第330話 街の入り口には怪しい者達
俺が過去形で姉がいたと言うと、すぐに事情を察したレナは少し俯いて謝った。
こういう所は、育ちが良いと言うか……気を使える性格なのは良いんだけど、もう少しエフライムにも構ってやって欲しい。
俺にばかり構ってるせいか、恨めしそうな眼をしてこちらを見てるから。
ちなみに、気にしていないのは本当だ。
色々あったし、実際に一度姉さんは死んでしまっているけど、今は女王様としてこの世界で一緒に生きてるしね。
まぁ…容姿は変わってるし、特権階級どころか支配者になってるけど。
事情を知ってるモニカさんは、苦笑継続中。
「リクは、家族がいないから、冒険者をしているのか?」
レナに相手をされなくて、落ち込み気味だったはずのエフライムが、急に質問をして来た。
きっと、今の話と危険な冒険者稼業という事を考えて、家族がいないから、と考えたんだろう。
魔物と戦う事の多い職業だから、家族がいない人が多いというのは聞いた事がある。
「いや、そういうわけじゃないんだ。……まぁ、家族がいないっていうのはあるけど。単純に、こういった活動で人を助けられたらって思ってね」
「そうなのか。立派だな」
「さすがです。それでこそ英雄に相応しい方です!」
「ははは、そうかな?」
エフライムに語った理由は、確かにある。
冒険者活動を通して、色んな人を助けられたらと考えているのは本当の事だ。
そうじゃなかったら、ヘルサルでの防衛線には参加しなかっただろうし、エルフの集落にも行かず、王都でももっと消極的に戦ってただろう。
けど、初めに冒険者になったきっかけは、異世界への興味や、エルサとの契約があったからなんだけどね。
冒険者であれば、一つの国からの要請とかを断る事ができる。
多国籍組織の冒険者ギルドに保護されると考えた方が良いかな?
こんな話は、ここでする事じゃないだろうから、理由は今言った事にしておく事にする。
友人として付き合って行ければ、いずれエフライムには話す事もあるだろうけどね。
……以前の世界で友人はあんまり多くなく、得意というわけでもないから、ちょっと不安だけどね。
「もうすぐ街門に到着いたします!」
「はい、わかりました」
「そろそろか」
和やかに話しているうちに、街へと到着する頃合いになったようだ。
ちなみに、エルサはユノが抱いて、一緒に座りながら寝てた。
揺れる馬車の中で、よく寝られるなぁ。
「ふむ……リク様、少々馬車を止めさせて頂きます」
「……何かあったんですか?」
街門に着くと言われて少し、御者にいたマルクスさんが、急に馬車を止めた。
窓から外を見ると、まだ歩いて行くには遠い位置に外壁があり、馬車を止めるような場所じゃなかった。
街門を通るための検査とかでは無さそうだし、どうしたんだろう?
「エフライム様。トゥラヴィルトの街は、いつも街の入り口を衛兵で固めているのですか?」
「……いや、少なくとも俺が知っている限りでは、そんな事はないな。簡単に人の出入りを調べるくらいだ。多くとも、衛兵は2,3人だろう」
「ここから見える範囲だと、10人くらいいそうなんだけど」
マルクスさんが、街の方を示しながらエフライムに聞く。
俺達はそれぞれ、馬車の窓から顔を出してそちらを見つつ、エフライムの言葉を確認する。
街はヘルサルと似たような感じで、ぐるりと石の壁が全体を囲んでおり、そこの一部が門になっている。
そこから人の出入りをするんだろうけど、今は武装しているように見える兵士が、10人程固まって出入りが制限されてるようだ。
エフライムの言った通り、2,3人くらいが通常だとすれば、ヘルサルやセンテと同じくらいなんだけど……今は王都より多い、どういう事だろう?
これを遠目に見て、マルクスさんは何かを感じたため、馬車を止めたんだろうね。
エフライムが捕まってた事もあるし、何かあってもおかしくないと警戒していたのかもしれない。
「通常時ではない、という事ですね」
「うむ、そうなるな」
「どうしますか?」
「ここで俺が出て行き、あの者達がバルテルの息のかかった者達なら、不味い事になるだろう」
「最悪、襲い掛かって来そうだなぁ」
「近い理由で、陛下かから預かった証も使えませんね。バルテル関係であれば、良くて無視されるか……利用するために捕まえようとするか、だと思われます」
街門で固まっている兵士達が、クレメン子爵配下であれば問題無い。
エフライムが出て行けば、無碍に扱われるどころか歓迎されるだろう。
さすがに、直属の貴族の孫を知らない、ということは無いだろうし。
だけど、あれがバルテルに関係しているとしたら、エフライムが顔を見せるのは不味い。
捕まえて、閉じ込めているはずのエフライムが、ここまで来たとなるとまた捕まえようとする可能性が高い。
それに、昨日の建物から、この街まで探しに来ていてもおかしくないから、連中にはエフライムが逃げた事が知れ渡っていてもおかしくないしね。
「お兄様、あの道を使えばいいのではないですか?」
「ふむ、あそこか。あまり他の者に知られるわけにはいかないが、ここにいる者達なら大丈夫だろう」
「あの道って何?」
「何か街に入る方法が?」
兵士達の対処をどうするかを考えあぐねていると、レナが思い出したように提案した。
エフライムも知っているようだけど、秘密の場所でもあるのかな?
「貴族の者なら、誰しもが用意しているとは思うが……もしもの時、それぞれの邸宅から街の外へ逃げ出すための道があるのだ。それを使えば、直接子爵邸へ入る事ができるかもしれん」
「あ~、成る程」
王城でもあった、秘密の通路ってわけだね。
貴族は国の重要人物だから、もしもの事があった時、逃がすためにそういった道を用意しているのかもしれない。
「ふむ、驚かないのだな?」
「いや、まぁね……」
「今はその事はいいか。だが、あの道は馬車では通れない。それに、もしバルテル配下の者が見つけていたりしたら……」
「狭い場所で一網打尽……というわけですね?」
「うむ」
エフライムは、秘密の通路という事に俺達が驚くと思っていたみたいだ。
マルクスさんは、軍に所属している兵士だし、俺達は通った事があるからなぁ。
ともあれ、今はその道を通るべきか、正面から行くべきかという事だ。
街門から入ろうとすれば、多くの兵士が襲って来る可能性があり、広い場所で戦える代わりに、どれだけの数と戦えば良いのかわからない。
秘密の通路の場合、もし見つかっていたら、狭い場所だから存分に戦えないけど、一度に戦う相手の数は限られる。
「リクさんがいれば、どうとでもなる気がするけど……私は、通路を使う事に賛成です」
「私は……街門に行く事を推奨致します。その方が、リク様が存分に戦えるでしょう」
「リク様が戦う所が見たいです! なので、私も街門が良いかと思います」
「俺は……そうだな、バルテル配下の者に見つかっていない可能性に賭けて、通路を使う方が良いと思う」
暢気に寝ているユノとエルサは置いておいて、他の皆が意見を出し合う。
モニカさんとエフライムは通路、マルクスさんとレナは街門か……見事に別れたね。
意見が別れた事で、最後の言取りとなる俺に皆の視線が集まる。
結局のところ、俺が決めないといけないようだ。
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