第334話 魔力を発する道具
「そのリクの魔法探査というものがどれだけのものか、まだ俺にはよくわからないのだが……生き物の魔力を探知する、だったな。持ち物の魔力は感じ取れるか?」
「ん~……やった事はないけど、多分大丈夫だと思う。魔力さえあれば、何かしら反応があって、それを俺が感知できるからね」
「そうか。だったら……その近づいて来る人間二人の、体のどこかに、魔力を発する物があるかを確認して欲しい」
「場所的に、細かい事は無理だけど……一応、やってみるよ」
「その、魔力を発する物とは?」
エフライムのお願いを聞いて、魔法探査に集中し魔力を発する物があるかを調べ始める。
その横で、マルクスさんが何の事なのか聞いてくれてるね。
俺が集中するから、代わりに聞いてくれてるのかな……いや、ただ疑問に思っただけかもね。
ともあれ、魔法探査に集中しながら、マルクスさんとエフライムの話も聞いておく事にする。
「子爵家の者、その中でも上位についている者達は、体のどこか……大体は見える所に、魔力を発する物を身に着けているのだ」
「つまり、それを持っている事が、子爵家に連なる物の証明……と?」
「うむ。その道具は便利でな。お互いが持っていると微かな光を放って、身分の証明にもなるし、持っていない者はそれを見て子爵家の者だと認識する。まぁ、いわゆる味方識別のための道具だな。他には特に効果はない」
「成る程。魔物との戦いならまだしも、人間同士の戦いなら、役に立ちそうですね」
「王都に報告するか?」
「子爵家の方がそれをよしとするなら。人間同士の戦いは、乱戦になってしまうと味方と敵との識別が困難です。鎧など、はっきりとした違いがあればわかりやすいのですが……」
「そうだな。兵士達の訓練でも、大人数が乱戦になると味方同士で……という事も多々あるようだ。それを防ぐか……改良も必要かもな」
「そうですね。あまり大きな目印ではないのでしょうから。大量生産は可能ですか?」
「あまりできないな。王都ならば、人員を投入して大量に作る事も可能だろうが、質の劣る品が出回りかねん」
「そうですか……ともかく、王都に戻ったら、報告を上げておきます」
「うむ、それでいいだろう。子爵家の産業の一つとしても使えそうだしな」
俺が魔法探査に集中する傍ら、マルクスさんとエフライムが魔力を発する道具について話し合ってる。
味方識別か……同士討ちは避けたいから、そういう物を用意するのは悪くない案だね。
魔物なら、魔物だけを見て攻撃すればいいけど、人間相手だと入り乱れた時に誰が味方で、誰が敵かわからない事もあるだろう。
いちいち、お前は味方か? なんて、相手に聞く事はできないしね。
大量生産はできないようだから、すぐに皆に配備されるような事はないのかもしれないけど、こういう準備は大事だ。
それに、エフライムの方は子爵家が作り出した物が、王都で採用されれば領内の産業になると考えて少し嬉しそうだ。
貴族って、領地経営もしないといけないから、こういう事も考えないといけないのか……大変だなぁ。
おっと、それよりも魔法探査だね、ちゃんと集中しないと……ん、これは。
「エフライム、近付いている人間2人のうち、1人が体内の魔力以外に、魔力を出すような物を持ってると思うよ」
「そうか。……便利だな、その魔法探査というのは。その道具を持っているという事は、その者達は子爵家の者という事だ。それを持っていて、地下通路を知っている……騎士団長クラスか? だが、あの者は通路の道順は知らなかったはずだが……」
「どう致しますか?」
「そうだな……偶然バルテルの手の者が手に入れた、という可能性も捨てきれない。接触はしてみるべきだが、警戒はしておいた方がいいだろう」
「そうだね。こちらは向こうの位置がわかるから、怪しい動きをしなければ、このまま接触してみよう」
「は、畏まりました」
「うむ。入り組んだ通路だから、やり過ごす事もできるだろうが、今回は接触してみるとしよう」
話し合い、このまま近付いて同じく地下通路を移動している、2人と接触してみる事に決まった。
エフライムの言う通り、やり過ごす事もできそうだけどね、こちらは向こうの動く方向がわかるんだから、簡単そうだ。
ともかく、近付いて移動している2人に接触をする事として、モニカさんやレナ、ユノにも伝え、再び歩き出す。
隊列は最初と一緒で、マルクスさんを先頭に、警戒を怠らないようにしながら移動した。
「もう少しで、お互いが見える……と思う」
「そうか。では、こちらはここで待つ事にしよう」
「はっ」
「わかったの」
「はい、お兄様」
魔法探査で相手の位置を確認しながら、通路を移動する事しばらく。
かなり近い場所で、俺達は立ち止まり、向こうから近づいて来るのを待つ。
一応の警戒のため、マルクスさんとユノは剣を抜き、モニカさんは槍を構える……槍は、ちょっと使いづらいだろうけど、突きくらいはできるしね。
俺も同じく剣を抜いて警戒する。
段々と向こうから近づいて来る……当然だけど、徒歩だし地下通路だから、その速度は遅い。
距離としては、見晴らしのいい場所だと、もうお互いの顔がわかってもおかしくないくらいの距離だ。
分かれ道の向こう側だから、ここではまだ確認できないけどね。
少しして、人の足音と、声が聞こえて来た。
「団長、大丈夫なんですか? この道、本当に合っているんですか?」
「心配するな。子爵様から図面は頂いて、しっかり頭に入っている。この道で間違いない。それはともかく、リロ、しっかりここまでの道は覚えたか?」
「団長、俺の役職を知ってるでしょう? それくらい、得意作業の一つですよ。一度通った道は忘れません」
「……もし私がここで、道に迷っても、出られなくなる事はなさそうだな」
「あ、団長! 実は道が合ってるか自信がないんでしょ!? だから俺を連れて来て……」
「ええい、うるさい! ともかく、私達は一刻も早くエフライム様をお助けせねばならんのだ!」
「はぁ……はいはい、わかってますよ。子爵様の御命令ですからね」
「うむ」
何だろう、ちょっとだけ気の抜けるようなやり取りが、角の向こうから聞こえて来る。
警戒していたエフライムの顔を見ると、少し安心したような表情。
知り合いかな?
子爵から図面を頂いたって言ってたから、クレメン子爵と親しいというか、近い役職の人なんだろう。
団長ねぇ……騎士団長かな?
「エフライム、さっきの話……」
「団長と呼ばれていたな。おそらく、騎士団長のナトールで間違いないだろう。信頼できる者だ」
「そうなんだ。それじゃ?」
「あぁ、このまま予定通り接触しよう。向こうは俺を探すために動いてるようだ。顔を見せて安心させてやりたい」
「わかった。マルクスさん?」
「はっ」
エフライムが張り詰めていた雰囲気を軟化させ、表情を緩めた。
それだけ、騎士団長さんはエフライムに信頼されているんだろう。
まぁ、向こうが話してた事を聞くに、エフライムを助けようとしているみたいだし、敵じゃなく味方なのは間違いないね。
マルクスさんに声をかけ、警戒を解く。
皆もそれぞれ、ホッとした雰囲気だ。
レナなんて、緊張感が薄れたおかげで、少し泣きそうなくらいだ。
貴族家の人間とは言え、子供に緊迫した雰囲気は辛かっただろうね。
閉じ込められていたし、安心できる時間が少ないのもあるかもしれないな。
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