第367話 モフモフクッション作成失敗



「大丈夫なのだわ。体の大きさを変える時に調整したのだわ。怪我をしたり、もっと多く斬られてたら別だけどだわ。とにかく、心配する必要はないのだわ」

「そうなのか。それなら安心だ。……えぇっと……」

「ん? 何をしてるのだわ? 急に顔を下げたりしたら、ずり落ちるのだわ」

「ごめんごめん。この辺に落ちてないかと思って」

「何がだわ?」

「エルサの毛」


 体の大きさを変えるのと同じように、多少毛が斬られたくらいなら、調整が効くらしい。

 エルサのモフモフが失われずにすんで、安心だ。

 それはともかくと、俺は顔を下に向け、少し姿勢を低くして地面を探し始める。

 結構暗くなって来たから、目を凝らさないと見つけられそうにないからな。


 俺が急に頭を動かしたせいで、ずり落ちそうになったエルサが、少し強い力で俺の頭にしがみ付きながら、文句を言われる。

 そんあエルサに謝りつつ、ユノに斬られて落ちているはずのエルサの毛を探す。

 ちなみにユノは、俺とエルサが話し始めたあたりで、ソフィーとモニカさんの所に行き、説教というか注意を受けてる。

 多分、誰も間に入り込めないような訓練を、ここでするんじゃない……とか言われてるんだろうな、多分だけど。

 どうやったらあんな動きがとか、俺の結界を破る程の威力の出し方を聞いてるわけじゃない……と思いたい。


「私の毛だわ? どうするのだわ?」

「いや、エルサの毛って今まで抜けた所を見た事がないからさ。斬られた毛でも集めれば、クッションみたいな物にできるかなぁ……と」


 一番の使用目的は、馬車に乗る時のクッション……というか座布団だ。

 エルサの毛を集めて、それを詰めた座布団があれば、お尻が痛くなるのも大分緩和されると思うんだよなぁ……。

 まぁ、多少ユノに斬られただけだと、量として足りないだろうけど、集めておいていつか作れたらなぁ、とね。


「私の自慢の毛をなんて事に使おうとしているのだわ。でも残念だわ。私の毛はドラゴンの毛なのだわ。特別製だから、地面には落ちてないのだわ。斬り放されたら、魔力のように霧散してしまうのだわ」

「むぅ……そうなのか。道理で地面を見ても見つからないわけだ。それじゃ、エルサの毛でクッションを作るのは無理なのか……」

「方法はないわけではないのだわ。けど、魔力とイメージが大変過ぎて、やる気が起きないのだわぁ」

「そうなのか? その方法って?」

「今は教える気はないのだわぁ。教えたら、すぐに実践とか言って、私の毛を刈り取ろうとするに違いないのだわ。そんなのはごめんなのだわ」

「……それは、しないとは言えないな……」


 魔法は色々試してみたいという気もするし、エルサの毛で作られたクッションなら、馬車に乗る時に以外にも用途がありそうだ。

 それに、あれだけのモフモフなのだから、ぬいぐるみの中に入れてふかふかにした物を売り出したら、売れそうだとか、邪な考えも浮かんでしまっているしね。

 ともかく、エルサが面倒そうに言う事を否定できない俺は、今はドラゴンの毛でグッズを作るのは断念した。

 ……今は、だけどね。


 結界とか、包み込むような魔法で保護したら、毛も残るのかな?

 いや、結界で包むと、集めた毛のモフモフした感触を楽しむ事はできないか……。

 それなら、柔らかい魔力や魔法で包んで……。


「何か、変な事を考えてるのだわ?」

「い、いや、何も考えていない……よ?」

「はぁ……暴走しない事を祈るばかりなのだわ。魔法も、リク自身も……だわ」


 断念していながら、どうしたらエルサの毛を集める事ができるのかと考えていると、鋭いエルサが頭を掴む力を強くして、指摘された。

 どうやら、俺の考えはお見通しらしい……契約で魔力や記憶が流れてるからかな?

 溜め息を吐いたエルサは、何やら俺の魔法が暴走したり失敗する事を、心配してるようだ。

 大丈夫、モフモフに対する追求なら、魔法を失敗しない自信がある!

 根拠とか、そんなものは何もないけどね!


 なんて事を考えたり、エルサと話しながら、近くで話してるモニカさん達と合流して、広場を離れた。

 そろそろイオニスさんと、クレメン子爵達の話も終わった頃だろうしね。

 体を動かしたから、そろそろエルサやユノがお腹空いたと騒ぎそうだし、さっさとイオニスさんの家に向かおう。

 今日も、夕食を用意してくれるって事だったから……イオニスさんと奥さん、ありがとうございます。



 クレメン子爵が来ているという事で、村の人達が集まって料理が作られ、それを美味しく頂いた俺達。

 エフライムやレナも、子爵邸での料理のように凝った物はなかったけど、美味しそうに食べて満足そうだった。

 もちろん、エルサはキューの浅漬けを要求し、全力で食べてた。

 ……ユノとの訓練後の、憂さ晴らしみたいに感じたけど、今日は仕方ないだろうね。


「リク、ちょっといいか?」

「ソフィー、どうしたの?」


 夕食が終わり、イオニスさん達が用意してくれた宿の部屋で寛いでいると、ソフィーが部屋を訪ねて来た。

 同じ部屋になってるモニカさんは、一緒じゃないみたいだから、部屋でゆっくりしてるのかな?

 部屋割りは、クレメン子爵とエフライム、レナとメイさん、俺とエルサ、モニカさんとソフィーで別れてる。


 護衛の騎士さんとマルクスさんは、王都や子爵領での情報交換や親睦を深めるために、大部屋らしい。

 村には宿が一つしかなく、粗末な場所に領主であるクレメン子爵を泊める事を、イオニスさん達は恐縮していたけど、クレメン子爵やエフライムは、むしろそちらの方がいいと喜んでいた。

 領民達の暮らしが良く見えるから、という理由らしい。


「王都への出発なんだが、明後日という事でいいのか? 先程の夕食の時、少しだけその話が出ていたが」

「うん。エフライムとレナを王都まで護衛する依頼だけど、明日は村の様子を見たりとか、やる事があるみたいだからね。明日1日、俺達はゆっくりして、明後日出発だよ」

「護衛なのだから、完全にゆっくりはできないだろう? それなら、明日でロータの訓練は最後だな」

「まぁ、俺達がいなくとも、護衛の騎士さんはいるし……この村にいれば、危険も少ないだろうしね」


 夕食の時クレメン子爵と話した事なんだけど、明日はクレメン子爵とイオニスさんが村の事等を話したり、様子を見たりする日となっていた。

 数日は視察する必要があるらしんんだけど、明日の1日くらいは、エフライムも一緒に見て勉強させるつもりらしい。

 ちなみに、ソフィーの事は夕食時に詳しく紹介しておいた。

 何故か、レナのソフィーを見る目がきつい気がしたけど……厳しそうに見えるからかな?


「ロータは、どうなの?」


 王都へ帰るため、ロータへ直接ソフィーが指導するのは最後になる。

 余裕を見て、またこの村に来た時に教える事もできるだろうけど、そう頻繁に来れるかわからないし、その時は様子を見るくらいがせいぜいだろうしね。

 とりあえず、ここ数日、ロータをつきっきりで見ていたソフィーに、ロータの剣の素質はどうなのかを聞いてみた。


「それは、今日実際に剣を受けたリクなら、わかるんじゃないか?」

「うーん……素質はあるとは思うんだけど、本当に同じ軌道で剣を振られるのを受けてただけだからね。素直にソフィーが言う事を聞いていたのは、いい事かなと思うよ。体力もある程度ついて来たみたいだしね」


 真っ直ぐ振り下ろされる剣を受けているだけだから、俺にはよくわからない部分も多い。

 ソフィーはどう考えてるのかわからないけど、俺の剣の技術なんて、素人に毛が生えた程度だしなぁ。

 それで他の人の技術がどうか、なんて採点ができるとは思えないし……そもそも、その後のユノを止めた時、結界を破られた印象が強くて、正直あまり覚えていない。

 それなら、俺よりもずっと見て来たソフィーの方が、正しく判断できるだろうしね。


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