第350話 マルクスさんとの模擬戦
「ふぅ……リク様、さすがでございます。まさか全て対処されるとは。素手で木剣を受け止めたのも驚きましたが……全て予想されてましたかな?」
「ははは、それは買いかぶりですよ。上かと思えば下から……ずっと翻弄されっぱなしでした」
負けた事を理解し、息を吐きながら話しかけて来る副団長さん。
さすがに俺自身も、木剣を素手で防御する事になるとは思ってなかった。
武器が2本という事もあったとは思うけど、ずっと予想を外されてばかりで、危ない所が多くあった。
やっぱり、技術という点で言うと、俺はまだまだだと実感させられる1戦だったと思う。
お互い笑い合いながら、副団長さんは周囲で見ていた人達の元へ、俺は中央へと戻った。
今の戦いを、思い返して色々学びたいと思うけど……俺はまだ、戦わないといけないんだよなぁ……。
ともかく、落ち着いて考えるのは、全部終わってからだな。
「次は私です。よろしくお願いします」
「はい、お願いします」
3人目の騎士さんは、標準的なロングソードを持って俺に礼をする。
俺もそれに返しながら考える。
今度の人は、副団長さんのように技術で押すのではなく、騎士団長さんのように力で押すタイプなのかもね。
……騎士団長、副団長と、向こうから来るのを待つばかりだったから、今度は俺から向かってみようか。
「それでは、始め!」
「ふっ!」
「っ! ぐぅ!」
審判さんの合図と共に、向かい合っている騎士さんの方へ、足に力を込めて突進する。
お互いの空けている空間は、大体3メートル程度。
頑張れば一瞬で詰めれる距離だ。
俺が合図と同時に飛び出した事に気付いた騎士さんは、すぐさま持っていた木剣を体の前に構え、防御の姿勢を取る。
そのまま、飛び込んだ勢いと一緒に、俺が持っている木剣を防御している木剣に当て、振り抜く。
その衝撃にくぐもった声を出しながら、騎士さんは騎士団長と同じように弾き飛ばされ、場外へと背中から落ちた。
「それまで! 場外により、勝者リク様!」
「ふぅ……これなら、すぐに終わって俺も体力を削らなくても良さそうだね」
弾き飛ばした騎士さんが、怪我をした様子もなく立ち上がり、一瞬で終わった事に落ち込む姿を見ながら、少しだけ申し訳ないと思いつつも、できるだけ体力を減らさないように決着を付ける方法を考えた。
訓練だからと、相手が攻撃するのを待ち、冷静にそれを見て、自分の足りない技術を学ぼうと思ってたんだけどね。
さっきの副団長のように、攻められてばかりというのも辛いから。
なにより、対処する俺の方が疲れてしまうからね。
そのまましばらく、次々と出て来る騎士さんを、弾き飛ばしては終わらせるというやり方で、決着を付け続けた。
訓練だから、もっとやり合わないと相手のためにもならない……とは思うんだけど、人数が多いからね、体力が持つかわからないから、できるだけ節約するように切り替える。
長く多くの相手と戦うコツを掴むのも、訓練と言えなくもない……と考える事にした。
「最後は、私ですね」
「マルクスさん……」
ほぼ無心の状態で、騎士さんや兵士さんを弾き飛ばし、その後に落ち込む様子を見て申し訳なく思いながらも、淡々と進めて行った模擬戦。
最後と言いながら、マルクスさんが進み出て来た。
って、もう35人相手にしたのか……集中してたからわからなかった、数も数えてなかったし。
36人目のマルクスさんは、俺を見ながら不敵な笑み。
何か勝算があるのかと思ったけど、こめかみからは一筋の汗が流れていた。
もしかして、強がってるだとか?
マルクスさんの実力は知らないけど、王都からここに来るまで、一番俺の動きを見ていた人だからね。
それに、ヴェンツェルさんにも鍛えられてた事もあるだろうし、油断はしちゃいけない。
「では、両者中央に……」
審判さんの声で、お互い中央に来て向き合った。
ゆっくりと構えて相手を見据える。
マルクスさんは、俺と同じショートソードを片手に持ってるだけだ。
ロングソードを使って力で押すとか、2本持ったり奇抜な武器で意表を突くタイプではないようだね。
「それでは、始め!」
「ふっ!」
「ぬあっ……っとっと」
審判さんの合図で模擬戦が開始すると同時、俺がマルクスさんに向かって一足飛びに接近する。
そのまま、勢いを利用して右手に持って木剣を振り下ろした。
これがここまで、1回の模擬戦を最短で終わらせる方法だったからね。
しかしマルクスさんは、俺が剣を振り下ろしたのを防御したりする事はなく、全力で左側へ飛んだ。
バランスを崩す事も厭わない勢いだったためか、少しもたついていたけど、俺の初撃はあっさり躱されてしまったようだ。
「はぁ……さっきまでと同じ事をして来たので、なんとか避けられましたね。リク様、ずっと同じ事をして、それを見られていたら、避けるくらいはできますよ?」
「そのようですね。……上から振り下ろしたのが、いけなかったのかな?」
「ははは、避けられても特に気にしてませんね……。あの速度と威力……普通の人間なら、渾身の一撃となっているはずなんですが、リク様にとってはそうではないようですね」
体のバランスを取りながら、俺に木剣を向けて構え直しつつ、マルクスさんが話しかけて来る。
さすがに、30人以上同じ攻撃をしてたら、見るのも慣れて避けられてもおかしくないか。
一応、避けられないくらい速度を出す事を意識してたんだけどね……さすがは王都の兵士さんだ。
左横に飛んだから、そちらの方向から木剣を振れば良かったかな? と思い、呟いているとマルクスさんが苦笑した。
確かにさっきまでの攻撃は、足に力を込めて、速度と勢い任せにしてる分、渾身の一撃になる人もいるだろう。
でも、ヴェンツェルさんとか……さっき戦った副団長とかなら、もしそれが避けられた時、すぐに次の行動ができるように考えてると思う。
やっぱり、まだまだ俺は想定が甘いんだろうなぁ。
「……このまま、こうして見合っているだけというのでは、何も始まりませんね。では、次はこちらから行きます!」
「っ!」
模擬戦中だというのに、マルクスさんに木剣を向けたまま、頭の中で考え込んでしまっていた俺に対し、膠着した状態にしびれを切らしたのか、体に力を込めてこちらへ向かって来ようとしている。
実践だったら、相手の様子を窺って、隙を見せないように膠着状態でもじっと待つ……という事が考えられるんだろうけど、これは訓練だからね。
待ってるだけじゃいけない、と考えたんだろう。
マルクスさんを見て、考え込むのを後にし、木剣を持つ右手に力を込めて身構えた。
「スゥー……行きます! はいやぁ!」
「っと!」
息を大きく吸い込んで、体に力を溜めたマルクスさんが、一気に俺へと迫る。
マルクスさんは右手を大きく横に広げ、そこから俺へ向かって大振りの一撃。
木剣を両手で縦に持ち、それを受け止める俺。
走り込む勢いと全身の力がこもっているからか、それなりに強い衝撃だったけど、難なく受け止める事ができた。
これ、本当は両手でとか、大きな剣でやる攻撃じゃないかな?
そう思いつつも、そのまま木剣でマルクスさんの木剣を押し返す。
「くっ! ぬあ!」
「んっ! せい!」
押し返された木剣を、すぐに自分の体の前へ引き戻すマルクスさんだが、その時には既に俺が剣を振る動作に入っていた。
こっちを見て驚いた顔をしながらも、木剣で受け止めたマルクスさんは、そのまま他の騎士さんや兵士さん達と同じように弾き飛ばされて行った。
良かった、ちゃんと木剣に当たってくれた……これで俺の木剣が、マルクスさんの体に当たったら、骨が折れてる可能性もあるからね。
まぁ……その時は、治癒魔法を使って治すんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます