第323話 建物を発見し接近



「街道を外れます!」

「はい!」


 マルクスさんから伝えられ、馬車が街道を外れて走る。

 日頃人や馬、馬車が行き交ってる街道とは違って、今走っている地面は何も手が入れられていない。

 当然、馬車の揺れもひどくなり、俺のお尻にかかる負担も増える。

 ……クッションが欲しい。



「この方角であっていますか?」

「はい。このまま真っ直ぐ行った先に反応があります」


 馬車の中から御者台に移動し、マルクスさんの隣で方角を指示して魔法探査に意識を向ける。

 魔法探査の方へ集中しておかないと、お尻が痛くて座ってられないからね。


「街から大分離れていますね……」

「そうですね。こんな離れた場所で、多くの人が集まって何をしているのか……」


 街へ向かう街道は真っ直ぐ西だったけど、今はそこから外れて少し南の方へ向かっている。

 街との距離もそれなりに離れているはずだし、街道からも離れてる。

 何故そんなところで人が集まってるんだろう……?

 魔物を……という事でなければ、街に近い方が良いだろうし……何故建物があるのかも気になる。



「かなり近付いてますね」

「わかりました。……もう少し近付いたら、馬車を降りて近付きましょう」


 日が傾き始めた頃、大分反応に近付いた事をマルクスさんに伝える。

 まだ目視はできないけど、そろそろ遠目に見え始めるころだと思う。

 まぁ、そこは建物の大きさにもよるか。


 マルクスさんは、怪しい集団に警戒をしているようで、馬車で近付くよりも、ある程度の所で馬車を降り、歩いて近づく事を提案する。

 確かに、馬車だと音がするし……気付かれずに接近するのは難しいね。

 もし建物にいる集団が、何か理由があり、問題のない集団だったら馬車のままでも良いんだけどね。

 悪い事を画策している集団だったとしたら、襲い掛かってくる可能性もある。

 マルクスさんとしては、リスクは最低限で行きたい考えのようだ。


「わかりました。ゆっくり近づいて、向こうにバレないようにしましょう」


 俺もマルクスさんの意見に賛成。


「はい。……それにしても、リク様の探査魔法……ですか? 便利ですね。向こうからは察知されず、こちらが一方的に察知できる……」

「まぁ、細かい事は集中しないとわからないですし、まだ完璧に使いこなせてるとは言い難いですけどね」

「それでも、何かがいるという事を遠くから調べられるのは、便利かと」


 マルクスさんの言う通り、相手がこちらを目視でしか知る事ができないと仮定したら、凄く便利な魔法だと思える。

 向こうがこちらを知る前に、遠くから簡単に調べる事ができるからね。

 ある程度、魔物や人間、エルフなんかの種族は判別できるけど、細かい部分はわからない欠点があるとはいえ、遠くから調べられるだけでも利点は十分だと思う。


「……あれですね。馬車を止めます」

「はい」


 マルクスさんが目を細めるようにして遠くを見、建物の姿を確認する。

 遮蔽物の少ない平原だから、何かに遮られる事無く遠くが見える。

 俺もマルクスさんと同じようにしながら、遠くを見て建物の姿を確認し、馬車が止まるのを待った。


「リクさん、あれね?」

「うん。ここからは歩いて近づくけど……モニカさんはどうする?」

「そうね……誰かが馬や馬車を見ていないといけないと思うし……私はユノちゃんとここにいるわ」

「私もなの?」

「そうよ。私一人だと、魔物に襲われた時対処できない可能性も否定できないからね。本当はソフィーがいれば良かったんだけど……ユノちゃんがいてくれれば心強いわ」

「わかったの!」

「私は、ついて行くのだわー。やっぱりここが一番なのだわー」


 馬車から降りて来たモニカさん達にどうするかを聞き、建物の方へ行く人員を決める。

 馬や馬車を見るため、モニカさんとユノは居残り。

 俺とエルサ、あとマルクスさんで建物へ行って調べる……という事になった。


「マルクスさん、行きましょう」

「はっ」

「リクさんだから大丈夫だろうけど、一応気を付けてね。私は何か起こらなければ焚き火でもして食事の準備をしておくわ」

「うん、お願いね」

「気を付けてなのー」


 エルサが頭にドッキングするのを確認し、馬を近くの木に繋げていたマルクスさんに声をかけ、建物の方へ歩きだす。

 後ろから声をかけて来たモニカさんに答えつつ、その場を離れた。



「マルクスさん」

「はい、どうかされましたか?」


 建物の方へゆっくりと近づきながら、マルクスさんに声をかける。

 魔法探査で改めてわかった事を伝えるためだ。


「建物の前に3人、建物の周囲に4人……建物の中に6人います」

「予想より人数が多いですね……別れているのは、見張りか何かでしょうか……?」

「かもしれません。外にいる人間は、付かず離れずくらいの位置ですね……休憩しながら話をするには、少し離れ過ぎている気がします」


 建物がはっきりと目視できるくらいまで近付いて、魔法探査ではっきりとわかる事が増えた。

 建物の前……多分入り口の前に3人が立っていて、その周囲を巡回するように4人。

 さらに建物内には6人の人間がいるのを確認した。

 他に人間が隠れてないか探ってみたけど、いなさそうだ。

 建物の中で隠れてたとしても、魔力反応が鈍くなるだけで完全に隠蔽はできないだろうしね。


「物々しい気がしますね。やはり警戒をしながら接近して正解だと思います」

「はい。とりあえず、見張りに見つからないよう、様子を見ましょう」

「はっ」


 少しずつ近づいて来る建物。

 見張りをしてる人間が見えるかどうか……くらいまで来たところで、とりあえずと近くにある木の陰に二人で隠れる。

 そのまま、また別の木の影へ……と移動して、ゆっくりと近づいて行く。


「建物の中にいる人間は、どういう行動をしているのかわかりますか?」

「これだけ近付けば、何となくですがわかります。少し待って下さいね」


 遠くにいる時は、建物の中なので魔力の反応が悪く、中に人間がいるのはわかっても何をしているのかはわからなかった。

 けど、かなり近付いた事で、集中をすれば多少の事はわかるようになってるはずだ。

 マルクスさんに断って、木の陰に隠れながら魔法探査に集中する。


「えぇっと……2人が固まってほとんど動いてませんね。他は、2人から声が届くくらいの場所に1人。さらにそこから離れた……多分別の部屋に3人が一緒にいます」

「2、1、3ですね。入り口と思われる、3人が立っている場所から近いのは?」

「3人です」

「わかりました」


 突入する時の事を考えているのかもしれない。

 まず先に相対する事になる人数を確認し、見張りの事も気にしてる……。

 こういう所は、魔物を主に相手にする冒険者とは考えが違うのかもしれないね。

 マルクスさんは冒険者じゃなく、軍の兵士だし。



「リク様の言う通り、3人いますね……それに、周囲を回っている人間が……4人でしたか」

「はい」


 さらに建物に近付き、はっきりと向こうの様子を探る事ができる状況になった。

 木の影とは言え、さすがに正面は見つかる危険が大きいので、建物を横から見る位置に隠れてる。

 そこから見ると、入り口と思われる場所の前に、間隔を空けて立っている人が3人。

 建物をぐるぐると回っている人が、右回りで2人、左回りで2人いた。


 周囲を巡ってる人は、入り口前に来た時に立っている3人に対して目線を送る事で、異常がない事を報告しているようにも見えた。

 やっぱり、何かが建物の中にあって、それを守ってると言うか……誰も入れさせないようにしてると見えるね。


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