第338話 クレメン子爵へ事情説明



 子爵邸の中を使用人さん達の案内で移動し、大きなテーブルと、大きなソファーが中央にある部屋に到着。

 ここが応接室かぁ……。

 ここに来る途中、少し子爵邸の中を見たけど、王城に比べれば調度品とかも少なく、質素な印象を受けた。

 子爵の屋敷なんだから、城と比べちゃいけないんだろうけど。


 掃除が行き届いているのか、隅々まで綺麗にされてるように見えた廊下は、あまり豪奢にならず、質実剛健という言葉がぴったりだと思った。

 贅沢をあまりしない家風なのかもしれない……まぁ、一部分しか見てないから、全てを判断できないだろうけどね。


「さて、エフライム達が戻るまでの間だが……軽く今までの事を話してもらえないか?」

「今までの事……エフライム達を助けた時の事ですか?」

「その事もだが、リク殿の事も含めて、教えてくれるとありがたい。……その、エルサ様の事も……だな」

「わかりました」

「……王都からここまでの事については、私が補足致します」


 応接室で、俺達が座ったソファーの向かいに、クレメン子爵も座り、テーブルを挟んで向かい合う。

 クレメン子爵にこれまでの事を話す事になり、俺とマルクスさんが話し始めた。

 マルクスさんが、時折不足していた部分を補足してくれるから、話しもスムーズだ。

 モニカさんは、ユノと俺の頭から離れたエルサの面倒を見ている。

 二人にキューをあげながら、頭を撫でて楽しそうだ。


 そうして俺は、クレメン子爵にエルサと契約をしている事、王都から冒険者依頼を受けて子爵領に来た事。

 依頼を終えて、姉さん……女王陛下からのお願いで、クレメン子爵邸に様子見に来るつもりだった事。

 その途中、怪し気な集団がいるのを、俺の魔法探知で知り、そこへ行ってみるとエフライム達がいた事。

 エフライム達を救出した後、この子爵邸がある街に入ろうとしたけど、街の入り口を武装した集団が固めていたため、子爵家が緊急時に使う地下通路を通ってここまで来た事。

 ついでに、王都での魔物襲撃や、バルテルの事も話しておいた。


「なんと……陛下の。そうか……陛下にはいらぬ心配をおかけしてしまったようだ。しかし、王都を魔物が襲撃や、陛下を人質に取るなど……バルテルめ、そこまで考えていたのか……」

「エフライム達が閉じ込められてた事情から、授与式に参列できなかったのはわかります。ただ、バルテルが魔物襲撃に関与しているかはわかりません」

「うむ……確かにな。ワシの方は、バルテルの使いと名乗る者から、エフライム達が捕まった事、そしてワシに何も行動をするなとの書簡が届いた。エフライムとレナーテの所持品と一緒にな」

「所持品?」

「魔力を発する物だ。子爵領で作らせ、使用している物なのだが……エフライムを始め、子爵家親類には特別な物にしてある。顔を知らなくとも、それを調べればすぐに子爵家の者とわかるようにな」


 騎士団長が持っていた物なんだろうけど、エフライム達が元々持っていた物は、特別製だったようだ。

 それを調べれば、エフライム達が持っていた物である事がすぐにわかる。

 それで、エフライムとレナが人質に取られたと確定したわけか。

 エフライム達がここに到着して、無事な姿を見せた時の喜びようから、孫の事を案じるクレメン子爵としては、無事を願って行動しないようにするしかなかったんだろう。


「だが、先程の話で合点がいった。バルテルはもうこの世にいないのだな」

「はい。確かに俺がこの手で倒しました」

「そうか……だからか……」

「何か、気になる事でも?」

「いや、ここ最近の事なのだが……街にいるバルテルの手の者が、浮足立っておってな。探らせた者によると、領外から来る連絡の者や、交代の者が来なくなったらしいのだ」

「エフライムを閉じ込めてたところにいた男達も、同じような状況だったらしいですね」

「うむ。おそらく、バルテルが死んで、向こうもこちらに構う余裕は無くなったのだろう。かといって、何の連絡もない以上、奴らが手を引きエフライムを開放する事はなく、街を監視し、エフライム達は捕らわれたままだったが……」


 バルテルがいなくなった事で、定期的に来ていた連絡はなくなったんだろう。

 そりゃそうだ。

 一番上の、計画を指示していた人がいなくなったんだから、それどころじゃなくなるだろう。

 それに、バルテル一派が細かに連絡を取り合おうとしても、姉さんやハーロルトさんが調べてるだろうしね。

 動きようがなかったんだろう。


「バルテルの手の者が、浮足立っている今が好機と考えてな。ナトールやリロを地下通路を使わせて、エフライムの捜索に乗り出したのだ。あまり多くの者を動かすのは、知られる恐れがあったため、少数になったがな」

「そして、同じく地下通路に入って、ここを目指していた俺達と出会った……というわけですね」

「そのようだ。リク殿に救われて、エフライム達が無事で良かった。エフライム達は、何でもないように装っていたが、あれでかなり疲れているようだからな……無理もない。1カ月以上も閉じ込められていたのだから……。ナトール達がエフライムの捜索を初めても、すぐに発見できるかはわからなかったしな」

「そうですね。本人たちは、心配を掛けないよう頑張ってるようですが、やっぱりずっと狭い部屋に閉じ込められてたので、結構堪えてるようです」


 地下通路に入ってから、もうすぐ子爵邸へ戻れる、という事への希望があったからとも思うけど、二人は疲れを見せないようにして歩いていた。

 けど、俺やモニカさん、マルクスさんから見れば、無理をしているのはバレバレだ。

 そもそもエフライムは、捕まってた所から逃げ出す時も、歩くのがかなり辛そうだったからね。

 一晩寝ただけで、全部回復するとは思えないし、テントだったから、体が万全になる事はないだろう。


 恐らくエフライムは、気丈な姿を見せる事で、レナに心配をかけさせまいとしていたのだと思う。

 それに、地下通路を抜ければクレメン子爵がいるんだ、多少の無理をしてでも帰る事を優先させたんだろう。

 まぁ、そんなエフライムの事にレナは気付かず、エルサのモフモフや、俺に話しかける事に夢中だったけど。

 もしかしたら、二人を見つけた時にレナの方は、俺の魔法で熟睡してたからかもしれないね。


「……二人は食事を取らせたら、すぐに休ませる事にしよう」

「それがいいですね」

「子爵様、差し出がましいのですが……何故王都へは何も言わなかったのですか? 見張られているのはわかっていますが、何かしらの方法で連絡ができたのではないかと……それに、バルテルが討たれた事も、連絡が来ているはずですが?」


 エフライム達を、出来るだけ早く休ませる事が決まったあたりで、マルクスさんがクレメン子爵へ問いかけた。

 確かに、地下通路とかもあるのだから、何かしらの方法で王都へ連絡できたかも……とは思う。

 バルテル本人の事は……王都の連絡不備かと考えていたんだけど、違うのかな?

 マルクスさんの話では、王都はちゃんと連絡をしていたみたいだ。

 ……ハーロルトさんと姉さんが、連絡の不備なんてさせるわけないか。



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