第310話 宿屋で魔物討伐の打ち合わせ



「リザードマンはともかく……グリーントータルとビッグフロッグか……厄介だな」

「ええ。何故一緒にいるかはわからないけど……」

「グリーンタートルですか……生半可な剣で斬ったら、剣の方が折れそうですね」


 皆で男性部屋に集まり、イオニスさんと話した事も含めて、魔物に対する対策会議だ。


「えぇと……俺はグリーンタートルとか、ビッグフロッグはよく知らないんだけど……面倒なの?」

「そうだな、まずはリクに説明しよう。説明する中で、対処も思いつくかもしれないしな」

「そうね」


 マックスさんから聞いた魔物の話では、リザードマンくらいしかわからない。

 さすがに、色んな種類がいる魔物を、短期間の詰め込みで全部覚えられないからね。

 教えてもらったのは、冒険者がよく会う可能性が高い魔物と、要注意が必要な特殊で危険な魔物の事ばかりだ。


「ビッグフロッグは……そうね、見た目そのまま蛙ね」

「そうだな、蛙だ」

「それはわかるけど……他の特徴は?」


 モニカさんとソフィーが説明してくれるようだけど、名前からわかる、蛙である事しか言わず、それを聞いたマルクスさんも頷いてる。

 いや、蛙って事はわかってるんだけど……。


「そうね……大きい?」

「大きいな」

「そりゃ、ビッグって名前だからね。どのくらい大きいの?」

「そうだな……リクがパレードの時、乗っていた馬がいるだろう?」

「うん」

「ビッグフロッグは、あの馬よりも大きいわ」


 それは……確かにビッグだね。

 あの馬は、大体3メートルくらいで、馬にしては大きい方らしいけど……それよりも大きいのか……。

 巨大な蛙……気持ち悪そうだ。


「ビッグフロッグは大きい事以外、特に特徴はないわ。長い舌を出して相手を捕まえ、口に入れて食べる」

「あとは、巨体を使って相手を押しつぶす……だな」

「成る程。じゃあ、その舌と大きさに注意してれば良いだけなんだね?」

「そうね。冒険者としては、DランクかCランクで対処できると考えられてるわ」

「気を付けないといけないのは、相手を捕まえる舌だが……食べられても、すぐに倒して腹を裂けば死ぬことはほとんどない……代わりに、色々な物で汚れるがな……」

「うわぁ……」


 想像しただけで、ちょっと気持ち悪い。

 リザードマンも、そうやって食べられるんだろう。

 食べられた時に、唾液とか消化液とか……色々な物で汚れてしまうんだろうなぁ……すぐに助け出せば死ぬ事はほとんどないそうだけど、食べられないように気を付けよう。


「問題はグリーンタートルだな」

「えぇ、あの甲羅はちょっとね……」

「そんなに硬いの?」


 ビッグフロッグの説明が終わり、グリーンタートルの説明になって、モニカさんとソフィーが難しい顔をしながら顔を見合わせる。

 亀だし、甲羅が硬いのはわかるけど……そんなに硬いのかな?

 甲羅を無視して、顔とかを狙えば倒せそうだけど……。


「グリーンタートルは、甲羅を割らないと倒せないのよ」

「甲羅が本体だからな」

「甲羅が本体?」

「ええ。甲羅がグリーンタートルの体……というより、グリーンタートルそのものなの。甲羅の間から出て来る顔や手足をいくら傷つけても、倒せないわ」

「痛がりはするみたいだけどな。でも甲羅を無視して倒したという事は聞かないな」

「そうなんだ……」


 顔や手足をいくら潰しても死なないのが、どういう仕組みなのかはわからないけど……甲羅を割らない限り倒せないという事か。


「それに、グリーンタートルの甲羅は、リザードマンと一緒でツルツルなのよ……変な粘液が覆ってるしね」

「生半可な攻撃だと、剣の刃が滑るっていう?」

「そうだ。そのうえ、そこらの金属よりも硬い。下手に攻撃すると剣が滑るし、その硬さで剣が折れる事もある」

「滑るし折れる……」

「つまり、剣で斬ろうとすると粘液で滑って威力が半減……さらに金属よりも硬い……余程の達人か、折れない物を力任せに叩き付けるしかないんだ」

「ランクで言うと、Dランクなんだけどねぇ……」

「そんなに面倒そうな相手なのに、Dランクなの?」


 攻撃がほとんど通用しない……という事を考えると、Cランク以上はありそうだ。

 二人の口ぶりだと、Dランクの冒険者が剣を使っても勝てそうに思えない。


「グリーンタートルは、ほとんど危険はないのよ」

「危険がない? 魔物なのに?」

「甲羅に閉じこもるだけだからな。魔法を使ってくるわけでもないし……人が死ぬような攻撃はしてこない。だから、ゆっくり近づいてハンマーなんかの鈍器で甲羅を割るのが普通だ」

「あー……そうなんだ」


 攻撃はしてこないのか……だったら確かに危険は少ないだろうね。

 甲羅の硬さが異常なだけで、冷静に対処すれば良いのなら、確かにランクは低くくなるだろうし。


「ただ、グリーンタートルは土を食べるからなぁ……」

「土を食べるの?」

「ええ。だから、農家にとっては天敵なの」

「作物を育てるような、農地の土が大好物らしい。そして、土を食べたあとは代わりに粘液を出して、作物の育たない場所にするんだ」

「……それは……この村にとって致命的だね……」

「あぁ。農業で生計を立てる村だからな。だから、見つけたらすぐに討伐する事が推奨される」


 成る程ね……そう考えると、他の魔物よりグリーンタートルがいる方が、村にとっては被害が大きくなるのかもしれない。

 とは言え、危険が少ないとはいえ魔物は魔物。

 村の人で討伐は難しいのかもしれないし、今回は他にもリザードマンやビッグフロッグがいるから、イオニスさん達は手の出しようがなかったんだろう。


「そのグリーンタートルを倒すのって、簡単なんだよね?」

「そうねぇ……甲羅を割る方法さえ確立したら、倒すのは簡単ね」

「だが、周囲にビッグフロッグやリザードマンがいるからな……甲羅を割る事に集中はできないだろう」

「だったら、先にビッグフロッグやリザードマンを倒してから、落ち着いてグリーンタートルを倒すのでいいんじゃない?」

「それがな……グリーンタートル自体はあまり危険がないのだが……」

「甲羅を使って、他の魔物が盾にする事があるのよ。知能が低くても、戦闘に使える物を使うくらいの知恵はあるようね」

「そうかぁ……」


 グリーンタートルの数が多い場合、先に他の魔物を倒せば……と考えたけど、それも難しいようだ。

 硬い甲羅を盾に使うのなら、倒せなくなるわけじゃないけど、1体相手に苦労する事になる。

 だから、同時もしくは先にグリーンタートルを倒した方がいいのだろうね。


「んー……なら、モニカさんやソフィーでビッグフロッグとリザードマンを相手にして、俺がグリーンタートルを倒す……というのはどう?」


 俺はいつも力任せに剣を振ってるから、他の皆より力があると思う。

 ヴェンツェルさんやマックスさんみたいに、大柄じゃないから力自慢……というわけではないけど、甲羅を割ったり斬ったりくらいはできるかもしれない。

 それに、ヘルサルで買った剣も頑丈だしね。


「悪くはないわね……でも、私達だけでグリーンタートル以外を相手にできるかしら?」

「リザードマンの攻撃を避けながら、離れた場所からビッグフロッグの舌が伸びて来るか……数が多ければ、難しいかもしれないな……」

「私もグリーンタートルとリザードマンを倒すの!」

「ユノちゃんが?」


 難しい顔をして考えるモニカさんとソフィーに、ユノが手を上げながら主張する。

 ユノかぁ……ユノなら達人のように剣を使うから、グリーンタートルの甲羅を斬る事ができるかもしれない。

 それに盾も持ってるから、リザードマンの攻撃を防ぐのもできるだろうしなぁ。

 


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