第333話 近付いて来る反応



「でも、いくつかの出入り口って?」

「あぁ、場合によって、逃げ先を変えるためだな。一か所しか出口がないと、その場所の近くに敵がいた場合、逃げる事もままならないだろう?」

「確かに、そうだね」


 もし、今回入って来た場所に、エフライム達を危険に晒した相手が、陣取っていたら使えないからね。

 敵陣に捕まりに行くようなものだ。

 そのため、出入り口というか、この場所を出るための場所は複数あるんだろう。

 外部の人に見つかる可能性も増えるけど、リスクを分散させるのは必要な事だと思う。

 王都でも、地下通路の出口は、俺達が通った冒険者ギルドの近くだけじゃなく、他にもあったみたいだしね。


 そんな事を考えながら、エフライムと話し、通路を進む。

 その間も、魔法探査で周囲の反応を探っているし、最初に見つけた人間っぽい反応も追ってる。

 ただ、やっぱり壁とか入り組んでる道が邪魔で、いまいち反応が悪いんだよね……。

 一応、さっきより近づいたから、人間なのは確実ってわかってるけど。


 ただ、それ以外の事がよくわからない。

 エフライム達を助けた時は、建物の壁に遮られてたくらいだから、レナのような子供もなんとなくわかったけど……今回はそれも難しそうだ。


「リクさん、どう?」

「ん~、さっきより近付いてる。近付くのが早いから、向こうも移動してるんだと思う」

「そう。まだ、皆には伝えないでおく?」

「……いや、そろそろ伝えよう。結構近づいて来たしね。気になる事があるから、それも聞きたいし」


 モニカさんが、少しだけ顔を俺の方へ向けて、小声で聞く。

 魔法探査の反応では、確実に俺達に近付いて来てる。

 大分近くなったおかげで、向こうが移動しているというのもわかるようになった。

 ただ、一つ気になる事がある。


 それは、反応のある人間二人が、ほとんど迷っているように思えない事だ。

 数メートルに1か所の頻度で、分かれ道があり、道順を知らなければ迷うのが当然と思える道。

 今も道を曲がったし、真っ直ぐ進むだけで目的地に辿りつくような構造はしていない。

 俺達も、エフライムの案内が無ければ、迷っていたのは間違いないだろうね。

 よく、こんな複雑な道を覚えていられるなぁ。


 正直、エルフの集落の方が、まだわかりやすかったとも思える……あっちも、俺は結局道を覚えきれなかったけど。

 そんな道を、俺達に近付いて来ている反応は、迷っていないようなんだ。

 どうしてなんだろうという疑問と一緒に、前を歩く皆に伝えて、聞いてみる事にした。


「迷わずに移動している反応、ですか……」

「まず、広いこの場所を魔法というか魔力で調べる事ができる、という方が驚きだな」

「さすがリク様です!」


 マルクスさんは、すぐにその反応に対して考え始め、エフライムとレナは、魔法探査の事に驚いているみたいだ。

 魔力が多くないとできない事らしいから、驚くのも無理はない……かな?


「バルテルの手の者に、この通路が見つかていたのでしょうか?」

「いや、それだと少しおかしい。絶対とは言えないが、バルテルの手の者だとすると、まず間違いなく迷うはずだ」

「確かに……」

「それに、二人だけというのが気になりますね。地下を調べるのなら、もっと多くの人を使うでしょうし……二人だけで調べるという事は無さそうです」

「そうだな。俺が捕まっていた期間を考えると……道を調べ尽くす期間は無かっただろうしな」


 通路に立ち止まり、マルクスさんやエフライムを交えて相談する。

 レナとユノとモニカさんは、近くで固まって周囲の警戒だ。

 ほとんど、二人でレナを守ってる形だけどね。


 エフライムの言う通り、バルテルの手の者……つまり敵だとすると、二人だけで行動しているのに疑問が残る。

 それに、エフライム達が捕まり、そこから街の周囲を調べてこの通路を見つけ、広い地下を調べ尽くす……というのは、時間的に無理があると思う。

 まぁ、最初から知っていたとか、子爵が教えたという事が無ければ……だけどね。

 楽観する事はできないだろうけど、一応その方向での考えは除外する。


「だとすると……この道を知っている者、となりますが?」

「そうですね。エフライム、この道を君達以外で知っているのは?」

「ふむ、お爺様や父上、俺の血縁者だな。道順を完全に覚えているのは、お爺様と父上……あとは母上くらいだろう。道の存在を知っているだけなら、子爵家の騎士団長を含めた、一部の者だな」


 エフライムの血縁者以外にも、この道を知っている人はいるらしい。

 まぁ、いざという時、他の人が知らなければ逃がすという考えが出ないから、当然か。


「だとすると、その騎士団長とかが、この地下通路を通っているのかな?」

「どうだろうな……ここは知っているが、道順を知っているわけではないはずだ。迷わずに移動できるとは考えにくい」

「そもそも、その騎士団長は、バルテルの息はかかっていないのですか?」


 マルクスさんの疑問はもっともだ。

 騎士団長を始め、道を知っている人がバルテル側に付けば、当然ここの事もバレてしまう。

 子爵家に連なる人で、どこまでの人がバルテル側なのか……。


「騎士団長は、バルテルの事が嫌いだからな。それが演技とは思いたくないが……おそらく大丈夫だと思う。バルテルも、さすがにお爺様に近しい者は取り込んでいないだろう。私達を捕まえた時も、裏切った者の大半は、外から雇った者ばかりだった」

「その雇った者というのは、一体誰が?」

「複数の兵士が進言して来てな。何でも、街にいる者達に仕事を与えるのと共に、経験を積ませる事で、いざという時役に立つかもしれない……との事だった。今思うと、その兵士達はバルテルの指示で動いていたんだろうがな。兵士は新人が多かったが、さすがに複数の兵士から言われると、無碍にするわけにもいかなかったのだ」

「成る程……最初からバルテルが仕組んで、私兵を潜り込ませていたのでしょうね」


 バルテルは、帝国の冒険者を多く雇っていたようだから、そこから人を子爵家へ差し向けたんだろう。

 もしかしたら、エフライム達が捕まっていた建物にいたのも、そういう人達の可能性が高い。

 帝国の冒険者は、ならず者崩れが多いという話をマティルデさんに聞いたから、ここに来るまでに聞いた、街に妙な人達を見かけるようになったのも、それなのかもな。


「話が逸れたが……バルテルの息のかかった者は、新兵を始めとした、下っ端の層だろうと思う。上にまで食い込んでいたら、もっと別の方法もあっただろうからな。確実とは言えないが……」

「そのあたりは、クレメン子爵様と合流してから、考えましょう。エフライム様が戻れば、動きを止めている理由も無くなります」


 もっと時間をかけてゆっくりと……という計画だったら、子爵家の内部にもバルテルの手の者を配置して、それこそ、寝ているエフライムやレナをさらう事もできたのかもしれない。

 勲章授与式に貴族達が集まるから、そこでの事も考えて、計画を急いだのかもしれないね。

 まぁ、何のために子爵家を脅して動きを止めて、何のために姉さんを捕まえたのか……バルテル本人がもういないから、中々わからないけど。


「そうだな。それでだが、リク」

「ん、なんだい?」


 子爵家の話になったので、黙って聞いていた俺に、話を終わらせたエフライムが向き直って、声をかけて来た。

 何か案があるんだろうか?



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