第313話 グリーンタートルの硬い甲羅



「はぁ!」

「ゲコォ!」

「ソフィー!」

「私もいるわよ!」

「ギャッ!」

「モニカなの!」


 ユノを助けに向かおうか迷っていた時、横からソフィーが走り込んできて、ビッグフロッグの舌を剣で切断。

 引っ張るのに全身の力を使ってたビッグフロッグは、勢いあまって悲鳴のような鳴き声を上げながら、ひっくり返る。

 それとほぼ同時、動きが止まったユノに襲い掛かろうと、持っている剣を振りかぶっていたリザードマンの横腹に、モニカさんの槍が深々と突き刺さった。

 ……ふむ、お腹なら柔らかいのか……確かにお腹から首のあたりまではウロコがないからね。


「ビッグフロッグは私達が相手にするわ! ユノちゃんとリクさんは、グリーンタートルを!」

「わかった!」

「わかったの!」

「まずは、あそこでひっくり返ってるビッグフロッグだな……!」


 俺達、特にユノの無事を確認した二人は、グリーンタートルがいる合間を縫って、ビッグフロッグへと走る。

 俺とユノは、まずリザードマンが持ってるグリーンタートルの甲羅を何とかしないとね。

 ……しかし、本当に盾のように持ってるんだな……全身が隠れるくらいの大きさなのに、どうやって片手で持ってるんだろう……。

 そう思って軽く観察してみると、地面に捨てられている今まで持っていたはずの盾の横に、ビッグタートルの甲羅の端がめり込んでるのが見えた。


 もしかすると、持つというより、立てかける要領で盾にしてるのかもしれないね。

 それなら、持ち上げなくても支えるだけで良いから、力はあまりいらないはずだ。

 だとしたら、動き回る事はできなさそうだね。


「ふむ……ふっ! っと」

「はい! なの!」


 元々俊敏では無かったリザードマンだけど、さらに動けなくなったのを見て取り、ユノと二人で悠々と近付く。

 リザードマン達は、軽々と仲間を斬り捨てた俺とユノを脅威と感じているのか、迂闊には近寄って来なくなっている。

 というより、ほとんどのリザードマンがグリーンタートルを盾にしてるから、動けないのかも?


 俺は、リザードマンの剣が届かない距離まで近づき、そこから力を込めて大きく踏み込み、ビッグタートルの甲羅に向かって思いっきり剣を振る。


 バリィン!


「ギュァァァァ!」


 というガラスの割れた音を響かせて、断末魔の悲鳴と共にバラバラになるビッグタートル。

 声出せたんだな……。

 それはともかく、どうやら甲羅はガラスに性質が似ているらしく、割ればバラバラに散らばるようだ。

 ちなみに、俺と一緒にユノが踏み込んだのだけど、そっちはバラバラになった甲羅の破片を盾で防ぎながら、剣で甲羅を割られて呆気に取られている……ように見える……リザードマンを一振りで斬り裂いた。


「剣で破壊する事もできるんだね」

「リクの剣が特別なの。斬るじゃなくて破壊できる剣なんて、普通はないの!」

「そんなもんかな?」


 地面に散らばった甲羅の破片と、絶命して転がるリザードマンの体を見ながら、ポツリと呟く。

 それを聞いていたユノが、俺の剣だからと説明してくれる。

 確かに、頑強の魔法が掛かってて、丈夫な剣だからできる事なのかもね。

 俺には技で斬る事はできないけど、力任せに押し斬る事はできるから。


「それじゃあ、ユノの方は?」

「私の剣はそこまで丈夫じゃないの。けど、斬る事はできるの!」

「そうなの? じゃあ、あっちの奴……やってみる?」

「任せてなの!」


 ユノの剣は、マックスさんからもらった剣。

 あまり詳しくはないけど、素人の俺でも良い剣だと思える物だ。

 けど、その剣には何も魔法が掛かってないから、俺の剣と同じような頑丈さを期待してはいけないと思う。

 それでもユノは、甲羅を切る事ができるらしい。


 自信満々のユノを連れて、別の甲羅を持ったリザードマンの所へ。

 リザードマン達は、俺達が甲羅を割った事にさらに驚き、もはや怯えすら感じる雰囲気で動く事ができないでいる。

 だから悠々と動けるんだけどね。


「それじゃあ、こいつで試してみよう。さっきとは逆で、ユノが甲羅を。その後に俺がリザードマンを倒すから」

「わかったの!」


 近くにいたリザードマンの所へと移動し、ユノと軽く会話。

 標的にされたリザードマンは、持っている剣を威嚇するように振っていたけど、距離が遠いので当たらない。

 盾を動かす事が中々できないのか、そこから動いて来ない。


「行くの! ふっ!」

「それじゃこっちも……!」


 ユノが踏み込み、素早い動きで甲羅の前へ。

 目にも止まらぬ程の速度に、踏み込みの勢いを加えて剣を振る。

 俺も遅れないように一緒に踏み込んだけど……。


「ちょ、ちょっとユノ! 切れて無いんだけど!」

「大丈夫なの! そのままリザードマンを斬るの!」

「……えぇい! わかったよ! せい!」


 ユノが剣を振った後、俺が甲羅に向かって行ったのは良いけど、甲羅には全く変化が見えない。

 それに焦ってユノに向かって叫びながら、飛び込む足を止めそうになったけど、ユノの叫びを信じてそのまま剣を振る。

 こうなったら、甲羅ごとリザードマンを斬るつもりで、力を込める!


 バリィン!


「え……?」


 俺が剣を振り始めた瞬間、甲羅に一筋の亀裂が入り、そこを基点としてグリーンタートルの甲羅が割れた。

 どういう事かはわからないけど、ユノの言った通り大丈夫なようだ。

 そのまま俺は、剣を振り切り、甲羅に邪魔される事無くリザードマンを横から真っ二つにした。

 破片が飛び散って来たけど、体や腕に当たっても、痛みとかないな……これがガラスだったら危ないんだけど……。

 いや、金属より硬い甲羅が割れた破片とか、ガラスより危ないんじゃないか?

 まぁ、今はそんな事どうでも良いか。


「ユノ?」

「どうしたの?」

「剣で斬れてたんだな……」

「もちろんなの。剣速を限りなく早くする事で、切れ味を増加させたの!」

「そ、そうか……」


 確かに、ユノが剣を振る腕の動きは、ほとんど見えなかった。

 だからと言って、金属の剣で金属よりも硬い甲羅を斬るって、簡単にできる物なのか?

 理屈はわからないが、目の前でユノがやり遂げたんだから、できる事なんだろうけど……。


 マックスさんからもらった剣が特別……?

 いや、ユノもあの剣は良い物ではあっても、そこまでの物じゃないって言ってたしな。

 どちらかというと、ユノが特別なんだろう……。


「……何はともあれ、お互いグリーンタートルの甲羅を破壊できるってわかったか。それじゃ、別れて数を減らして行こう。甲羅を持ってるリザードマンは、あまり動けないみたいだから、持っていないリザードマンをできるだけ倒しながら、だな」 

「わかったの! モニカやソフィーの方には行かせないようにするの!」


 ユノに指示を出し、お互い頷いて別々のリザードマンへと向かう。

 モニカさんやソフィーは、ビッグフロッグの相手で手一杯みたいだから、リザードマンに横から襲われると危ないしね。

 余裕のあるこちらができるだけ受け持つべきだ。


「ふっ! ……っと。やっぱり、この剣は頑丈だね。助かる」


 力任せに剣を振り、持っているグリーンタートルの甲羅ごとリザードマンを斬り伏せる。

 魔力を多く使う代わりに、俺が力任せに使っても刃こぼれ一つない。

 ヘルサルで売ってくれた、武具店のイルミナさんには感謝だね。



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