第345話 リクへのアピール



「いえね、レナーテはリク殿の事が、気に入ったみたいですからね。リク殿の方はレナーテの事をどう思ってるのか、気になってしまって」

「そうだね。父親としては、少し複雑だけど……リク殿が相手なら、喜ぶべき事だね」

「ふむ、リク殿と……と考えると、子爵家よりも格上となるだろうからな。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ」

「えぇっと……そうですね、レナ……レナーテさんは、可愛らしい方だと思います。自分がどうみられるのかも気にしているようですので、将来は綺麗な女性になるんじゃないですかね?」


 レナの両親と祖父に対し、無難ではあるが一応褒めておく。

 まぁ、お世辞とかではなく本心だけどね。

 それはともかく、俺に視線を向けてる三人が、何かを計画しようとしてる気がするのは、気のせいだろうか?

 というよりクレメン子爵、俺が子爵家よりも格上なんて事、ありませんからね?

 勲章をもらっただけで、貴族ですらないのに、子爵位よりも上になる事なんてないだろう……ないよね?


「……リク殿からすると、まだまだという事か。さもあらん。近くにモニカ殿もいるのだしな」

「え!?」


 クレメン子爵が考えるようにしながら呟いた言葉に、こちらの話を聞きながらも、料理を食べていたモニカさんが弾かれたように反応する。


「ん? リク殿と一緒にいるのだ、モニカ殿とは良い仲なのだろう?」

「え、いえ……私とリクさんはそんな……」


 モニカさんの反応に、クレメン子爵が首を傾げながら問いかける。

 顔を赤くして俯いたモニカさんは、しどろもどろになりながら否定しようとしてる。


「えっと、俺とモニカさんは、冒険者のパーティなので、一緒にいるんですよ?」

「ふむ、そうなのか。だとしたら……」

「えぇ、そうですねお義父様……」


 一応、俺からもフォローとして否定しておく。

 なんだか少しだけ、モニカさんが落ち込んだような雰囲気になってるけど、多分気のせいだ。

 ユノが食べる手を止め、モニカさんの肩をぽんぽんと叩いてるな……何でだろう?

 それはともかく、俺の言葉を聞いたクレメン子爵とレギーナさんは、お互いに視線を交わし何かを考えてるようだ。


「モニカ殿の方は微妙だが、リク殿の反応を見る限り……のようだ。レナーテは側室でもと……だが、これならばもしかすると……」

「そうですね、お義父様。レナ―テにも……」


 クレメン子爵とレギーナさんは、二人して小さな声で相談し始めた。

 漏れ聞こえて来る声によると、俺やモニカさん、レナの事を話してるみたいだけど……側室?

 なんの事だろう?

 ヘンドリックさんに至っては、少しだけやれやれといった雰囲気を出しているけど、二人の会話に入れないらしく、料理を楽しむ事に切り替えたようだ。


「リクさん……私、リクさんにとって、ただ同じパーティなだけなのかしら……?」


 相談する二人を見ていると、横からモニカさんに聞かれた。

 どうしたんだろう、ちょっと泣きそうな顔になってる。


「え? モニカさん、何を言ってるの? 俺にとってモニカさんは、獅子亭にいた頃からの恩人だし、大切な人だよ。同じパーティだからというだけじゃなく、モニカさんがいないと、俺は色々と駄目だからね」

「そ、そう……うん、良かったわ」


 モニカさんが、俺にとってただ同じパーティにいるだけというわけがない。

 獅子亭ではお世話になったし、一緒に冒険者にもなった。

 この世界に来てから、一番一緒にいたのは、エルサでもユノでも、ましてや姉さんでもなくモニカさんだからね。

 その事をモニカさんに伝えると、顔をリンゴのように真っ赤にさせ、俺から視線を逸らした。

 俺、変な事言ったかな?


「モニカ、望みはあるの」

「そう、みたいね。ユノちゃん、ありがとう」


 ユノとモニカさんがコソコソと話す。

 何を話してるのか気になったけど、女の子同士の話に割り込むのも気が引ける。

 クレメン子爵とレギーナさん、モニカさんとユノがそれぞれ内緒話をしていて、俺とヘンドリックさんは、周囲が何故こうなってるのか気になりながらも、話に入れず、仕方なく料理をつつく。

 唯一、エルサだけが、我関せずでキューを頬張っていた。


「レナーテが……」

「そうですね……ですから……」

「モニカ、……とかは……?」

「そうね……それもいいのかも……」

「キューがいっぱいなのだわぁ。幸せなのだわぁ」


 なんだろう、この空間……。

 ちょっとだけ、ヘンドリックさんに親近感が湧いてしまった……。



「はぁ、食堂でのあれは、一体何だったんだろう?」


 夕食も終わり、満足そうなエルサを頭にくっ付け、部屋へと戻って来て溜め息を一つ。

 食事を楽しんでたエルサはともかく、俺とヘンドリックさんは、何故か肩身が狭かった。

 それぞれの相談の声を漏れ聞くに、俺の話らしいんだけど、こちらにはなにも振られないし……。

 しかも食事を終えて、部屋へと戻る直前、レギーナさんから「リク殿、レナーテの事をよろしくお願い!」とか言われるし……何がなんだかわからない。

 というか、一切話題に上らないエフライムって……。


「まぁ、わからない事を、今気にしても仕方ないか……風呂入ろう」

「お風呂だわ? 私も入るのだわぁ」

「はいはい。地下を通って、エルサの毛も埃で汚れてるからね、しっかり綺麗にするよ」

「お願いするのだわぁ」


 気にしてもわからない事を引きずるのは止めて、気持ちを切り替えるためお風呂に入ろうとする。

 俺の独り言を聞いていたエルサが、頭の上ではしゃぐように反応し、一緒に風呂に入る事にした。

 とはいえ、さすがにここは城の部屋とは違って、個室にお風呂があるわけじゃない。

 子爵邸に来たばかりだから、どこに何があるかわからないため、ベルを使って使用人さんを呼び、案内してもらった。


 しかし、エルサも風呂好きになったもんだなぁ……まぁ、最初から嫌がってはいなかったけど。

 ドライヤーもどき魔法の効果も、あるのかもね。

 それに、毛を洗ってる時も気持ち良さそうだし、自分の毛が綺麗になって行くのが嬉しいのかもしれない。

 ドラゴンでも、女の子って事かな?



 翌日、起きて朝の支度をしていると、昨日部屋まで案内してくれた執事さんが来て、朝食の用意ができてる事を伝えてくれた。

 昨日の食堂に皆で集まり、朝食を頂く。

 エフライムやレナもさすがに起きていて、熟睡できたおかげか、疲労はすっかり取れたようだ。

 笑顔で朝の挨拶をし、改めて俺達が助けた事のお礼を言われた。


 クレメン子爵を始め、子爵家の皆で一斉に頭を下げられたから、俺もモニカさんも驚いた。

 貴族って、こんなにすぐ頭を下げたりするもんなのかな?

 それだけ、エフライム達を助けた事を感謝してるとか、クレメン子爵達が気安い人柄という事かもしれないけど。

 でも、あまりお礼ばかりだと、逆に困ってしまう。

 エフライム達を助けたのは、やっぱり偶然だと思うからね。


 そんな事もありつつ、皆で食卓について朝食を頂いた。

 何故かレナが朝食の時俺の隣に座り、やたらと体を寄せてきたり、それをレギーナさんが手を握りしめて応援していたり、エフライムが俺を恨めしそうな目で見ていたり、モニカさんがフォークに乗せた料理を俺に向けようとして自分で食べたりと、概ね平和な朝食だった。

 ……平和って思ってるの、俺だけかな?



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