第328話 エフライムの妹レナーテ
「リク様。すみませんが、少し移動をしましょう。もし、眠らせた男達が起きて、エフライム様達がいない事に気付き、探し始めたら厄介です」
「あぁ、そうですね。まだここはあそこから近いですね」
「話を聞いていたら、その人達に見つかるのは面倒そうね。それじゃ、片付けをしますか。食事は、移動してからね」
「うん、そうだね」
マルクスさんの進言で、ここから移動する事を決め、焚き火やらの片づけを始める。
まだ万全じゃないエフライムは、そのまま座って休憩と、妹の様子を見ておいてもらう事にして、他の皆で協力して素早く片付けた。
そういえば、エフライムの妹さんもそうだけど、まだエルサも寝てるんだよなぁ。
スープの匂いで起きそうだと思ったんだけど……それだけ、眠りの霧を吸い込んでしまったんだろうね。
……今度から、キューを要求してうるさかったら、眠らせてしまおうか?
いや、それはかわいそうかもな。
「ここなら大丈夫でしょう。私は、馬の世話をして来ます」
「お願いします」
エフライムとその妹さんを馬車に乗せ、先程の場所から移動した俺達。
一旦街道に戻り、さらに少し北上して街道から離れ、少し街の方へも移動したから、あの男達もすぐには来れないだろう。
ここに来るのに街道を横切る必要があるから、エフライムが逃げた事を知っても、ここまで探しに来ないだろうしね。
馬車や馬をマルクスさんに任せ、俺とユノで枝を拾って焚き火用にする。
焚き火を始める傍ら、モニカさんが馬車に積んであった食料で、簡単な夕食の支度。
本当は、今日中に街へ到着する予定だったから、食料はちょっと心もとない。
それでも、しっかり美味しい物ができそうだったから、モニカさんは凄い。
ちなみに、馬車で移動中に、エフライムの妹さんとエルサが目を覚ました。
多分、魔法の効果が切れたからなんだろう。
ちょっと混乱してる様子だったが、エフライムが説明してくれた。
妹さんの名前は、レナーテ・シュタウヴィンヴァー、レナと呼んで欲しいとの事だ。
自己紹介と、簡単にエフライム達があの建物に閉じ込められる経緯を聞いた。
なんでも、俺の勲章授与式のために王都へ招集がかかり、クレメン子爵やエフライム、妹さんは王都へ行くつもりだったらしい。
エフライム達は見聞を広めるため、クレメン子爵は授与式に参加するためだ。
しかし、王都への返答をする直前、用があって街から移動したエフライムとレナは、馬車で移動中に襲われた。
護衛の兵士も、半分はバルテルの息がかかった者だったらしく、裏切り者の手によってとらえられた二人は、俺達が見つけたあの建物に連れて行かれたらしい。
その後は、窓のない部屋にずっと閉じ込められ、外を見る事もできずに過ごしていた、という事だ。
「こうやって、空をゆっくり見上げるのも、久々だな」
「はい、お兄様」
エフライムとレナは、座りながら二人で空を見上げてる。
ずっと部屋に閉じ込められて、外を見る事ができなかったのだから、空を見上げるだけでも思う所があるんだろう。
二人には休んでもらっておいて、俺とマルクスさんで野営のためのテントを設営。
ユノは、少し離れた場所にある川へ行って、エルサと一緒に水を汲んできたりと、モニカさんの手伝いだ。
「久々に、まともな食事をするな」
「暖かいです」
「食材が少ないので、満足いくものはできませんでしたが、量はあるので、たんと食べて下さいね?」
「あぁ、助かる」
モニカさんが作ってくれた料理を食べた二人は、ちゃんとした物を久々に食べるという事で、少し涙ぐんでいた。
なんでも、閉じ込められていた時は、粗末な物しか与えられておらず、不味い物でも食べずにいるよりはマシと、なんとか食べて凌いでいたそうだ。
特に何か、暴力を加えられたという事は無いみたいだけど、かなり辛かったんだろうね。
「リク、改めて感謝する。おかげでまた、空を見たり美味しい食事をする事ができた」
「リク様、感謝いたします。さすがは国の英雄です!」
「ははは……まぁまぁ、そんな事より今はしっかり食べて、体力をつけないと」
「そうだな」
「はい!」
二人は事あるごとに俺に感謝をし、頭を下げる。
特にレナは、俺と話す時は満面の笑顔になる……それだけ、助けた事を感謝してくれるんだろう。
けど、ずっと閉じ込められてた二人は、まだ体力が万全じゃないから、今は回復に専念して欲しいと思う。
俺への感謝なんて、あっても一度だけで十分だ。
「リク様、どうですか? 綺麗になりましたか?」
「うん、そうだね。汚れも落ちて可愛い顔がしっかり見えるよ」
食後、モニカさんがレナを近くの川へ連れて行き、簡単にだけど汚れを落として来てくれた。
ずっとお風呂にも入れなかった環境だし、捕まった時の物なのか、土や埃で汚れてたからね。
今は、マルクスさんがエフライムを連れて行ってくれてる。
さすがに着替えなんかは用意できず、着ている物はそのままだけど、エフライムと同じ茶色の髪は汚れが落ちて艶やかに、俺に向かって微笑んでる顔は、エフライムと少し似ているがまだあどけなさがぬぐえない。
将来は美人になるのはよくわかるけど、今は可愛いとしか表現できない。
「むぅ……」
「ふふふ、可愛いと言ってもらえて良かったですね?」
「綺麗と言われた方が良いのです」
俺の返答が満足いくものではなかったのか、少し頬を膨らませて拗ねて見せる。
そういった事も、子供っぽくて可愛い。
本人は、背伸びして大人と同等に見られたいようだけどね。
「嫌です! リク様と同じテントで寝ます!」
「レナ……レナーテ。言う事を聞きなさい。さすがに、嫁入り前のお前を男性と同じテントでは、寝させららないだろう? 俺も、本当はお前と一緒に寝たいのだが」
「お兄様とは別にどうでも良いのです。私は、リク様と一緒が良いのです!」
「レナさん、リクさんと一緒にいるのは、明日でもいいのでは? 今日はおとなしく、私と一緒に寝ましょう? ほら、ユノちゃんもいますし」
「一緒に寝るの!」
「くぅ……リク様といつも一緒だから、余裕ですね……」
「レナ? モニカさんと一緒に寝た方がいいよ? こっちは、マルクスさんやエフライムもいるから……ちょっと狭いしね?」
「……リク様が言うのであれば、わかりました」
食事も終わり、体も綺麗にして、明日に備えて寝るためにテントへ入ろうとした時、男性用テントの方で寝ると言い出したレナ。
諭そうとして、どうでも良いとまで言われたエフライムは、少し落ち込んでる様子だ。
モニカさんとマルクスさんは、苦笑をしてる。
ユノは見た目が近い女の子が増えたと、ちょっと嬉しそうで、エルサは我関せずで俺の頭にくっ付いたままだ。
駄々をこねるレナの前にしゃがみ、目線を合わせて優しく言うと、渋々頷いて女性用テントへと言ってくれた。
ちょっと顔が赤くなってたような気がするけど……疲れてるのかな?
「リク、小さい子が好きなのか?」
「何か酷い事を言われてる気がするけど……子供は可愛いから好きだね。変な意味じゃないぞ?」
「そうか……いつまでもこの兄の後ろを追って来ると思っていたが、知らぬうちに成長するものだな……」
「何を言ってるんだ?」
レナを見送っていたら、エフライムにおかしなことを聞かれた。
ユノもそうだけど、子供は嫌いじゃない。
捕まるような変な意味では無く、ね。
しかし、俺の答えに感慨深そうに遠くを見るエフライム。
本当に、おかしなことを考えている気がするな……。
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