第341話 レナーテのアピール



「ふむ、オシグ村とこの街との間でそんな事が……」

「はい。村の人達は、ここへ助けを求める事もできず、仕方なく王都へと来たようです」

「そうか……オシグ村には、何かせねばならんな……」


 食事が進む中、さっき簡単に話しただけで、詳しく話していなかったオシグ村での事、ロータの事や街道近くに魔物が出た事を話す。

 エフライム達が人質にされ、外からの情報を遮断されていたため、今まで魔物が集まっていた事も知らなかったようだ。

 ロータの父の事や、王都との間に野盗がいた事なども含めて、眉間に皺を寄せて考え込むクレメン子爵。


「それにしても、そのおかげでリク達がここまで来てくれたと考えると、皮肉だな……」

「そうだね。それがなかったら、俺達がここまで来たかもわからないし」

「そうなると、俺達が助けられるのも、まだ先だった可能性があるわけか」


 食事をしながら、エフライムが呟く。

 確かに、オシグ村の事や、ロータが頑張って王都まで依頼をするために来なければ、俺達がクレメン子爵の所まで来る事はほとんどなかったと思う。

 その場合、騎士団長さんやリロさんが、エフライム達を助けるまで待たないといけないから、まだ閉じ込められたままだったのかもね。

 とは言え、ロータの父、ヌートさんの犠牲があったりするわけだから、何も考えずにこれで良かったと思う事はできないけどね。


「だが、そのために民が犠牲になっている。手放しでは喜べんな」

「そうですね、お爺様」

「今聞いたオシグ村の事は、ほんの一部に過ぎないかもしれんな。すぐに、領内で起こった事を調べなければ」


 そう言ったクレメン子爵は、領内で誰か他の人が犠牲になっていない事を、願っているようでもあった。

 オシグ村でマルクスさんが聞いたように、領民の事を考えてくれる人みたいだね。


「リク様、リク様」

「ん、なんだいレナ?」

「はい、あーん」

「え?」

「レナ!?」


 クレメン子爵やエフライムと話していたら、いつの間にか俺の隣に来ていたレナが、自分の料理をフォークに乗せ、俺に向かって差し出した。

 急な出来事で、戸惑っていると、それを見たエフライムがすぐに反応。

 レナの名を呼びながら、立ち上がった。


「お兄様、うるさいです」

「いや、しかしなレナ……」

「うむ、レナも成長したのだな。エフライム、ここは黙って見守ろうではないか?」

「お爺様まで……」

「邪魔者は静まりました。それではリク様、あーん……」

「えっと……」


 俺にフォークに乗った料理を差し出しながら、レナがエフライムをジト目で注意する。

 止めようとしたエフライムだが、何故か孫の成長を喜んでいるような表情をしたクレメン子爵が、エフライムを座らせ、黙らせた。

 いやあの、俺にあーんをして来る事で、成長を実感しないで欲しいんですが……。

 エフライムが静かになった事で、すぐに気を取り直して、また俺に料理を差し出して来るレナ。


 どうしたらいいんだろう?

 そう思って、視線を巡らせると……マルクスさんは我関せず、ユノとエルサは食べる事に夢中。

 モニカさんは……何だろう、レナの事を尊敬するような目で見ている。

 もしかして、モニカさんも同じ事をしたいとか……は、ないよなぁ。


「さ、リク様?」

「あ、うん。あーん」


 誰も止めてくれる人がいないため、レナの押しに負けて口を開ける俺。

 そこにレナが差し出したフォークが入り、料理が口の中に入れられる。


「美味しいですか、リク様?」

「う、うん。美味しいよ。……でも、落ち着いて食べたいから、これで終わりね?」

「むぅ……リク様がそう言うなら、仕方ありません」

「……ほっ。いや、一度でもレナのフォークで料理を食べたのだ……リク、許すまじ……」

「うむうむ……若いというのは、よい事だな……」

「……いつか、私もしてあげようかしら?」


 俺が自分の差しだした料理を食べた事を喜び、満面の笑みを浮かべたレナに答えつつ、もうやめて欲しいとお願いする。

 ちょっと不満そうだったけど、何とか引き下がってくれたレナ。

 それを見て、エフライムが俺の心情を代弁するように、ホッとしていたが、すぐに思い直して俺をジト目で見る。

 いや、そんな目で見られても……レナが勝手にやった事だし、俺がお願いしたわけでもないんだけどな。


 横でクレメン子爵は、面白い物を見たとばかりに笑ってるし……貴方の孫ですよ、止めて下さい。

 モニカさんは、レナの方を見ながら何やら呟いてるし……変な事を考えてなければいいけど……。



「失礼します」

「うむ、来たか」


 レナの行動で、ちょっとした騒ぎがありつつも、無事に昼食会は終了。

 使用人さん達が食器類を下げるのを見送った後、少しまったりした空気になり、ソファーで寛いでいると、応接室に二人の男女が入って来た。

 身なりが良く、執事服やメイド服を着ていない事から、使用人さんじゃない事はわかるけど、誰だろう?

 心なしか、女性の方はレナに似ているような……?


「リク、紹介する。こちらが、俺とレナの父と母だ」

「初めまして、リク殿。レギーナ・シュタウヴィンヴァーと申します」

「……エフライムやレナーテの父です。ヘンドリック・シュタウヴィンヴァーです」

「初めまして、リクです」


 入って来たのは、エフライム達の両親らしい。

 そりゃレナと似てるわけだね。

 エフライムとは……うん、お爺ちゃん似だね、あっちは。


「すまぬな、リク殿。エフライム達を助けた事にお礼を言いたいらしくてな。一応、事情の説明と、食事の時は邪魔になるから待ってもらっていた」

「いえ、大丈夫ですよ。それに、こうして挨拶できて良かったです」


 どうやら、クレメン子爵は俺達との話の邪魔にならないよう、ここに来るのを遅らせてたらしい。

 まぁ確かに、応接室が広いとはいえ、ソファーには限りがある。

 子爵家の者が来たからと、立ち上がったマルクスさんの座っていた場所はともかく、それ以外ではもう二人が座る場所はない。

 詰めて座れば、何とかできるだろうけど、それだと落ち着いて話せないし、食事もできないと考えたんだろうね。


 ちなみに、二人には俺達の事を、食事をしている間に執事さんを介して説明していたらしい。

 それと、エフライム達には既に、着替えやお風呂に入りに行った時には顔を見せていたようだ。

 うん、両親に無事な姿は早く見せた方が良いからね、二人共気が気じゃなかったかもしれないし。


「お父様、お母様。この人がリク様です!」

「えぇ、わかっているわよ。リク殿、この度はエフライム、レナーテを救っていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます、リク殿」


 レナが両親へ、俺を自慢するように胸を張って紹介する。

 それを優し気な目で見ながら、俺に向き直った二人で、頭を下げて感謝を伝えられる。

 優しそうな二人だなぁ。

 ヘンドリックさんの方は、さっきからレギーナさんに付いて話してるようで、正直頼りない印象を受ける。

 これも、リロさんみたいに実は……とかあるんだろうか?


「リク様、お父様とお母様です! お父様は少し気弱で頼りないのですが、お母様は優しいのです!」

「ははは、優しくていい両親なんだね」


 レナからも、気弱で頼りないと言われるヘンドリックさん。

 言われた本人は、苦笑しながら手を後頭部に当ててる。

 んー、見たままの人っぽいね。

 そう考えながら、レナの紹介に笑って答えた。



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