第340話 子爵邸で遅めの昼食
「だから、エフライム達を救出するため、騎士団長に付けた。リロなら、どの者がバルテル配下の者か判断できるからな」
「成る程……それで、地下で会った時にあの二人だったのですね?」
「うむ。戦闘があった場合を考えると、他に適任がいたかもしれないが……エフライム達の捜索となれば、あ奴程の適任は他にいないだろう」
人を探すだけなら、他にも適任がいたかもしれないけど、今回は攫われたエフライム達の捜索だからね。
バルテル配下の者が、周囲にいる事は当然の事だ。
顔や名前まで全て知ってるのかはわからないけど、そういった判断ができるのなら、バルテル配下の者達が固まってる場所を調べれば、エフライム達がいる場所がわかると考えたんだと思う。
相手側に悟られちゃいけないため、大量の人を使っての人海戦術に出られない以上、少数行動とするなら、それが一番良かったのかもしれない。
まぁ、実際は騎士団長さんやリロさんが、エフライム達の所へ辿り着くまでに、俺が助け出しちゃったんだけどね。
魔法探査ってやっぱり便利だなぁ、今回はかなりの偶然だと思うけど。
もう少し、色々な事がわかるように、慣れて行った方がいいかもしれない。
「まぁ、そういう訳でだ、街の事は騎士団長とリロに任せておけばいいだろう。ここ最近、何も動けなくて、騎士団の者達も鬱憤が溜まっていただろうしな。本当に今日中にバルテル配下の者は、街からいなくなってもおかしくないだろうな。当然、他の街や村でも同様の事が行われ、領内から排除、捕縛がされて行くだろう」
「バルテル配下は、騎士団の八つ当たり対象ですか、お爺様?」
「今まで、散々苦しませてくれたからな……直接何かをする事はほとんどなかったようだが……おかげで、街の治安も悪くなって来ているとの報告が来ている。この機会に、ならず者達の取り締まりもしなければな」
この街を含めて、子爵領内にいるバルテル配下の者は、徹底的に追われる事になるんだろう。
今まで領内で何かあっても、見ているしかできなかった騎士団が八つ当たり……かぁ。
原因があっちにあるから、八つ当たりじゃなくて正当な反撃なんだろうけどね。
何にしても、これで子爵領内が安全になるなら良い事だと思う。
ロータの父親のような事が、この先起こらない事を願うばかりだ。
「申し訳ありません、お爺様。俺が捕まってしまったばかりに……」
「なに、気にするな。ワシも前以て予期する事はできなかった。内部にまで入り込まれていたとはな……。今回の事、リロは相当頭に来ていたようだ」
「リロがですか?」
「エフライム達が攫われた後、内部に裏切り者や内通者がいた事を、全て調べる事ができなかったと後悔していたな。ワシの所に来て土下座までして来たぞ? 騎士団を抜けさせられる覚悟まで決めてな」
「そんなに……ですか」
「その事を後悔して、ずっと内偵を進めていたんだ。解き放たれたリロは、喜々としてバルテル配下の者達を追い詰めるだろうな」
リロさん、そこまで思い詰めてエフライム達が捕まった後、頑張ってたのか。
会って話したのは、少しだけしかないが、子爵家への忠誠というか、騎士団としての誇りは十分過ぎる程にある人らしい。
「失礼致します」
リロさんの話が終わった頃合いを見計らったように、先程の執事さんが数人のメイドさんを連れて部屋へと入って来た。
そのメイドさん達は、それぞれに料理の載ったお皿を持っており、俺達の前へと配膳してくれる。
「やっと食事なのだわ!?」
「はいはい、ようやくお腹いっぱいに食べられるぞ。すみません、クレメン子爵」
「これくらいの事、気にしないで欲しい。リク殿には、エフライムやレナーテを助けてもらったのだ。これだけでは全く足りないだろう」
「そうだな。リクがいてくれたから、今こうしてここにいられる。騎士団長達の捜索を待っていたら、救出はもっと遅れてただろうしな」
「そう、ですかね?」
さっきの話を聞い後だと、リロさんはある程度エフライム達がいた場所に、目星を付けていたのではないかと思う。
そこを調べて、エフライム達がいる事を確認、子爵邸に戻って騎士達を連れて、救出……多分、ほんの2、3日で済ませてたんじゃないかな? と思う。
まぁ、予想でしかないんだけどね。
「キューは、キューはないのだわ!?」
配膳されて行くお皿を見ながら、唐突にエルサが騒ぎ始めた。
確かに、用意される料理は、肉料理やサラダ、スープ等々で、キュー単体の物はない。
俺達を歓迎してくれる証として、凝った物を用意してくれたのだろうと思うけど、逆にそれが、キューを単体で出す事が避けられる結果になったのかな。
……違うか……単純に、貴族家でキューを単体で出す事がないんだろう……王城でも最初はそうだったし。
「キュー……ドラゴンはそういった物を好むのか?」
「いえ、俺にもそれはよくわかりません。確かに、救出されてから見るに、キューを食べて喜んでる姿は何度も見ましたが……」
「先程も、キューを食べて喜んでいたな……」
「すみません……もしあればでいいんですが、キューを持って来てもらえると……」
騒ぎ出したエルサに、悩むように考えながらエフライムへと聞くクレメン子爵。
エフライムの方も、昨日の夕食や今日の朝食で、エルサがキューを大量に食べてたのは知ってるけど、それが好物だとは判断がつかないようだ。
そんな二人に、申し訳ない気持ちになりながら、キューをお願いする。
俺達が持って来ているキューでもいいんだけど、エルサの食欲に任せて食べさせたら、すぐに無くなってしまうからな。
キューを主食に、他の料理をおかずにする……なんて事をやってのけるエルサだ。
キューはいくらあっても足りない。
「了解した。なぁに、キューを用意するくらい、大した事でもないだろう。エフライム達を助けてくれたリク殿達の要望だ。領内の村にある、キューを作る農地の一部ごとあげてもいいくらいだ、はっはっは!」
「お爺様……さすがにそれは……」
「はぁ……」
「ははは、それはお気持ちだ受け取っておきます」
「キュー畑……夢がひろがりんぐだわぁ……」
大袈裟な事を言って笑い始めたクレメン子爵。
それだけ、孫が無事だった事が嬉しいんだろうけどね。
エフライムはさすがに苦笑してるし、レナは溜め息を吐いている。
孫に関する事で、何かしら暴走するのはよくある事なのかもな。
それにしても、エルサ……キューの畑を本気で欲しがったりは……止めてくれよ?
管理もできないし、大体誰がキューを作るのか……エルサに言ったら、俺が作ればとか言い出しそうだが。
というか、ひろがりんぐなんてまた変なスラングを……どうせ俺から流れて来た記憶なんだろうが。
「よし、用意できたな。では、頂こうか」
「はい」
「キューなのだわぁ!」
「いっぱい食べるの!」
追加でエルサ用のキューを用意してもらい、全てが揃った状態で、クレメン子爵の合図で食事の開始。
クレメン子爵は既に昼食は食べていたようで、用意された物は地下通路を通って来た俺達用のようだ。
改めて用意されたキューに飛びつくエルサと、大量の料理を前に戦闘さながらの気合を入れるユノ。
クレメン子爵に失礼じゃないかと思ったけど、ちらりと窺うと笑顔だった。
あまり細かい事は、気にしない人なのかな?
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