第314話 ビッグフロッグとの戦い



「こっちはある程度余裕があるけど……あっちは……っと!」


 モニカさん達の方へ向かおうとしていたリザードマンを、後ろから斬り倒しながら、様子を窺う。

 リザードマンの背中は、硬いウロコで覆われてるはずだけど、俺の剣で簡単に斬り裂けた。

 ワイバーンも簡単に切れるんだから、当然か。

 剣には、リザードマンの表面に付着している粘液のような物が付いていたので、その場で素振りをして振り払う。

 ……簡単にそれも振り払えたけど……不純物を取り除く効果とかもあるのかな、もしかして?


 それはともかく、モニカさんとソフィーさんの方だ。

 二人はビッグフロッグは5体全てがモニカさん達の方を向いており、それぞれ舌を伸ばして捕まえようとしているみたいだ。


「ふっ! ……ユノちゃんを見てたら、迂闊に槍や剣で叩き落せないわね……」

「あぁ、捕まったら引き込まれるだろうからな……」


 二人は話しながらも、色々な場所から飛んで来る舌を大きく体を動かす事で避けていた。

 右から飛んで来たら、左へ飛び……左から飛んで来たら右へ。

 正面から来た場合は、左右どちらかへ避ける。

 後ろに避けないのは、散乱してる作物が邪魔してるとかじゃなく、予想より伸びて来たら捕まってしまう恐れがあるからだろうね。


 あんまり速い動きじゃないから、二人も避けるのは簡単にできてる。

 二人なら、剣や槍で自分に向かって来る舌を叩き落したりできそうだけど……多分ユノの時のように、武器に巻き付かれてしまうのを警戒してるからだろう。


「よっ! っと……キリがないわね……」

「5体か……想像していたよりも、舌が伸びて来るな……モニカ!」

「え? きゃ!」


 余裕で躱していた二人だけど、隙をつかれたのか、体の向きが悪かったのか。

 後ろから伸びて来た舌が、モニカさんの首に巻かれ、捕まってしまう。


「ぐぅ……」

「くっ! せい!」

「ゲコォォ!」


 思わず助けに行こうと思った俺だったけど、横から素早く近付いたソフィーさんによって、苦しんでいるモニカさんの首に巻き付いていた舌を斬った。

 舌だけあって、ビッグフロッグの方は痛みを感じるようで、怯んでいる様子だ。


「これがチャンスだな。……ふん!」

「ゲッ!」


 モニカさんに巻き付いていた舌を切ったそのままの勢いで、怯んでいたビッグフロッグに駆け寄り、その勢いのままビッグフロッグの腹を斬り裂いた。

 紫色の気持ち悪い体液をまき散らしながら、斬られたビッグフロッグが動かなくなる。


「ソフィー、危ない! フレイム!」

「ゲコッ!?」


 1体のビッグフロッグを倒したソフィーの後ろから、他のビッグフロッグによる舌が伸びる。

 あわや、巻きつかれ捕まりそうになったところで、ソフィーの周囲に炎が出現。

 その炎に驚いたビッグフロッグが、ソフィーに伸ばしていた舌をひっこめた。


「すまない、助かった」

「お互い様よ。……火には警戒するようね……」

「そのようだな……なら、モニカの魔法で牽制、怯んでるうちに私が斬り込む……でどうだ?」

「乗ったわ。それで行きましょう」

「リクの火の魔法はここでは使えないだろうが、モニカの魔法なら使えるな」

「そうね……リクさんの魔法だと……周囲の作物もいっぺんに燃やしてしまいそうだしね……」


 なんて冗談を交えながら、モニカさんが魔法を、ソフィーが隙を突いて斬り込むと役割分担ができたようだ。

 魔法を使いながらも、モニカさんに迫る舌をしっかり避けられてるのは、マリーさんによる特訓の成果なのかもしれない。


 それはともかく……俺の魔法だと作物を全部燃やしそうって……俺だってちゃんと調整して使うんだけどなぁ……。

 失敗する事が多くて、信用がないのはわかるけど。


「というか……あれだけ動いてるのに、エルサはくっ付いたまま離れないんだな……まぁ、今更か」


 モニカさんの頭にくっ付いてるエルサを見て、少し呆れる。

 危機感もなにもない、のんびりとした表情で、ぴったりくっついていて、モニカさんが激しく動いても振り落とされたりしない。

 ……俺にくっ付いてる時も、そんな感じだから……考えるだけ無駄か。

 それに、モニカさんと一緒にいてくれれば、二人にもしもの事があってもエルサが何とかしてくれるだろうしな。

 二人を心配する必要は無さそうだ。

 こっちはこっちで戦う事に集中しよう。


「おっと、そっちへ行っちゃいけないよ! っと」


 また、甲羅を持ってないリザードマンを見つけて、モニカさん達の方へ向かおうとするところを、剣で斬って止める。

 なんだか、モニカさん達の方へ行こうとするリザードマンが多い気がするね。

 もしかして、俺やユノに敵わないと思ったから、あっちに行こうとしてるのかな?


「まぁ、それはいいか。向かわせないようにしたら良いだけだし……」


 さて、リザードマンを倒すため、剣で斬りながら一つの考えが浮かんで来た。

 今回は、規模の大きい魔法だと、周囲の畑や作物に影響があるだろうから、魔法が使えないけど、それよりも昨日野党と戦った時の事だ。

 野盗のボスの指示で、俺に向かって来た男二人のうち、片方が振り下ろした剣を素手で受け止めた。

 エルサが言うには、戦闘体勢というか……意識を戦闘に切り替えると、俺は魔力によってドラゴン並みの硬さを得る事ができるという事。


 ちょっとだけ、それがどれだけか試してみたくなって来た。

 多少の怪我をしても、治癒魔法を使えば治せるだろうしね。

 ……痛いのは、好きじゃないから……怪我をしてしまったらすぐに止めるけど。


「それじゃあ……あのリザードマンが良いか」


 剣を鞘にしまいながら、甲羅を持ったリザードマンに狙いを付ける。

 そちらにゆっくりと近づいて、戦闘へと意識を集中させる。

 今回は避けるとかそういう事は考えない。

 受けて、叩く……これだね。


「ギャッ! ギャッ!」

「……! やっぱり平気だ……」


 俺が近づいて来た事で、警戒したリザードマンが、持っている剣で俺に切りかかる。

 甲羅を持ってるから、踏み込んでは来ないけど、わざわざ剣が届くところまで来た。

 リザードマンが振り下ろす剣に、左手のひらを向けて受け止める。

 さらに力を込めて握りしめると……。


 バキッ!


「ギャッ!?」

「あら……折れちゃった」


 剣の中程で受け止め、刃を握ると、そこからリザードマンの剣が音を立てて折れてしまった。

 ……こんな事もできたんだなぁ。

 剣が受け止められ、折れてしまったのを見たリザードマンは、驚き後退る。

 けど、甲羅を持ったままだから、思うように後ろには下がれないようだ。


「さて、次はこっちだね」


 距離を離そうにも離せないリザードマンとその甲羅を見据え、右手を握り拳にする。

 ……逃げたいなら、甲羅を捨てて逃げれば良いのに……と思うけど、パニックになってそれすら考えられないんだろう。

 あんまり知能が高くないって言ってたしね。


「よい……しょ!」


 バリィィン!!


「ギャギャッ!?」


 握り込んだ拳を、力任せに甲羅へ打ち付ける。

 そこまで抵抗を感じる事無く、ガラスの割れる音に似た音を立てて散らばる甲羅。

 実験台にされたグリーンタートルはかわいそうと思うけど……畑の土を食べた罰だね。

 リザードマンは、持っていた盾よりも硬いはずの甲羅が、易々と破壊された事に驚きながら、すぐに振り返って逃げようとしていた。

 俺はそれを見て、腰を落として追いかけるために足に力を溜めた。



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