第309話 イオニスさんに魔物の情報を聞く



「リザードマン……ですか?」

「はい。リザードマンとグリーンタートル、ビッグフロッグがいるようです」


 イオニスさんと魔物の話を始め、まずは確認された魔物がどんな物なのかを聞いた。

 リザードマンは、よく聞く名前だね。

 二足歩行のトカゲで、剣や盾、鎧を着てたりする魔物だ。

 日本の物語に出て来るリザードマンと、この世界にいるリザードマンはほとんど違いがないみたいだ。


 以前マックスさんに魔物の知識を教えられた時に、聞いた事がある。

 確か、鎧を着ていないけど、代わりにその皮が固く、しかもぬるぬるしているので、剣で斬ろうとしても生半可な斬り方だと刃が滑ってまともに斬れないらしい。

 ただ、そのぬるぬるした物は油に近い性質らしく、よく燃えるうえリザードマン自体も火に弱いので、魔法で燃やすのが手っ取り早い倒し方だと聞いた。


「リザードマンはわかりますが……グリーンタートルと、ビッグフロッグですか……」

「リザードマン以外は、そこまで多くない魔物ね」


 名前からすると、亀と蛙っぽいけど……グリーンタートル……ミドリガメ?

 俺の頭の中には、祭りの屋台で出されているミドリガメが頭に浮かんだ。

 あれは確か、数十センチでそこまで大きくないけど……魔物だからなぁ。

 あと蛙か……ビッグというくらいだから、大きいんだろうけど、どれくらいかは想像できない。


「聞いたところによると、リザードマンはビッグフロッグの餌らしいのですが……何故この村の近くで一緒にいるのかわかりません……」

「そうですか……確かにビッグフロッグはリザードマンなんかの、湿地帯に住む魔物を食べていると聞きます。グリーンタートルは甲羅に入れば固くて食べられないだろうから、ビッグフロッグから逃れられるけど……なんで一緒にいるのか、ね」

「えぇと、魔物が一緒にいるのは珍しいの?」


 リザードマンがビッグフロッグ……蛙の餌になる事に少し驚いたけど、イオニスさんとモニカさんが首を傾げてる理由がよくわからない。

 この世界に来て、色々な戦いをして来た俺からすると、魔物は数種類一緒にいても人間やエルフを目標に

襲って来たからね。

 一緒に人間を襲おうと何かしらの利害が一致したのかもしれないし、どちらかがどちらかを利用している事も考えられる。


「はぁ……リクさんは大きな戦いを経験し過ぎね。悪い事ではないんだけど……。えぇとね、本来魔物は種族にもよるけど、徒党を組んだりしないの。同じ種族なら、あり得るのだけど……でも、他の種族と一緒だなんて、ほとんどないわ」

「そうなの? でも、王都の時やエルフの集落の時は……」


 ヘルサルの時は、全部ゴブリン系だったから徒党を組むのも当然と考えられる。

 そもそもが、ゴブリンキングが指揮してるらしいからね。

 それはともかく、王都の時やエルフの集落の時は、数種類の魔物が一緒に襲い掛かって来てた。

 ワイバンーンだけは空からだけど、一緒に城へ攻めて来てたと考えると、これもこれも徒党を組んでると考えられると思う。


「魔物はそもそも、知能が低いの。利害が一致したとか、他の種族を利用しようと考える事は基本的にないわ。王都の時はわからないけど、エルフの集落ではサマナースケルトンが召喚した魔物を支配下に置いたからでしょうね」

「基本的?」

「ええ。知能の高い魔物もいるからね。それは置いておいて……今回確認された魔物は、知能が高い例外の魔物ではないわ。当然、他種族と組むはずはないわ」

「そうなんだ……」


 サマナースケルトンは、召喚した魔物に命令をする事ができる……という話だったから、エルフの集落の時の事はわかる。

 でも王都はどうしてなんだろう……そう言えばマティルデさんが、集結した方法がわからないって言ってたね……。

 それはともかく、今はこの村の近くにいる魔物の事だ。


「村長さん、リザードマンとかはこの村付近では、珍しくはないんですか?」

「はい。時折、それぞれの魔物が近くで確認されております。その度に、戦える者が追い払ったり、街から来た冒険者が討伐したりしております」

「という事は……この村の近くに湿地帯が?」

「そうです。村をさらに南へ行くと、隣の貴族領との間に大きな湿地帯が広がっております。この付近で確認される魔物は、そこからはぐれた者だとの事です」


 湿地帯に近いから、爬虫類系の魔物が多いんだろう。

 種類にもよるけど、湿った空気が好きみたいだからね。

 という事は、この村付近で戦う魔物はほとんどそういった種類になる事が多いんだろう。

 爬虫類かぁ……人によっては好きな人もいるみたいだけど……俺はあんまり好きじゃない……かな。


「どうしてそんな魔物達が、徒党を組んでこの村近くにいるのかはわかりませんが……ともかく、それらを討伐すれば良いんですね?」

「はい。数が多く、村の者だけではどうしようもありません。なので、ヌートに頼んで冒険者の方へ依頼しようとなったのですが……」


 イオニスさんが顔を俯ける。

 ヌートさんに頼み、その後どうなったかを考えているんだろう。

 もしかしたら、頼んだことすら後悔しているのかもしれない。

 でも、村に近い場所で被害が出る可能性が高いんだから、ヌートさんに頼んだのは当然の事だと思う。


 むしろ、ヌートさん以外だったら、ロータが王都まで辿り着く事無く、野盗達にやられてたかもしれない。

 ……平和そうな村だけど、近くの街へ行く道は魔物に塞がれ、王都への道は野盗が……迂回すれば何とか移動はできるだろうけど、孤立してたんだね。


「大丈夫です。ヌートさんの事は残念ですが……ロータが王都へたどり着いてくれたおかげで、俺達がここに来れました。ヌートさんの代わりはできませんが、村の近くにいる魔物は必ず討伐します」

「はい、はい……よろしくお願いします……」


 魔物を討伐する事を約束すると、イオニスさんは顔を上げ、涙を溜めた目で俺をしっかりと見た後、奥さんと一緒に深々と頭を下げた。

 魔物が移動した事もあり、村がどうなるかずっと考えていたんだろうな。

 イオニスさんは村長だから、色々な責任を感じていたんだろう……もしかしたら、ヌートさんが亡くなった事も、頼んだ側として責任を感じていたのかもしれない。

 ヌートさんの事は、イオニスさんが悪いんじゃなくて、全部襲った野盗が悪いんだけど……これは言っても仕方ないよね。



「では、ごゆっくりお休みください」

「はい、ありがとうございます」


 イオニスさんとの話が終わった後、ソフィー達も合流して、村で一軒だけの宿屋へ案内された。

 外はもうすっかり暗くなっており、魔物の討伐は明日以降という事になったからね。

 宿自体はセンテで泊った宿と同じような簡素な造りだったけど、あっちよりも部屋が大きい。

 一人一人の部屋というより、数人で一部屋を使って泊るタイプのようだね。

 部屋割りは、野営のテントと同じで男性女性で別れて二部屋になった。


 イオニスさん達は、ロータの事や魔物を討伐してくれる冒険者という事で、歓迎も込めて一人一部屋にしようと言ってくれたけど、さすがにそれは断った。

 贅沢をしに来たわけじゃないしね。



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