第344話 エルサの無限の食欲



「モニカさんの胸かぁ……確かに、大きいけどさ……」

「番うのだわ?」

「番うって、何て事を……というか、起きてたのか?」

「寝てはいないのだわ。休んでただけなのだわ」


 ソファーで丸まったエルサは、ユノがつついても微動だにしなかったので、すぐに寝てしまったのかと思っていた。

 けどエルサ……番うって……変な事を言うなよ。

 冒険者パーティとして、同じ冒険者の仲間としてやって行こうと考えてるのに、変に意識してしまうじゃないか。

 確かに、モニカさんの胸部はどんな服を着ていても、隠せるものじゃない。


 獅子亭にいた頃は、マックスさんやマリーさんが見張ってた事もあって、不躾な視線を向けるような人はほとんどいなかったけど。

 それでも、男なら……いや、女性でも、お客さんでモニカさんを見ない人はいなかったと思う。

 人間として、揺れる物に無意識で目が行くのは仕方ないと思うんだ、うん。

 しかも、傍から見てるとモニカさん自身が無防備に見えて……これは、マックスさん達が守ってた弊害かもしれないけど。


「はぁ……変な目でみないように、気を付けないと」


 気を引き締めておかないと、変に意識してしまいかねない。

 そうすると、頑張ってるモニカさんにも失礼だからね。

 とにかく、一旦落ち着いて意識を変えるため、ベルを使って執事さんを呼び、お湯を用意してもらって、自分でお茶を淹れた。

 エルサは、興味があるのかないのか、よくわからない目で俺を見てたけど、そちらも気にしないようにした。


 ちなみに、執事さんを呼んだ時、お湯だけじゃなくお茶の用意もしてくれると言ってくれたけど、それは断った。

 日常的な動作をする事で、自分の意識を変えたり、落ち着いたりできるからね。

 おかげで、なんとか落ち着いた……ような気がする。



「失礼します。夕食の支度ができましたので、お呼びに参りました」

「わかりました。クレメン子爵達も?」

「はい。皆様で夕食をとの事です。食堂にてお待ちになっております」


 しばらくお茶を飲んでゆっくりしていると、執事さんが夕食ができたと呼びに来た。

 クレメン子爵達も一緒らしい。

 貴族と一緒の夕食なんて、光栄な事だ……なんて考えながら、いつものように俺の頭へドッキングして来るエルサを待って、執事さんの案内で食堂へ移動した。

 エルサ、食べる事になるとやっぱり行動的になるんだな。


 さっき食べてから、そこまでの時間は経ってないのに、早く食堂へ向かえと騒ぐエルサを抑えながら移動する。

 というか、さすがに食べ過ぎじゃないかな、エルサ?

 ドラゴンが食べ過ぎで太るとか、体調が悪くなる事があるかどうか、知らないけど……。



「さっきもそうでしたが、美味しいですね」

「キューだわぁ、キューなのだわぁ。新しいキューもあるのだわぁ」

「気に入ってもらえたようで、何よりだ。後で、料理を担当した者には伝えておこう」


 広い食堂にて、俺やモニカさん、エルサやユノが食卓につき、用意してもらった食事をありがたく頂いている。

 クレメン子爵にヘンドリックさんとレギーナさんが、同じ食卓について、食事をしている。

 レギーナさんは、レナと同じくらいに見えるユノがお気に入りらしく、大量に食べる姿を微笑ましく見ているし、ヘンドリックさんは、キューを食べるエルサをビクビクしながら見ていた。

 エルサがドラゴンって事を聞いたんだろうけど、むやみに人を襲ったりしないから、怯えなくてもいいんだけどなぁ……クレメン子爵の言う通り、気弱な人みたいだ。


 俺はクレメン子爵と話しながら、モニカさんは黙々と食事を頂いている。

 さっきユノが爆弾発言をしたせいで、なんとなくお互い顔を合わせづらいから……。

 マルクスさんは馬車を回収して戻って来た後、クレメン子爵が誘ったらしいが、兵士だからと別室で頂く事にしたらしい。

 

 ちなみにエフライムとレナは、やはり疲れが溜まっていたらしく、今も熟睡して起きる気配がないようだ。

 特にエフライムは、閉じ込められてる間気が休まらず、ゆっくり休める事はなかったみたいだから、ようやく帰って来れて安心したんだろう。

 今は疲れが取れるまで、しっかり休んで欲しい。


「オシグ村でも出て来ましたけど、これはこの辺りではよくあるんですか?」


 エルサが喜んで口に運んでいるキューの浅漬けを見ながら、クレメン子爵へ聞く。

 あれだけ多くのキューを出されておきながら、王都やヘルサルでは、浅漬けを見た事はなかったからね。


「うむ、保存にもいいし、我が子爵領ではよく作っているな。キューだけでなく、他の物もあるが……ともかく、旅をするにも丁度良い物になるな」

「そうですか」

「……嬉しそうに食べてるな?」

「そうですね。オシグ村で食べて、気に入ったようです。保存するためでもあるんですよね? 食べ過ぎたりは……?」

「はっはっは! 気にするな。ドラゴンに食べてもらえるのなら、光栄というものだ。それに、またすぐにでも領内から取り寄せる事もできる」


 キューの浅漬けは、子爵領の特産品みたいなものと思えばいいのかもね。

 王都へ帰る時に、買って帰るか、作り方を聞いて城でも作ってもらえるようにしたら、エルサも喜ぶだろう。

 それはともかく、大量に皿へと積まれたキューや浅漬けを、肉料理と一緒に食べるのはどうかと思うぞ、エルサ。

 量を食べる事は、クレメン子爵は気にしてないらしく、笑ってくれてるけどね。


 でもそうか、今まで街が封鎖されてるに近かったから、子爵邸に十分な食料がない可能性もあったのか……。

 この夕食会の様子を見るに、備蓄は大丈夫そうだし、これからはすぐに他の村から仕入れもされるだろうから、問題はないんだろうけど。


「しかし、本当にドラゴンがキューを好むとはな……この国では大量に生産されているが、希少な物でなくともいいという事か」

「初めて会った時に食べせたら、何故か気に入ったんですよね。どこに行っても売ってる作物なので、助かってます」

「ふむ……新たなドラゴンの伝説に、好物はキューと記されそうだな」

「ははは、キューが好きなのはエルサくらいだと思いますよ。他のドラゴンは、キューが好きかどうかわかりませんから」


 他のドラゴン、キューが好物になったりしないよね?

 エルサ以外のドラゴンとは会った事ないし、いるのかも知らないけど、エルサだからキューが好物になったんだと思う。

 そもそも、俺が食べさせるまで、知らなかったらしいしね。

 それにしても、この国でキューが多く作られてて良かったと思う。


 これで、センテ周辺のみでしか作られておらず、他の地域では希少な作物だったりしたら……エルサがヘルサルやセンテから、離れようとはしなかっただろうしね。

 おやつ用のキューも数が少なくなって来たから、帰り道用の物も、この街かオシグ村で買っておかないと。


「そう言えば、リク殿。レナーテはどうですか?」

「え? どうとは……?」


 クレメン子爵と、エルサについて話していると、横からレギーナさんから話しかけられた。

 母親らしく、娘の事を気にかけてとの事だと思うけど……どうと言われても、範囲が広すぎてなんと答えたらいいのかわからない。

 一体、何が聞きたいんだろう……俺から見た体調とかかな?



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