第332話 暗い地下とエルサの明かり
「その者、喋るのか?」
「ただの毛玉かと思っていました。触り心地は抜群ですけど」
二人共、エルサが喋るとは思ってなかったようだ。
レナ……毛玉って……触り心地が良いのは、俺も同意するけども。
「エルサはドラゴンだからね。暗いけど、このままで進むしかないんじゃないか、エルサ?」
「「!?」」
「以前、洞窟を覗き込んだ時の事を忘れたのだわ? こうするのだわ」
「「「「っ!」」」」
俺がさらっとエルサがドラゴンと言うと、二人は目を剥いて驚いていたけど、それには構わずエルサに話しかける。
すると、エルサは俺の頭にくっ付きながら、顔を持ち上げて通路の先へ向け、魔法を発動。
そう言えば、以前エルフの集落に行った時、洞窟の中の様子を見るために、明かりの魔法を使ってたね。
エルサが魔法を発動すると、洞窟の中が外と同じくらいの光に照らされ、奥まではっきりと見えるようになった。
皆は、急な明かりに目が眩み、驚いている様子だ……何故かユノだけは平気そうだけど。
俺は、光の発信源がエルサで自分の頭の上だから、大丈夫だった。
「そう言えばこんな事もできたんだったな。忘れてた」
「やろうとすれば、リクにもできるのだわ。……失敗が怖いけどだわ」
「失礼な。俺だって失敗したくてしてるわけじゃないんだぞ? ……ん、エフライム。どうかした?」
「いや……なんというか……な」
「リクさんの事は、考えるだけ無駄なような気がします。ともかく、今は先に進みましょう。細かい事は、落ち着いてからでも大丈夫ですから」
「う、うむ。そうだな……」
「リク様……ドラゴンと一緒なんて、すごいです」
これくらいの光を付けるくらい、俺も失敗せずにできるはずだ……多分。
細かい魔力の調整にはまだ自信がないから、もしかすると、もっと眩しい目を焼くような光が出てしまう可能性も、否定できない。
そういった魔法の練習はまたにして、今は先に進む方がいいだろう。
モニカさんが皆に声をかけ、無理矢理納得するように頷くエフライム。
レナだけは、何故か興奮を抑えられないような、高揚した目で俺を見ていた気がしたけど、きっと気のせいだろう。
「……松明、必要なかったですね」
「元気出すの! マルクスは頑張ってるの!」
先頭で、何故か落ち込んだ様子のマルクスさんに、ポンポンと背中を叩いてユノが励ましていた。
何があったんだろう?
「今の所、何もないわね」
「うん……そう、だね?」
「リクさん、何かあるの?」
「んー、まだ範囲ギリギリだから、何とも言えないんだけど……俺達以外の人が2人、この通路に入ってるみたいなんだ。道が入り組んでて、はっきりとはわからないんだけどね」
「え、人が?」
しばらくの間、エフライムの案内で地下通路を進む。
王都にあった地下通路とは違って、整備はあまりされていないようで、どこも暗かった。
同じなのは、入り組んでることくらいか。
まぁ、王都は情報部隊が使ったり、それ用の人員がいるみたいだからね。
それはともかく、通路を進み始めてから、ずっと探査魔法で探っているんだけど、遠くに人間の反応を発見した。
二つの反応は、ゆっくりではあるけど、こちらに近付いて来ているような感じだ。
道を知らないので、はっきりとは言えないんだけど、距離は少しづつ近くなってる。
ただ、ここが地下通路で、魔力が真っ直ぐ進めないため、壁だとかに邪魔されて、外にいるよりも反応が悪い。
はっきりとした反応を感じられないから、これが本当に人間かどうかもはっきりしない。
人間っぽいというだけだね。
あと、本当に動いているのかどうかもわからない。
こちらが移動してるから、実は止まってる向こうが、移動して近付いてると感じる可能性もあるんだ。
「皆に伝える?」
「……もう少し待とう。その反応もまだ、はっきりと人間と断定できないんだ。多分、ここが地下通路で入り組んでるからだと思うけど。もっと近づいたら皆に教えようと思う。早くに教え過ぎても、警戒して疲れるかもしれないからね」
「わかったわ。でも、何か異変を感じたら、私にだけでも良いから教えてね?」
「うん、そうするよ」
小さな声でモニカさんと話して、皆に伝えるのはもう少し後にする事にした。
マルクスさんやユノは大丈夫だろうと思うけど、エフライムとレナの二人が心配だからね。
二人共、まだ体力が完全じゃないんだろう、さっきから少し息を乱してる。
歩いてるだけでこれなんだから、警戒させながら進むともっと疲れてしまい、最悪の場合、通路を抜ける前に歩けなくなる可能性もあるからね。
隊列からして、先頭のマルクスさんに伝えようとしたら、エフライム達にも伝わってしまうし。
もう少し待って、近付いてはっきりと反応がわかるようになってからでも、大丈夫だろう。
俺の前を歩くモニカさんには逐一、魔法探査での状況を伝えるようにして、そのまま通路を進んだ。
「ちょっと、暑いな……」
「場所自体は広いとはいえ、密閉された空間のようですからね。ですが、エルサ様が明かりをつけてくれているおかげで、通常よりはマシかと」
「うむ、そうだな。あのまま、松明を使っていたらもっと暑かっただろうな」
「服が纏わりついて、気持ち悪いです……」
先を歩く、エフライム、マルクスさん、レナが通路内の気温について話している。
確かに、ここは地下だし、出入り口が密閉されているからか、空気の流れがほとんどない。
入る時に使った入り口は、進み始める時に内側から、エフライムが塞いだからね。
開けっ放しだと、見つかる可能性も高いから仕方ない。
通路が入り組んでいて、道も長く、使っている空間が広いから、空気はすぐに無くなったりはしないだろうけど、熱は当然こもってしまう。
だから、俺もそうだが、歩く皆は汗だくだ。
レナは、汗で服が肌に纏わりつくのを嫌がってるね。
皆そうだけど、エフライムとレナは着替えがなく、閉じ込められた時の汚れた服だから、気持ち悪さも特に強いんだろう。
一応、昨夜川で水を浴びた時に、目立った汚れは落としてたみたいだけど、服を全て洗う事はできなかったみたいだ。
着替えがないから、全身ずぶ濡れにした服を着るわけにもいかないし、仕方ないか。
「レナ、我慢しろ。もう少しだ。お爺様の所に戻ったら、風呂にも入れるし着替えもあるだろう」
「わかりました……お兄様」
「しかし……何度か通った事はあるが、やはりこれは改善せねばならないな……」
「何度もって事は、そんなに逃げるような事があったのか?」
通路を歩きながら、この場所をどう改善するかを考え始めたエフライムに、後ろから疑問を投げかけた。
この通路は、何か危険な事があった時、逃げ出すための通路だ。
何度も通ってるって事は、それだけ子爵邸に危険があったって事になる。
以前から、何度も通らなければならない程に、危険な事があったのだろうか?
「あぁ、いや。すまない。何度も通ったのは、道を覚えるためだな。父上やお爺様に連れられて、いくつかある外への出入り口を教え込まれたのだ」
「私は、来ていませんけど……」
「レナはまだこれからだな。俺が最初にこの通路へ入ったのは、今のレナよりもう少し大きくなってからだ」
「成る程ね。確かに道を覚えてないと、いざという時使えないか」
「そういう事だ」
もしこの通路を本来の意味で使うようになった時、逃げようとしても入り組んだ通路で迷ってしまったら意味がないからな。
そのために、あらかじめ道順を教えておくというのは当然の事か。
図面みたいな物もあるかもしれないけど、それを見て覚えるだけなのと、実際に歩くのは感覚も違うだろうしね。
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