第322話 妙な集団を魔法探査で発見



「それでは、出立致します。街への到着予定は日が沈み切る直前となっております」

「はい、わかりました。お願いします」

「お願いなのー」


 御者台でマルクスさんが予定を俺達に伝え、馬車を走らせる。

 ちゃんと、昼食後の後始末はして焚き火の火は消してからの出発だ。

 立つ鳥跡を濁さず、だね。

 旅をよくする冒険者にとって、大事な心得だ。


「んー、大分慣れてきたかな?」

「魔法探査?」

「うん。ずっと使って集中してるからね。前よりも、反応があったところへの距離とか、反応が何者なのかがはっきりわかるようになったよ」

「本当、リクさんのおかげで警戒する必要もなくて、便利ね。……普通は、旅をすると魔物の襲撃に備えて警戒する事も必要なのだけれど……」

「まぁ、油断はし過ぎない方が良いとは思うけど……できるだけ楽に移動したいしね。けど、俺が寝てる時はさすがにできないから……」

「それくらいはね、仕方ないわ。だから、野宿する時に交代で見張りを立てるんだし。それくらいはしなきゃね」


 馬車に揺られながら、魔法探査を使って周囲の反応を窺いつつ、モニカさんと話す。

 モニカさんへ言ったように、以前よりも距離感とか、反応があった生き物がどんな存在なのかをはっきり感じられるようになった。

 何回も使ってるし、慣れて来たというのもあるんだろうけど、情報を精査しようと集中しているおかげもあるかもしれない。

 とは言え、移動中の馬車からだから、多少の誤差はあるようなんだけどね。


「ん……ん~?」

「どうしたの、リクさん?」

「いや、え~っと……すみません、マルクスさん。馬車を止めてくれますか?」

「はっ!」


 魔法探査で、妙な反応があり、詳しく調べるために馬車を止めてもらう。

 首を傾げる俺の様子に、モニカさんだけでなくユノや、膝の上で丸くなってたエルサも疑問の目を向けている。


「リク様、どうされましたか?」


 馬車を止めて、御者台から俺に聞くマルクスさん。


「えぇっと……この辺りは、子爵邸のある街と、ロータ達がいた村以外に、人が住んでるような場所はありますか?」

「人が住むような場所ですか? ……いえ、そのような場所はないと思いますが……」

「人の反応があったの?」


 俺の質問に、急いで地図を取り出して確認するマルクスさん。

 それによれば、人が住んでる場所はないそうだ……でもこの反応は……。


「探査魔法の端の方なんですが……街道から随分離れた場所で、複数の人間がいるようなんです」

「街道から離れた場所……方向はどちらですか?」

「えぇと……ここから西……いえ、西南ですかね……」

「西南……街は真っ直ぐ西ですが、それよりも南ですか?」

「はい。多分、街にいる人の反応はまだありませんから、街よりもかなり手前だと思います」

「そうですか……ですが、やはりその辺りに人が住んでいるという事は……無さそうですね」

「そうなんですか?」

「はい。地図によると、そこは平野になっております。多少の木はあるでしょうが、川もなく不便です。街の近くなのに、そんなところに住む利点があまりありません。……農地というには、街から離れ過ぎていますし……」


 地図を確認しながら、俺の質問に答えてくれるマルクスさん。

 モニカさんも、そんなところに人がいるのだという事の意味を考えているようで、眉間に皺を寄せて考えてくれている。

 本来人がいないような場所に複数の反応……。


「リクさん、冒険者とかは? 魔物を討伐しているとか……」

「んー、それも考えられるかもしれないけど、近くに魔物の反応はないんだ」

「なら、薬草を採取する依頼を受けた冒険者? でも、森でもない場所で街から離れた場所の薬草採取なんて、あまり無いか……」

「……もう少し近付いてみますか?」

「そうですね……どちらにせよ、街に向かえば近付く事になるので……お願いします」

「わかりました」


 冒険者というのは俺も考えた。

 けど、そのわりには人数が多いような気がする。

 パーティに人数制限はないけど、大体多くても5、6人くらいというのをソフィーから聞いた事がある。

 それを考えると、一つのパーティでは収まらない人数なんだよなぁ。


 複数のパーティが一緒に魔物の討伐……とかなら、近くに魔物の反応があってもおかしくないし……もう魔物を倒した後とか、かな?

 今考えられる可能性はそのくらいだ。

 けど……この反応、魔物を倒した後にしてはあまり動いてないように思える。

 休憩中とかの可能性もあるから、否定ができる材料もないんだけどね。



「リク様、どうでしょうか?」

「そうですね……」


 あれから数十分くらい街へ馬車で移動し、魔法探査の範囲を西に移した。

 そうする事で、端にかろうじて捕らえてた反応も、反応がある周囲の事まで調べられる。

 馬車を止めて、探査に意識を集中させてる俺に、マルクスさんが聞く。

 モニカさんも、俺の様子を窺ってる。


「マルクスさん、モニカさん。街から離れた場所で、十数人の人間が集まって何かをする事は、何が考えられますか? 魔物は近くにいませんが」

「……大型の魔物を討伐する依頼を、複数のパーティが受けて……協力したり、かしら?」

「何かの軍事行動ですかね。小隊で行動する事で、連携を高める訓練……とかでしょうか」

「ふむ……」


 モニカさんは冒険者がと考え、マルクスさんは兵士がと考えてる。

 二人共、それぞれ自分の所属と照らし合わせて考えているようだ。


「……何かを集まってしているとして、ほぼ動いていないんですが……その場合は?」

「休んでる? いえ、このくらいの時間なら、さっさと街に引き上げた方がいいわよね……休めばそれだけ帰るのが遅くなるし……」

「訓練で動かず息を潜めるという事はしますが、こんな所でする事ではありませんね……」

「それと……多分ですが、建物の中にいるような反応です……」

「建物?」

「そんな所に建物、てすか?」


 何となく、広げた魔力の反応が悪い。

 野盗の時もそうだったけど、建物の中だと壁があるからその分反応が悪くなるみたいだ。

 木とかなら、生気のような魔力を感じるからわかるんだけど、建物の壁は生きた物じゃないから、わかりづらい。

 その分、反応が悪くなる事で、そこに人工物があるんだとわかるんだけどね。


「……怪しい、ですよね?」

「確かに怪しいですね……」

「怪しいわね……」

「怪しいの!」


 皆を窺うように呟いた俺の言葉に、マルクスさんやモニカさんは頷いて同意してくれる。

 ユノも一緒になって難しい顔をして考えてたけど、笑顔になって怪しいと断定。

 ユノ……怪しいと感じたら、笑顔になるのは何か間違ってると思うぞ?

 エルサは、最初こそ話を聞いていたけど、今は興味を無くして我関せずだ。


「……行ってみますか?」

「そうですね……森にいた野盗の事もありますから……」


 マルクスさんの言葉に頷く。


「こんな見晴らしの良い所で活動する野盗も、珍しいと思うけど……怪しいのは確かね」

「うん。まぁ近付いてみて、何事も無ければ、すぐに街へ向かう事にしよう」

「そうですね。街への方向とずれはあまりないようですし。少し到着が遅れるくらいで済むでしょう」

「行ってみるのー」


 怪しい人間の反応を調べてみるために、俺達はそこへ近づく事にした。

 途中で街道を外れる事になるだろうけど、ほとんど街の方向と同じだから、大きく遅れる事はないだろうし、そもそも時間が限られてるわけでもないから。

 それに、もし何か悪い事をしようとしているのなら、今のうちに何とかしないと街の人や村に被害が出る可能性もある。


 さっき考えたように、冒険者や兵士さん達で何も問題がないなら、ちょっとした寄り道程度で済ませられるだろうしね。

 相談を終え、再び馬車を走らせてひとまずは街道を進み、俺が反応を確認した場所へと向かう。

 それは良いけど、ユノ……何でそんなに嬉しそうなんだ?



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