第349話 騎士団長と副騎士団長
「おっと」
「っ! ちぃ!」
「ほいっと」
真っ直ぐ俺に走り込み、木剣を振り下ろす騎士団長さん。
俺はその木剣を、左に体をずらして避ける。
受けるのではなく、避けた事に一瞬だけ驚いた顔をした騎士団長さんは、すぐに振り下ろした木剣を下から俺に向かって斬り上げる。
踏み込むわけでもなく、その場で斬り上げられたので、少しだけ後ろに下がって避けた。
「まだまだ! っ!」
「っと! 今度は、こっちの番です……っよ!」
「ぐあっ!」
避けた俺を見据え、斬り上げた木剣をさらに振り下ろす騎士団長さん。
俺に向かって来る木剣を、自分で持っている木剣を横にし、両手で持って受ける。
そのまま声をかけつつ、野球のバットを振るように騎士団長さんの木剣ごと、力で薙ぎ払うように振り抜いた。
「ぐぅっ!」
「そこまで! 場外により、リク様の勝ちと致します」
「ふぅ……」
「「「おぉぉぉぉ……」」」
俺に弾き飛ばされ、場外へと背中から落ちた騎士団長さん。
それを見て審判の執事さんが止め、俺の勝ちを宣言してくれた。
騎士団長さんは体ががっしりしているし、金属の鎧を着ているから、重いと思ってそれなりに力を込めたんだけど……思ったより遠くまで飛んだね。
飛ばされた騎士団長さんが地面に付いたのは、模擬戦の範囲外よりもさらに外側、運動場になってる場所の端で、外と内を遮る塀の近くだった。
もう少しで塀に激突しそうだったけど、惜しいとは思わない。
むしろもう少し力を弱めて、近くに飛ばそうと思うくらいだ……手加減の練習みたいなものだね。
周囲で見ている人達の、歓声にも似たどよめきを聞きながら、騎士団長さんの方を見る。
「ゴホッ、ゴホッ……ふぅ……」
飛ばされた騎士団長さんは、背中を打った痛みで咳き込みながらも、立ち上がった。
ある程度の痛みはあっても、怪我はないようで安心した。
「では、次は俺が行きます」
「副団長さんですか。では、中央へ。リク様も」
「はい」
騎士団長さんの様子を見ていると、すぐに次の騎士さんが進み出て、木剣を構えた。
審判さんに促され、少し動いていた場所から中央に戻り、向き合う。
副団長って言ってたから、それなりに強いんだろう。
確かに体は騎士団長さんに負けず劣らず、がっしりしていて、しっかり鍛えていそうだし、構えも様になってるね。
ちょっと気になるのは、騎士団長さんがロングソードくらいの木剣を使っていたのに対し、こっちの副団長さんは、ナイフより長く、ショートソードよりも短い木剣を2本持っている事だ。
二刀流って事かな?
両手にそれぞれ武器を……というのは、ヤンさんと合同訓練の時に見たユノくらいでしか見た事がない。
はてさて、どうなるのかな……?
「では……始め!」
「しっ!」
「おっと」
審判さんの合図で、すぐにこちらに突進して来るのは、騎士団長さんと同じだった。
しかしその速度は騎士団長さんよりも速く、一瞬にして俺に肉薄する。
副団長さんは自分の体の前に木剣を交差させて、真っ直ぐ突っ込んでくる。
そのまま交差させた木剣を、俺に向かったバツ印になるように斬りかかって来た。
頭上から真っ直ぐ振り下ろすよりは、横に避けるのも難しそうだし、速度も速い。
すぐに俺は、後ろに軽く飛んで木剣の届く範囲から逃れた。
「しっ! ふっ! はぁ!」
「うぉ! っと、くっ!」
木剣の届く範囲から逃れた俺を、すぐに足を使って追いかけて来た副団長さんは、右手の木剣を右下から斬り上げ、それを右に避けた俺に、左手の木剣を上から振り下ろす。
続けざまの攻撃に、避ける余裕のなくなった俺は、木剣で上から振り下ろされる木剣を受け止める。
ガチッという音がして、俺の木剣に左手の木剣を受け止められた副団長さんは、さらに上から右手の木剣も振り下ろす。
それぞれに力と勢いを乗せて、俺に木剣を落とさせる気かも!?
思わぬ体勢で剣を受けたため、騎士団長さんの時と違って、今は木剣を持っているのは右手だけ。
しかも、力自体は両手で、力いっぱい振り下ろした騎士団長さんの方があったと思うけど、副団長さんは別々に木剣を振り下ろして来るから、受ける力のバランスが難しい。
両方勢いがあるうえ、片手で受けてるせいで木剣を持つ力が少し弱まってしまった。
最初から、俺に不安定な形で防御させ、持っている武器を落とさせようという考えだったのかもしれない。
「くぅ……」
「ふ……せい!」
「うぉ!?」
「なんと!?」
力が入らないながらも、なんとか副団長さんの木剣を押し返そうと、体に力を込め始めた時、目の前にある副団長さんの顔が、一瞬だけ笑ったような気がした。
次の瞬間、上から来ていた圧力が軽くなり、副団長さんの左腕が動く。
俺に上から来る攻撃に集中させ、動けないように釘付けにしてから、最終的に下から木剣を体に当てる事を狙ってたのか!
さっきまで考えていた事が外され、一瞬どうしようか迷う俺。
その間にも、副団長さんの左腕は動いており、俺の体の右下辺りから木剣が体に迫って来る。
上からはまだ右手の木剣を受け止める形になっているので、今こちらを下げるわけにはいかない。
下げて下からの攻撃を防御したら、上から追撃が来るだろうしね。
迷っている俺には、どうすればいいのか考えがまとまらず、体に木剣が当たってしまう……と考えて、少し身を固くした瞬間、無意識に今まで使っていなかった左手が動き、少々不格好にはなったけど、手の平で副団長さんの木剣を受け止めた。
「っ……このっ!」
「くっ! せいや!」
一瞬自分でも驚いたけど、それは副騎士団長さんも同じ。
まさか素手で、木剣を受け止めるとは思ってなかったんだろう。
驚いて目を剥いている副団長さんをそのままに、左手をそのまま握り込んで木剣を捕まえる。
それを力任せに引っ張ってぶん投げようとする俺に、副団長さんはすぐに剣を手放した。
「くっおっと……」
副団長さんを引っ張ろうと力を込めていたので、なんの抵抗もなく手放された木剣は軽く、俺の体勢を崩した。
すぐにそこに狙いを付けて、もう一度副団長さんの残っていた右手の木剣が振り下ろされる。
「くっ……でも、片方だけならっ! せいやぁ!」
「ぬっ……ぐあ!」
俺の肩に当たるギリギリのところで、副団長さんの木剣を受け止める。
今回は片方だけだから、さっきよりも上から来る圧力は少ない。
それを補おうと、副騎士団長さんは木剣に左手を添えようと動くが、こちらの方が早い。
俺も左手を受けていた木剣に添え、そのまま真っ直ぐ上に向かって弧を描くように振り上げる。
自分が込めてる力以上の力で、上へと跳ね上げられた副団長の木剣は、そのまま手から離れ、場外へと飛んで行った。
「それまで! 武器を失った事により、勝者、リク様!」
「「「うぉぉぉぉぉ……」」」
審判さんが試合を止め、俺が勝者であると宣言。
ルールでは、武器を落としたら負けとあるので、2本持っていた木剣を両方失った副団長さんの負けという事だ。
実践なら、ここで組手とか素手での戦いに持ち込まれたり……なんて事があるかもしれないけど、これはあくまで訓練だしね。
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