第308話 エルサの新たな好物



「Aランクはこの国に数えるくらいしかおらん。世界に広がる冒険者ギルドが認めたAランク。その強さは軍隊に匹敵し、ギルドが認めた事から、人格も優れておると聞いた事がある」

「「「軍隊に……」」」


 イオニスさんの説明だけど……軍隊に匹敵は言い過ぎじゃないかなぁ?

 王都で戦ってた兵士さん達は見たけど、あれにヴェンツェルさんやハーロルトさんが加わるとなると……一人で相手にできるようなものじゃないと思うんだ。

 多分、あまり冒険者と接点がない村だから、話しが大きくなって伝わってるんだと思う。

 人格に関しては……できるだけ冒険者らしく、人助けができたらと考えてるけど……自分で良い人なんて言えないよね……。


 ちなみにモニカさんは、俺のランクを言って村の人達が驚いているのを、溜め息を吐きながら見ていた。

 Aランクは確かにすごいのかもしれないけど、その「やっぱり」って顔をするのは止めて欲しいなぁ……。


「……失礼しました。Aランク冒険者とは知らず、無礼な対応をしてしまいました。リク様、よくこの村に来てくださいました……我々村の者は、リク様を歓迎します」

「いえ……その、様を付けて呼んだり、そこまで畏まらなくて良いですよ? さっきまでと同じ感じで……お願いします……」


 俺がAランクだと知って、急に態度を変えて畏まった様子のイオニスさん。

 この村には、まだ俺が英雄と呼ばれている事なんかの情報が伝わっていない様子だから、折角だから様を付けずに普通に呼んで欲しい。

 マルクスさんもそうだけど、最近様を付けて呼ばれ過ぎて……。


「いえいえ、そのような事は……。Aランク冒険者様を……この村を救って下さるために来て下さった方を、他の者達と同じように扱うわけには……」

「いやいや、大丈夫ですから。俺なんて普通の一般人と同じですから。畏まらず、普通にして下さい……」

「いえいえ……」

「いやいや……」

「はぁ……リクさん。代わるわ。私が村長さんに説明しておくから。このままじゃ話が進みそうにないからね」

「……ごめん、モニカさん。お願いするね」


 俺とイオニスさんによる、いえいえいやいやの応酬を、ポカンとした様子で見守る村の人達。

 それを見て、溜め息を吐いてモニカさんが代わりに話をしてくれるよう、進み出てくれた。

 お願いします、普通に接してくれるよう、説明して下さい……。


「村長さん、リクさんは特別扱いを嫌うんです。だから、他の人と同じように、普通に接して下さればと思うます。……特別扱いされたくない人に、特別扱いをするのは、逆に失礼かと思いますよ……」

「それは……確かに……」


 いや、モニカさん……特別扱いが失礼に感じるとかじゃないんだけど……。

 イオニスさんは、声を潜めるようにして言ったモニカさんの言葉に、頷いて納得し始めてる様子。

 ……特別扱いされる事で、失礼だとかは思わないけど……このまま任せたら、普通に接してくれるようになるかもしれないから、このままモニカさんに任せよう。


「私達はCランクですし、リクさんはそんな私達と一緒にパーティを組んで、普通に接しています。なので、村長さん達も、変に畏まらなくても良いんですよ?」

「……わかりました。では、先程までと同じように話すように致し……話すようにします」

「はい、お願いします」


 何とか話はまとまったようだ。

 モニカさんのおかげで、村長さんの畏まった態度が改められ、最初と同じような話し方になった。

 他の村人さん達も含めて、まだ少し硬い部分もあるように思うけど、そのうち慣れてくれるだろう。



「では、こちらです……」


 あの後、俺達と詳しい話をするため、一旦集会の解散をさせたイオニスさんは、俺達を連れて村長宅へと案内してくれた。

 そこで、詳細な話をするためだ。

 ユノとソフィーは、ロータとその母親に付いて、様子を見てくれている。

 大事な人が亡くなったんだから、すぐに元気にいつも通り……とはいかないよね。

 イオニスさんの所に来たのは、俺以外にくっ付いてるエルサとモニカさん、それとマルクスさんだ。


 エルサはともかく、モニカさんは俺と村長さんが話をする時のサポートで、マルクスさんは国所属として詳しい話を聞くためらしい。

 色々と報告とかあるだろうから、しっかり話を聞いておかないといけないんだろう。


「どうぞ……大したものではありませんが……」

「ありがとうございます」


 イオニスさんの家にある居間で、皆が椅子に座った頃合いを見計らって、奥さんと見られるお婆さんが、皆にお茶と食べ物を用意してくれた。

 食べ物は茶菓子ではなく、野菜の切れ端を使った漬物のような物みたいだ。

 農業をする村らしい物だね。


「キューが無いのだわ……」

「あぁ、そうだね……じゃあ、これを食べておとなしくしてて」

「わかったのだわ。キューがあればそれで良いのだわ」


 エルサが、出された物を見て俺の頭にくっ付きながら呟いた。

 食べ物が出て来たから、キューを期待したんだろうけど、期待外れだったようだ。

 仕方なく、鞄からキューを出して、エルサに渡した。


「あら、その子はキューが良かったのですね。申し訳ありません、すぐに用意致します」

「あ、お構いなくー」


 お構いなくと言ってしまうのは、日本人のさがなのか……。

 ともあれ、イオニスさんの奥さんは、すぐに居間を出てエルサ用のキューを用意して帰って来た。


「すみません……わざわざ用意して頂いて……」

「いえいえ、良いんですよ。この村には、こういった物は余る程ありますからね」

「キューなのだわ! ……何か今までと違うのだわ?」

「んー……これは、浅漬けかな?」

「食べるのだわ……ング、ポリポリポリ……こ、これは! 新しい味なのだわ! 新しいキューなのだわ! 味の宝石箱なのだわー!」


 奥さんに用意してもらったキューは、輪切りにされていた。

 それを一つ味見とばかりに食べてみると、その味はキュウリの浅漬けっぽい味がした。

 同じく食べたエルサは、感動したように叫び出し、喜んで食べ始める。

 ……それは良いけど、宝石箱は言い過ぎだろう……また変な知識を……って、俺の記憶のせいか……。


「リクさん、食べ物よりも今は村長さんとの話をしないと……」

「あぁ、そうだったね。……すみません、イオニスさん」

「ほっほっほ、良いのですよ我が村で作った物を、喜んで食べてくれる……それは私達にとって喜ばしい事です」

「そうですね……まだまだありますから、いっぱい食べて下さいな」

「……ありがとうございます」


 モニカさんが俺を肘でつついて、軽く注意をされる。

 そうだった、ここには魔物の話をしに来たんだった。

 エルサのための新しいキューの食べ方を調べに来たわけじゃない。

 そう思って、イオニスさんに謝る。


 イオニスさんと奥さんは、美味しそうにキューの浅漬けを食べるエルサをニコニコと見て嬉しそうで、気にしていない様子だ……良かった。

 マルクスさんの方は、そんな俺達を苦笑しながら見ていた。

 ……ちょっと恥ずかしい……後で、姉さんにはこの事を言わないようにお願いしておこう。


「それで、魔物が村の近くに出たとの事ですが……」


 仕切り直して、俺達はイオニスさんと村の近くにいる魔物の話を始めた。



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