナやメイさん、エフライムにパレードの事や、その後の町であった様子を説明した。

 パレードの事までは説明してなかったからね。

 しかしエフライム……緊張し過ぎて、俺達が説明してるのを聞いてないんじゃないのか?


「そんな事があったんですねー。でも、気持ちはわかります。……ライバルは多いようです」

「レナーテ様、頑張りましょう。王都にいる間がチャンスです!」

「そうですね、メイド」


 俺達の説明を聞いて、事情がわかったレナは、何やらメイさんと話している。

 何がライバルで、何がチャンスなんだろうか?


「ふむ、俺もトゥラヴィルトの街に出た時は、人に見られる事は多かったが、そこまでの事はなかったな。歩けなくなる程人が集まって来るとは……リクは人気なのだな。まぁ、王都を救ったのだから当然か」


 レナとメイさんの会話に首を傾げていると、横からエフライムが声を出した。

 緊張してたようだけど、話はちゃんと聞いてたみたいだ。

 やっぱり、その顔は強張ってるけどね……無理はしなくていいんだよ?


「王城、到着しました!」


 エフライムやレナに説明しているうちに、馬車が王城へ到着。

 マルクスさんの声と共に、馬車が止まった。


「ん~、ようやく到着かぁ。しばらく離れてたけど、帰って来たって感じがするね」

「そうね。長い間……と言う程でもないけど、既に慣れ親しんでる感じまであるわ」

「おーい、こっち手伝ってくれないか」

「あ、ごめんごめん」


 停止した馬車から降りて体を伸ばし、呟きながら王城を見上げる。

 俺の後から馬車を降りたモニカさんも、同じように見上げながら、呟く。

 ヘルサルより長く王都に滞在してるわけじゃないんだけど、何だか帰って来たって気がする。

 マックスさん達がいる獅子亭は居心地が良かったけど、王城に姉さんがいるというのが理由なのかもね。


 なんて、感慨に耽る暇もなく、先に馬車を降りていたソフィーから声をかけられ、馬車から荷物を取り出すのを手伝う。

 馬車は俺達の物じゃなく、姉さんに借りた物だから、荷物を入れっぱなしにはできないしね。

 エルサ用おやつのキューとかも入ってるし……と思ったら、荷物にエルサが顔を突っ込んでキューをつまみ食いしてるな……行儀悪いからやめなさい。

 ちゃんと、俺が持ってるキューを上げるから。



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