第351話 まだまだ続くよ訓練は
「勝負あり! 場外により、勝者リク様!」
「ふぅ……これで全員終わったね」
審判さんの宣言で、最後の相手だったマルクスさんとの模擬戦は終了。
これで、子爵家の騎士さんと兵士さんの35人とマルクスさん、計36人との対戦が終わった。
最初考えてたような、体力の消耗のため、途中で止めるような事がなくて良かったと思うけど……俺ってこんなに体力あったっけ?
エルサやユノ辺りに聞くと、ドラゴンとの契約のおかげとかいいそうだけど……どんどん人間離れして行く自分が怖い。
……最初から人間離れしてるっていうのは、あまり考えない。
「リク様、お見事でした。まさかここにいる全員でかかって、手も足も出ないとは思っていませんでした」
「ははは、1対1でしたからね。これが集団戦なら、また違ったと思いますけど」
模擬戦が終わって、一息吐いている俺の所に、騎士団長さんが話しかけて来た。
騎士さんとか、兵士さんは1対1の訓練はもちろんしているだろうけど、基本的には複数行動で戦う、集団戦が得意なんじゃないかな?
1対1が苦手とは言わないけど、複数で一度に来られたら、俺も何度か打たれてしまう事があったかもしれない。
特に、力で押し込める騎士団長さんの相手をしている時に、技術で翻弄する副団長さんが来たと考えると、かなり危ないと思う。
そもそも、副団長さんの時は、1対1でも結構追い詰められてたしね。
「……そう、ですかね?」
「俺はそう思いますよ。俺一人では、できる事が限られますからね。さすがに、一度に来られたら全て対処しきれるとは思えません」
「まぁ、確かに。……でもそれは、リク様の方にも複数の人がいれば、いくらでも対処できるという事では……」
俺の言葉に頷きながらも、何やら呟いている騎士団長さん。
しかし、すぐにその顔を上げた。
「では、続いてまた私が相手になりましょう」
「え? もう終わったのでは?」
「何を言っていますか……まだ時間はあります。それに、リク様が手加減して下さったおかげで、怪我をしている者はほとんどいませんし、いずれも擦り傷程度です。時間の許す限り、訓練を致しましょう」
「えぇと、疲れてたりは?」
「ほとんどが、開始直後にリク様によって、飛ばされた者ばかりですからな。疲れている者はいません」
「ははは……そうですか。……はい、わかりました……」
どうやら、まだ訓練というか、俺相手に次々と対戦相手が来るという、100人組手のような状況は続くようだ。
1回の戦闘が短かったからかな? もう少し引き延ばして、訓練を続ける気にならないような時間稼ぎをすれば……っていうのは、訓練の意味がなくなるか。
それに、開始直後に弾き飛ばして場外に飛ばす事で、俺の体力を節約したのはいいけど、騎士さん達の体力も節約になってたようだ。
まぁ……始まったと思ったら、木剣で弾き飛ばされて、背中から落ちるだけ……というのは確かに、あまり疲労もしないか。
仕方なく、訓練を続ける事を承諾し、模擬戦を始めるために定位置へ移動した。
まずは騎士団長さんからだ……一度戦って、俺が全力ではないとわかったのか、訓練開始前後のような決死の覚悟をしてる雰囲気はなくなっていた。
ちなみにマルクスさんは、もう俺と戦う気がないらしく、クレメン子爵の所へ行って何やら話していた。
多分、俺と戦った時の感想だとか、模擬戦の解説なんかをしてるんじゃないかと思う……いいなぁ。
「勝負あり! 勝者リク様!」
「ふぅ……」
それからしばらく、日が沈んで来たのがはっきりわかるくらいまで、俺は訓練に付き合わされた。
訓練自体は嫌じゃないため、俺が断らなかったせいもあるし、途中からハイになってしまったのか、何やら楽しくなって来た俺自身が、模擬戦相手を次々と募るような事をしてしまっていた。
どれだけの数を倒せるのか、ひたすら相手を弾き飛ばす事を考えて続けてしまった……数は数えてないけど。
結論、訓練は一撃で終わらせるんじゃなく、じっくりと相手の動きを見たり、自分の動きを考えながらやらないと、連続で戦わされるという事になる……のかもしれない。
「えーと、終わり……でいいんですよね?」
「はぁ……はぁ……えぇ。もう戦える者もいないでしょうから」
「わかりました。ありがとうございました」
「はぁ……はぁ……あれだけ戦い続けて……はぁ……息も切らしていないとは……はぁ……」
近くで座り込んでいる騎士団長に話しかけ、訓練の終わりを確認する。
よく見れば、周囲にいた騎士さんや兵士さん達は、全員座り込んでおり、荒い息を繰り返して苦しそうだ。
ちょっと、やり過ぎたかな……?
「ははは、クレメン子爵。訓練は終わったようです」
「う、うむ。そうか……」
「凄まじいな……これ程までとは。英雄と呼ばれる所以がわかったな」
「さすがリク様です!」
「この光景を見ると、一度だけで抜け出して来て、心底良かったと感じます」
模擬戦をした場所から離れ、端の方で座って観戦していたクレメン子爵達に笑いかけながら声をかけた。
ひたすら喜んでるだけのレナ以外は、愕然とした表情で俺を見ていた。
いや、マルクスさんは野盗と戦う時とか、見た事があるはずなんだけどなぁ。
「あれ程の戦いをして尚、息も切らさずとは……Aランク冒険者、いや、英雄とはこういうものなのか……」
「そのようですね、お爺様。英雄となるのには、ここまでの事ができないといけないのでしょう……」
クレメン子爵とエフライムが話してるけど、そんな事はないんじゃないかな?
まぁ、あれだけ休みもなく戦い続けて、ほとんど疲れてないのは自分でも驚きだけど……。
俺の事は別として、他に英雄って呼ばれたり、Aランク……それこそSランクの冒険者になると、もっとす凄まじいんじゃないかと思う。
「まぁ、技術というより、力だけで弾き飛ばしてただけですからね。それに、真剣ならもっと勝手が違うでしょうし……1対1でしたから」
「……それだけでも、十分に驚きなのだがな?」
「……集団でかかっても、リクには敵わないだろうな」
「んー、そんな事はないと思いますけど……」
「エフライム、リク殿に逆らうような事は、してはならんな」
「もとより、そのつもりはございませんが……実際に実力を見ると、よく理解できます。心に刻み込んでおきます」
「いやいや、そんな事しなくてもいいですから。普通に、単なる知り合いや友人として、接してくれればいいですから!」
むぅ、俺は別に逆らう者は許さないとか、そんな独善的な事は考えていないのに……。
クレメン子爵もエフライムも、戦慄するような表情で納得してしまった。
お願いだから、普通にこれまでと同じように接して欲しい。
「リク様、さすがは私が見込んだ人ですね!」
「おっと。ははは、喜んでもらえたかな?」
「はい!」
クレメン子爵とエフライムを相手に、どう弁解しようかと考えていたら、レナが急に俺のお腹辺りに抱き着いて来た。
見上げて来るレナに、笑いかけながら聞くと、満面の笑みで頷いてくれた。
レナは、俺が強さを示すと喜んでいたようだから、訓練を見て感極まったんだろう。
懐いている相手に抱き着くという、子供らしい行動に微笑みながら、ゆっくりとレナの頭を撫でてあげた。
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