第329話 エフライムと夜空の星



「ははは。ではリク様、まずは私が見張りを」

「はい、よろしくお願いします」

「本当に、俺は見張りをしなくてもいいのか?」

「エフライムやレナは、まだ疲れてるんだからゆっくり休んでよ。テントだけど、狭い部屋で窮屈に寝るよりは、休まると思うし」

「わかった。すまないが、今回は言葉に甘えるとしよう」


 簡単に魔法探査で周囲を調べたけど、近くに魔物はおらず、近付いて来る気配も無い。

 だけど、一応エフライム達を追って来た男達が来る可能性も考慮して、見張りをする事にした。

 焚き火も絶やさないようにしたいしね。

 まずはマルクスさん、それからモニカさんとユノで、最後に俺とエルサだ。


 今回は、森の時のように何かを考えてるわけじゃないから、素直に焚き火をボーっと眺めながら時間を潰すだけになるだろう。

 エフライムとレナも見張りをやると言ってくれたけど、二人にはしっかり休んで欲しい。



「はー……確かに綺麗な星空だ。ほら、エルサも見てみな?」

「もう見飽きたのだわ。何も無いのなら、リクから流れて来る魔力を浴びながら、寝る方がいいのだわー」

「……そうか」


 モニカさん達と交代して、見張りをするため、焚き火の横に座り、拾い集めた枝をくべながら空を見上げる。

 エルサは俺というより、人間からは考えられない程長生きしているから、星くらいはいくらでも見て来たんだろう。

 座ってる俺の膝の上で丸くなって寝る。

 しかし、俺から流れて来る魔力を浴びながらって……俺の魔力はそんなに駄々洩れになってるのか?

 契約してから、エルサの方に魔力が流れてるらしいけど。


「星は、人間達がどんな営みをしていても、変わらず見下ろしていてくれるな」

「……エフライム?」

「やぁリク。見張りは暇だろう? 俺が話し相手になるぞ?」

「寝て無くても良いのか? 体はまだ万全じゃないだろう?」

「閉じ込められてる時、何かがあった時にすぐ対応できるよう、短時間寝て起きるというのを繰り返してたんだ。おかげで眠りも浅くてな。それが癖になってるみたいで、目が覚めてしまったんだ」


 妹であるレナを、守るためでもあったんだろう。

 閉じ込められているだけといっても、いつ何があるかわからない。

 相手が急に、エフライム達の事を用済みだと襲い掛かって来る事も考えられるんだ。

 その際に何ができるかはわからないけど、できるだけの抵抗をするつもりだったんだろう。

 もしかしたら、逃げる隙を狙ってもいたのかもしれない。


 それが癖になって、今は熟睡できないんだろうね。

 子爵邸に戻って、しばらくしたら体が慣れて、安心して寝られるようになると思うけど。

 閉じ込められて、数日どころか1カ月以上も時間が経っても、心が折れていないエフライムは、貴族として強い心を持ってるんだろう。

 どこぞの、冒険者を気取ってる貴族の息子に見習わせたい……。


 そう言えば、コルネリウスも年が近いか……いや、あっちは少し年上だな。

 同年代と言えるかどうか、微妙なところだ。

 エフライムの方が、どう考えても精神は成熟してるけどね。


「なんだか不思議だ。こうして近い年の者と、普通に話すというのは」

「今まで、そう言う人はいなかったのか?」

「年が近い、というだけなら当然多くいたが……貴族だからか、普通に話してくれる者はいなかったな。俺も、子爵家の生まれである事を、誇りに思ってる。だから、それらしく振る舞うのに必死なのもあってな」

「成る程ね。でもそれなら、俺なんて貴族ですらないんだけど……」

「ははは! リクはそこらの貴族よりよっぽど各上だろう。女王陛下から頼りにされ、英雄の勲章までもらっている。むしろ、俺の方が畏れ多いくらいだ」

「ん~、そう言われてもね。俺は単なる冒険者だし、ただ被害が出ないように戦ってたら、そんな風に呼ばれるようになっただけだしね」

「……だからこそ、陛下にも頼りにされているのかもしれないな」


 エフライムはそう言うけど、姉さんは俺が弟だったから、というのが大きい気がする。

 あの姉さんが、ただ色々活躍できただけの人を、頼りにするとは思えないからなぁ。

 信頼する人はいるんだろうけど、誰かに頼り切ったりはしない姉さんだ……俺の前では油断しきった姿を見せてるけどね。


「だが、レナの事は認めたわけではないからな?」

「……何を言ってるんだ?」


 星を見上げていたエフライムが、急に鋭い目をして俺を見る。

 レナの事って言われても……俺には何の事だかわからない。

 テントに入る時もそうだったけど、何か変な勘違いをしてそうだな。


「とにかく、明日にはお爺様の所へ戻れるのか。元気にしているだろうか……」

「孫が攫われたんだ、心配してるんじゃないか?」

「まぁ、そうだろうな。お爺様は子爵として、領内の繁栄に努めていらっしゃる方だ。心配を掛けてしまった事は、悔しいな」

「それはまぁ、仕方ないな。とにかく、明日はそのクレメン子爵に会って、元気な姿を見せて安心させてやるといいよ」

「うむ、そうだな」


 クレメン子爵、どんな人なんだろう?

 エフライムの口ぶりからは、その子爵を尊敬している節が垣間見える。

 ロータのいた村、オシグ村でも評判は良かったみたいだし、悪い人柄ではないんだろうな。

 マルクスさんとは、色々と対応策を考えていたけど、そんな必要はない人みたいだね。


 しばらくの間、エフライムと一緒にのんびり話しつつ、明るくなって来た空を眺めて過ごした。

 朝、起きて来たレナに、俺と一緒に過ごしたエフライムが責められてタジタジになっていたけど、それも微笑ましい光景だった。

 私も起こしてくれれば……と言っていたレナだけど、子供はしっかり寝ておいた方が良いと思う、うん。



「それでは、トゥラヴィルトの街、クレメン子爵邸へ出発致します」

「はい、お願いします」


 皆が起きて来て、モニカさんが用意してくれた朝食を頂き、馬車に乗り込んで出発だ。

 もう大分街には近いはずだから、昼前には到着するだろうとの事だ。

 久しぶりに帰れるとあって、エフライムとレナはそわそわしてた。


「リク様、リク様~」

「ん、どうしたんだい?」


 馬車の中で、街へと向かっている道中、隣に座ったレナがやたらとくっ付いて来る。

 そんなに懐かれるような事をしたかな? 

 あ、一応閉じ込められてたのを助けたか……レナは、俺の魔法が原因で寝てたけど。

 不安だっただろうし、このくらいの年頃なら助け出された事で、相手をヒーローのように思ってもおかしくないね。


「随分リクさんに懐いたわね?」

「そうみたいだね」

「レナ? こっちに来ても良いんだぞ?」

「お兄様の所は行きたくありません」

「……くっ」


 モニカさんが苦笑しているのに、頷いて答える。

 それとは別に、エフライムがレナに声をかけ、自分の隣へ座るように言うけど、レナは拒否。

 エフライムはレナを妹として可愛がってるようだけど、構われ過ぎてちょっと嫌がられてるみたいだ……反抗期かな?


「レナ、お兄さん……兄弟姉妹は大事にしないといけないよ? もしかしたら、いつか離れる事もあるかもしれないんだから」

「リク様には、兄妹とかがいるんですか?」

「ん……まぁ、姉がね。いたんだ」

「……すみません。嫌な事を聞きました」

「ははは、いいんだよ。気にしてないから」


 邪険にされるエフライムが、少しだけ不憫だったのでレナにフォローをしようと思ったけど、レナの方は俺の事に興味があるようだった。



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