第335話 子爵家騎士団長との接触
「それでは、まず俺が行こう」
「エフライム様、念のため私も」
「頼む」
エフライムが一歩前に出て、こちらに近付いてる騎士団長さんに接触するつもりだ。
もしもの事を考え、マルクスさんがそのすぐ後ろで対応できるようについてる。
まぁ、すぐ近くだから、ユノや俺がいつでも対応できるんだけどね。
「団長~、まだですかぁ?」
「うるさいな。まだこれで半分程度だぞ? そんな事で、エフライム様達が助けられると思っているのか!」
「そう言われましても~……」
「ナトール、その必要はないぞ?」
「!? 何奴!」
「……その、お声は……」
エフライムや俺達が、身を隠していた角から姿を出し、騎士団長さんの前に出る。
そのついでに、エフライムが声をかけた。
騎士団長さんは、すぐにエフライムの声だとわかったようで、驚きの表情。
もう一人の……リロって呼ばれてたっけ? その人は、持っていた抜き身の剣を構え、こちらを警戒する。
聞こえて来た声では、リロさんの方は大分情けない声を出してたのに、すぐに切り替わったね。
見た目は、細見で声や顔も頼りない印象を受けるけど、結構できる人なのかもしれない。
「久々だな、ナトール。それにリロか。さっきの情けない声は、いつものお前らしいな?」
微笑を浮かべながら話しかけるエフライム。
「エ、エ、エ……エフライム様!? 何故このような所に!?」
「このような所とは、また随分だな。これでも由緒正しい逃亡用の通路だぞ?」
騎士団長さんが驚きの声を上げるのに対し、エフライムは落ち着いて冗談を言っている。
こちらは、魔法探査で色々探ったりしてたから落ち着いていられるけど、向こうはいきなり目の前にエフライムが現れたんだ、驚いて当然だろう。
余裕なエフライムに対し、少し騎士団長さんがかわいそうに思える。
「……ほ、本当に、エフライム様……なのですか?」
「そうだぞリロ。俺の顔を見ても、信じられないか?」
「い、いえ、そのような事は……。しかし、捕まっていたはずでは?」
リロさんの方は、声の正体がエフライムとわかって、警戒を解いて剣を降ろしてる。
でも、本当に目の前にいるのがエフライムと信じきれず、半信半疑のようだ。
顔を見ても信じきれないのは、ここにいるなんて欠片も予想していなかったんだろうし、仕方ないか。
ちなみに、地下通路に入った時から明かりとして活躍してくれた、エルサの魔法は今、使っていない。
光が強く、暗いはずの地下通路だと、相手に察知されるだろうからね。
それに、騎士団長さんとは今、向き合ってる格好だから、エフライムの後ろにいる俺の頭から、エルサが光を出すと、逆光になって顔が見えないだろうし。
……後光の差すエフライム……どこかの神様かな? という状況にもなりかねない……変に警戒心を煽りそうだね。
今は、代わりにマルクスさんがまた松明に火を付けて、それを明かりにしてるけど……やっぱり暑いね。
「ははは、驚いているな?」
「そ、それはもちろん。どうして、エフライム様がここに?」
「昨日までは、変わらず捕まったままだったんだがな。ここにいる者達に偶然、助けられたのだ」
「……そちらの方々は?」
「俺を助けてくれた、冒険者の方達と、王都の軍の者だな」
エフライムが俺達の方へ視線を向けて、軽く紹介。
それに合わせて、俺達は会釈をしておく。
「おぉ……貴方達がエフライム様を。このナトール、感謝の言葉もございません」
「レナーテ様も……良かった」
「はい。私もお兄様と一緒に、助けられました。凄かったんです、この方達が颯爽と私達を助けてくれて……」
「いや、レナは助け出された時、寝てたがな?」
騎士団長さんが、俺達に頭を下げ感謝を伝えて来る。
リロさんの方は、エフライムの後ろにレナがいる事に気付いて、安心した様子だ。
レナは、自慢するように俺達が助けた事を伝えようとしてるけど、誇張し過ぎだと思う。
それに、エフライムが突っ込んだように、あの時レナは寝てたからな……俺とマルクスさんが助けた状況をよく知らないはずだ、一応説明はしたけど。
「ともあれ、ご無事で何よりです」
騎士団長さんは、レナのボケとエフライムのツッコミをスルーする事にしたようだ。
もしかすると、以前の子爵邸では日常だったのかもしれない。
「リロ、至急子爵邸へ戻り、クレメン様に報告しろ!」
「はいはい、行ってきますよー」
「エフライム様、レナーテ様がご無事な事、しっかりと伝えるのだぞ!」
「わかりましたー」
騎士団長さんが、リロさんに命令し、この場から駆け去って行く。
まずは報告を第一に、と考えたんだろう。
リロさんは、不真面目に聞こえる返事をしながら、地下通路の奥へと消えて行った。
「全くあいつは……もっと真面目にできんのか……」
「はは、ナトール。リロはあれで真面目だぞ? いつも気を張っているばかりでは、疲れるからってね。あれは、不真面目を装って周囲を油断させる意味もあるらしいな」
「はぁ、まぁ……奴の隊が担う役割を考えれば、そうなるのもわかるのですが……」
騎士団長さんは、生真面目な人らしい。
リロさんのように、力を抜いて適当にやっていると見える人は、あまり得意じゃないのかもしれないね。
相性は、いいとは言えないか。
リロさん……最初にエフライムが近付いた時の警戒とか、すぐに信じず疑っていた事とか、見た目と雰囲気の頼りなさに騙されちゃいけない人だと思う。
「それでは、エフライム様、レナーテ様。共に子爵様の元へ参りましょう」
「わかりました」
「あぁ。っと、ここまで一緒に来た皆も、連れて行くが、いいか?」
「……関係無い者をお連れするのは、今の子爵家では歓迎できませんが……。その方達は、エフライム様達を助けて下さった方々。共に行く事は許されるかと」
「そうだな。それに、この人達は、女王陛下の命で動いてるからな。無碍にしたら子爵家の方が危ない」
「……は?」
騎士団長さんが、エフライム達を連れて子爵家に向かおうとする。
そこにエフライムが、俺達の方を示して、一緒に連れて行く事を聞いた。
一瞬訝しげな顔をした騎士団長さんだけど、俺達がエフライムやレナを助けたという事で、一緒に行く事を許可してくれた。
そこへさらにエフライムが、俺達が姉さんに頼まれてここまで来た事を伝え、騎士団長さんが呆然とした顔になる。
俺達を疑うのは、バルテルが暗躍した事からわからなくもないけど、こんな所で置いてきぼりは止めて欲しい。
絶対に出れなくなる、とまでは言わないけど、道案内がいなければ迷う事は間違いないからね。
ともあれ、姉さんからの……という事なら、騎士団長さんも無碍に扱う事はないと思う。
「女王陛下……陛下の!? それは本当なのですか、エフライム様!」
「あぁ。本当だ。さらに言うなら……こっちの男。名前をリクと言う」
「リク……? 王都、国から勲章授与をされる者が、確か……リクという名だったと……」
「そう、そのリクだ。今目の前にいるのは、陛下が認め、国中の貴族が認めた英雄様だぞ?」
「な! 英雄……もっと煌びやかな物を纏っているものとばかり……」
「あははは……エフライム、ちょっと大げさじゃないかな?」
確かに姉さんや貴族達が認めたけどね。
英雄様、なんて呼ばれるのは微妙な気分だ。
騎士団長さんは、俺の身に着けている物を確認してるけど……確かに、そんな大袈裟な呼び方をされるなら、パレードの時みたいに全身鎧を着てた方が、信じられたのかな?
でもあれ、動きづらいんだよなぁ……。
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