第339話 騎士団長への排除指示



「うむ、そうだな……まず、バルテルの手の者が街に常駐し、ワシを監視していたのだが……その時、外部との連絡も途絶えてしまってな。街の入り口を見張る事で、王都からだけでなく、領内から来る連絡役も全て押さえられた。表面上は、ワシが連絡を受け取ったと見せかけて、な。だから、ワシ達は王都であった事を一切知らないのだ」

「そうですか……完全に街を掌握されていたのですね」

「うむ。まぁ、ここ数日は浮足立っていて、綻びが出て来ていたのだがな。ともかく、その状態で王都へ報せの者を出すのも危険と考えた。街の外にどれだけバルテルの手の者が行っているのかも、わからんからな。もし見つかり、エフライム達へ危害を加えられる事を考えると、強行する事はできん」

「確かに、外の様子がわからないとなると……迂闊に使者を出すわけにもいきませんか」

「そういう事だ」


 クレメン子爵は、エフライム達に危害が及ぶ可能性を考慮して、リスクが伴う事は避けていたという事か。

 おとなしくしていれば、エフライム達に何も危害が及ばない……という保証はないけど、下手に刺激するよりはいいと考えたんだろうね。

 バルテルが死んでも、連絡や交代が来ない事に不思議がるようになるまで、しばらく時間もかかっただろうし……。


「失礼します」

「リク様、お待たせしました!」


 しばらくクレメン子爵と話していると、お風呂に入ってさっぱりしたエフライムとレナが応接室に入って来た。

 二人共、汚れてた衣服はちゃんと着替えてる。

 レナなんて、クレメン子爵に挨拶する前に、俺の前に駆け寄ってきて、着替えたドレスっぽい物を見せて来た。


「うん、可愛いね」

「ありがとうございます。……本当は、綺麗と言って欲しかったですが」

「ははは、レナーテはリク殿にご執心のようだな?」

「お爺様、レナはまだそんな年頃では……」

「エフライム、そんなものだろう。覚悟をしておかなければならない事だ」

「うぅ……レナ……」


 レナを褒めると、微笑んでお辞儀をした。

 こういう所を見ると、貴族の子女何だなっていうのがはっきりとわかる。

 そんなレナの様子を見て、クレメン子爵の所へ行ったエフライムは、妹の成長を喜んでいるのか、少し涙目だ。

 妹思いなのは良いだと思うけど、何も泣かなくても良いんじゃないかなぁ?


「歓談中失礼致します。クレメン様、お食事の支度ができたとの事です」

「うむ。こちらに持って来てくれ、ここで頂くとしよう。それと、ナトールを呼んでくれ」

「畏まりました」


 エフライム達の後に、すぐ結構年の行った執事さんが入って来て、クレメン子爵に報告。

 食事の準備ができたみたいだ。

 そろそろエルサやユノが、空腹で耐えきれなくなって来たように見えるから、ありがたい。

 エルサ……やっぱりキュー数本じゃ足り無さそうだな。


「失礼致します。クレメン様、お呼びとの事ですが?」

「うむ」


 執事さんが退室してすぐ、騎士団長さんが入って来た。

 多分、近くにいたんだろうな。

 騎士団長が入って来たのを見て、クレメン子爵が頷いた。


「ナトール……これより、我が子爵領よりバルテル配下の者達を排除する。まずはこの街からだ」

「よろしいのですか?」

「構わん。エフライムやレナーテもこうして無事だ。それに、バルテル本人は既に亡き者になっているのだからな」

「バルテルが? それは本当ですか?」

「うむ。先程リク殿が教えてくれた。王都からも連絡が来ていたらしいが……街にいる者達に妨害されていたようだな」

「成る程……だから最近、街にいるバルテル配下の者達が浮足立っていたのですね?」


 クレメン子爵が、俺とマルクスさんの方に視線を向けながら、騎士団長さんにバルテルが死んだ事を伝える。

 地下通路で、エフライムに話した時、騎士団長もバルテルの事を聞いてなかったっけ?

 と思ったけど、あの時は俺の事を聞いて呆然としてたから、もしかしたら耳に入ってなかったのかもしれない。


「そうだろうな。一部の者が王都からの連絡を、子爵家の者を騙って受け取り、下の者には報せなかったのだろう。しかも、その情報を握りつぶしていた可能性もある。だが、連絡と交代が来ない事で怪しんだ者達が憶測を始め、浮足立つという事に繋がったのだと思う」

「わかりました。……リロの部隊を使っても?」

「うむ。あ奴なら、どの者がバルテルと関係しているか、していない者も含めて把握しているであろう」

「畏まりました。騎士団を緊急収集させて、事に当たらせます。本日中には、街の統制は取り戻して見せましょう」

「頼んだぞ」

「はっ!」


 クレメン子爵が指示を出して、部屋から退室して行く騎士団長さん。

 王都からの連絡で、一部の人達は上司であるバルテルが死んだ事を知ったみたいだけど、全員には報せなかったのか……情報を信じてたかどうかはわからないけど、統率をとるために、報せなかったと考えるべきか。

 そうする事で、しばらくは何も無くクレメン子爵を見張っていられたんだろうけど、段々と連絡や交代がない事を不審に思い始めた人達がいるって事か。

 全てを隠す事ができず、ゆっくりとバルテルが死んだ事が広まり、自分達がどうすればいいのかわからなくなったのを、クレメン子爵たちが浮足立っていると判断した、と。

 やっぱり、王都からの連絡不備ではなかったみたいだね。


「お爺様、リロですか? あそこは事務方……騎士団の中でも、裏方に相当する部隊のはずですが?」

「うむ、表向きはな。……ここにいる者達なら、問題は無いか。皆、あまり口外はしないで欲しい」

「はい、大丈夫です」


 エフライムが、騎士団長の言った「リロを使う」という事に対し、疑問を感じたようだ。

 頷いたクレメン子爵は、俺達を含めた部屋の皆を見渡しながら、他では言わないように注意する。

 俺が頷いて答え、他の皆も順番に頷いた。


 俺やモニカさんは、貴族の騎士団の内情を他に言う事はないだろうし、そんな機会もない……と思う。

 マルクスさんは、王都の兵士なのでどうするかはわからないけど、口は堅いと思う。

 ユノやエルサがどうなのかちょっと不安だけど、そもそもそういう事を誰かと話す事もないだろうからね。


「……リロは、事務担当をする部隊を率いているが、それは表向きとなっている。まぁ、実際に仕事はしているがな。だが、本来の部隊の仕事は内部調査機関だ。リロは、軽い口調といい加減な態度に見せかけて、鋭い視線で騎士団内部のみならず、子爵領内で不正をしている者を調査している」

「内部調査……」


 皆が頷いたのを確認し、クレメン子爵がリロさんの事を話し始めた。

 つまりリロさんは、内偵班という事かぁ。

 だから相手からの不用意な一言を引き出すために、不真面目に見える態度をしているのかもしれないね。

 俺達と初めて会った時、警戒するのは結構鋭い気配をしてたから、見た目や雰囲気に騙されちゃいけない人なんだろう……それが素なのかもしれないけど。


 こういうの、昼行燈って言うんだっけ?

 いや、何か違う気がする……。

 ともかく、余計な事は考えず、クレメン子爵とエフライムの会話を聞こうかな……。


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