神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

第３６６話 破られる結界

　ユノとエルサを止めるため、近付いて行く俺。

　そこへ近付くごとに、何故か背筋に流れる汗と、湧き上がる嫌な予感。

　結界があるから大丈夫だと思うんだけど……頭の中に浮かぶのは、相当な硬さを持ったグリーンタートルの甲羅が、軽々と斬られた時の映像。

　この結界がもし、あの甲羅と同じようにあっさり斬られたりしたら……いやいや、さすがのユノでもそんな事はないだろう。

　嫌な予感と浮かぶイメージを、無理矢理押さえつけるた。

「……行くしかないか。……よし！　ユノ、エルサ、そこまでだ！」

　意を決して、結界と一緒にユノとエルサが戦ってる間に、体を飛び込ませた。

「エルサ、覚悟するの！　……って、リクなの!?」

「ちょっと、私を殺す気なのだわ!?　危ないのだわ！」

　俺がユノとエルサの間に体を飛び込ませた瞬間、ユノが全身に力を入れるようにして、今までよりも力を込めて、さらに早い動きで剣を大上段から振り下ろした。

　全身がぶれて見える程、速度が速く、俺の目では脅威が迫ってるくらいしか見えないが、頭の中では危険を報せるアラームが鳴り響いているような感覚。

　ユノもエルサも、俺に気付いた様子だが、全力で体を動かしているユノは、今更動きを止める事はできない。

　そのまま、俺に向かって剣を振り下ろした。

　キィィィン！

　耳をつんざくような甲高く大きな音が響き、ユノの剣が結界を破り、俺の眼前へと迫る。

「ぬぉぉ!?」

　思わず声を上げた俺は、ロータの訓練に付き合っていた時に持っていたままの剣を、両手で持ち上げた。

　ガキィ！

　ヴェンツェルさんや、マックスさんのと剣を合わせた時以上の重さが、持ち上げた剣に加わり、俺の体に圧しかかる。

　足が少しだけ、地面に沈んだ気もするが、そちらを気にしていられる余裕はない。

　ユノの体重ごと圧しかかってる剣を受け止め、それに耐えるために体に力を込めた。

　これでも、多少はユノが止めようとしてるみたいだし、結界もあったから、威力もある程度は殺がれてるはずなんだけどな……。

「ぐっ……」

「んーっ！　……はぁ、なんとか止まったの」

「……はぁ……耐えられた。結界を壊して来るなんて……危なかった……」

　俺が剣を受け止めて耐えてる間に、ユノが地面に足を付き、踏ん張って剣の勢いを殺してくれた。

　おかげで、少しの間耐えただけで、上から圧しかかっていた力はなくなり、自分が無事な事を確認。

「リク、大丈夫なのだわ!?　ユノ、リクになんて事をするのだわ！　リク、怪我はないのだわ？」

「……ごめんなの。エルサがあまりにも避けるから、本気でいかないといけない……と思って……」

　俺の後ろで、一連の動きを見ているしかできなかったエルサは、ユノの剣が止まったのを見て、俺に駆け寄り、モフモフの手で俺の体をぺたぺた触れて来た。

　怪我がないかの確認なんだろうけど、くすぐられてるみたいで、少し落ち着かない。

　モフモフしてるから、気持ちいいんだけどね。

「大丈夫だよ、エルサ。結界が壊されたのは驚いたけど、何とか剣で受け止めたし、怪我はないよ」

「良かったのだわ……リクが怪我をしたら、キューをもらえるあてが減るのだわ。……契約者が怪我なんて、嫌なのだわ……」

　俺、エルサにキューをあげるだけの役目？　ではない事は、その後に小さく呟いた言葉でよくわかる。

　怪我がない事にホッとした様子を見せたエルサ。

　しっかり聞こえてるからな？

　探し求めてた契約者だもんな、心配になるのは当然か。

　まぁ、魔力が……とか、ドラゴンとしての契約者が……とか、そっちの心配の方が大きいのかもしれないけどな。

「リク……ごめんなさいなの。まさかリクが割って入って来るとは、思ってなかったの……」

「ユノ、訓練に夢中になるのはいいけど、ちょっとやり過ぎだったね？」

「そうなのだわ。最後には、私を殺そうとしてたのだわ。恐ろしい殺気を感じたのだわ」

「……そ、そこまでは……考えてない……よ？」

　剣をしまって、俺に謝るユノ。

　そんなユノに、注意するように言うと、エルサが小さくなって俺の頭にコネクトしながら、ユノに苦言を呈する。

　エルサに言われて視線を逸らし、殺そうとまでは考えてなかったと、自信なさそうに呟くユノだけど、俺も結構な殺気を感じた気がするんだよなぁ……？

　嫌な予感と一緒に、迫る剣にあれ程の恐怖を感じたのは、この世界に来て初めてだったかもしれない。

　恐怖というだけなら、エルサと初めて会った森の中で、まだ契約前に野盗と会った時に感じたくらいか。

　まだ心臓がドキドキしてるし、背中には冷たい汗が流れてる……鳥肌も、ようやく収まって来てるくらいだし……。

　そんな機会はないだろうけど、ユノと真剣に戦う事はしない方が良さそうだな……。

「とにかく、ユノは反省するのだわ。私の毛や、リクの結界ですら防げない攻撃をするなんて……」

「ごめんなさいなの……」

「うん、反省したなら、もう大丈夫だな。はぁ……それにしても、結界を破るなんて……頑強の魔法が掛かった剣じゃなかったら、危なかったな……」

　自分で結界の魔法を使い、それに触れてみた感覚では、グリーンタートルの甲羅より硬いのは間違いないと確信した。

　それだけの硬さを突き破って尚、受けた俺の剣を破壊せんばかりの威力の攻撃とか……そりゃ、エルサの毛も斬られるわけだよね……危なかったぁ。

「とりあえず、ユノはもし今後訓練をする機会があったとしても、真剣ではやっちゃだめだな」

「当然なのだわ。考えうる限りで最凶の相手なのだわ。そこらに落ちてる木の枝でも、怖いくらいなのだわ」

「……そこまで？」

「……わかったの。木の枝でもエルサを斬れるように、頑張るの」

「ユノ……わかっていないようだわ……」

　とりあえず、エルサが言う最強という言葉のイントネーションが少し気になった。

　もしかして、最凶？

　まぁ、さっきの一撃の威力なら、納得できる気もするけど……ドラゴンすら恐怖する女の子って、一体何なんだよ……と思ったところで、そういえば元々神様だったなと思い直し、何となく納得した。

　それはともかく、木の枝でエルサを斬るって……剣以上に枝が耐えられるかと思うけど、ユノならいつかやりそうだな。

　それくらい頑張りたい、という意気込みなだけかもしれないけど、頑張り過ぎると、止めに入る俺の身の危険が危ないので、止めてもらいたい。

　時間のある時にでも、ユノに言い聞かせておかないとな……さっき感じた恐怖は、できる事ならこんな日常的に行った訓練で感じちゃいけない物だと思う。

「それはそうと、エルサ」

「どうしたのだわ、リク？　まさか、やっぱりどこか怪我をしてたのだわ!?」

「いや、それは大丈夫なんだけど……さっき、ユノに結構毛を斬られてたよな？　大丈夫なのか？」

「大丈夫じゃないのだわ。私自慢の毛が……だわ」

「まぁ、怪我はないようだから安心だけど、斬られた部分の毛は？　モフモフは？」

「リクはいつもその事ばかりなのだわ……。もっと他の事にも興味を持つのだわ……」

　どれだけ斬られたのか、詳しく見ていないからわからないけど、エルサの毛が斬られて最上のモフモフが失われてしまったら大変だ。

　もしなくなってしまったら、俺は絶望して王城に引きこもってしまうかもしれない……と言うのは大袈裟だが、ともかく俺にとっては重要な事だ。

　今俺の頭にくっ付いているエルサからは、いつもと変わらないモフモフを感じるが、別の所の毛が斬られて禿げてしまっていたら……。

　エルサにモフモフが大丈夫なのか聞くと、溜め息を吐くように返された。

　それにしか興味がないわけじゃないよ？　多分……。