第307話 村の人達とのお話



「ロータ! ロータなの!?」

「母ちゃん!」


 集まっている集団に近付いた時、その中の一人……俺達を連れて来たおばさんよりも、少し若く見える女性が飛び出してロータへと駆け寄って来た。

 それを見て、ロータも叫びながらその女性へと駆け寄る。

 ロータの母親か……。

 ようやく母親と会えて、ロータも一安心だろうな……と思うのと同時、ヌートさん……ロータの父親の事を伝えないといけないと考えると、気分が沈んだ。


「あぁ、ロータ! よく無事で! ……あの人はどうしたの?」

「父ちゃんは……」

「そこからは、俺達が話しますよ」


 ロータと母親は、お互いを抱き締め合って再開を喜ぶ。

 しかし、ふと母親の方が顔を上げ、キョロキョロと視線をさまよわせてヌートさんを探してる。

 一緒に帰って来たと思ったんだろうね……。

 ロータにこれ以上説明させて、思い出させるのも酷かと思い、俺が進み出て声をかけた。


「貴方達は……?」

「俺達は、冒険者の……」


 村の入り口でもしたように、皆で自己紹介。

 その中でマルクスさんが、国の軍所属だという事に皆は驚いてたけど、さらに俺に対して様を付けて呼び、今回はサポートのために来ただけというのでさらに驚いてた。

 軍からのサポートで、様で呼ばれるなんて……こいつ何者……?

 みたいな感じで見られてるね、ははは。


 ついでにソフィーがパーティ名も名乗って、冒険者である証明の冒険者カードを見せた。

 そう言えば、パーティ名ってあったなぁ……ニーズヘッグ……怒りに云々という悪竜の名前だ。

 ……野盗達に、特にボスに対して色々抑えられなかった俺には、ちょうど良いのかもしれない。



「そうですか……あの人は野盗達に……」

「はい。野盗達は全て捕らえ、国に引き渡してあります。それと、勝手にで申し訳ないのですが、弔うためのお墓を作らせてもらいました」

「ありがとうございます……主人も、空の上で感謝していると思います……うぅ……」

「……母ちゃん」


 俺達がロータの父親、ヌートさんの顛末を説明し終わるころには、集まっていた皆はそれぞれ俯いて、悲しみを堪えている様子だった。

 話を聞き終え、泣き崩れてしまったロータの母親と、それに縋りつくロータ。

 その親子の様子を見て、俺達も村の人達も何とも言えない難しい顔になった。

 まぁ、明るい話じゃないからね……。


「冒険者様、ヌートの事、ロータを送り届けてくれた事、感謝します」

「いえ……大した力になれず……申し訳ありません」

「いえいえ、ヌートの仇討ちをして頂き、弔って頂いただけでも十分過ぎる程です……。あぁ、申し遅れました。私は、この村で村長をしております、イオニスと申す者でございます」


 沈んだ雰囲気になった広場の中で、集まった人たちの真ん中あたりから、老人が一人、進み出て俺達に向かって頭を下げる。

 その老人が、この村の村長らしい。


「イオニスさんですね。リクです。よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ……」


 近づいて来たイオニスさんに、自己紹介をしつつ手を差し出し、しっかりと握手をした。

 イオニスさん、見た目は結構な高齢に見えるけど、しゃんと背筋を伸ばしていて力強く俺の手を握った。

 杖もついていたりしないし……農業の村と聞いていたけど、力強いのは農作業で培った物だろうか……?

 農業をしていたら、腰が曲がりやすいとか聞いた事あるけど……イオニスさんはしっかり背筋を伸ばしてるね……あれは稲作の田植えが原因だったっけ?


「いててて……」

「村長、村の外から人が来たのが珍しいからって、無理するから……」

「なんじゃい! ワシだってまだまだ若者には負けんわい!」

「いやいや、無理するところじゃないだろ?」


 握手をしていた手を離すと、急にイオニスさんが手を腰に回し、痛がって上体を倒した。

 それを見た他の人達が、苦笑しながらイオニスさんに声をかける。

 ……どうやら、無理をしていただけらしい……うん、俺相手にそんな無理をする必要はないですからね?


「ところでじゃ、リクさん」

「はい?」


 ロータとその母親が少し落ち着いて来たのを、横目で見ながらイオニスさんが俺に話し掛ける。

 何か気になる事でもあるのかな?

 ロータの方は、ソフィーが行ってくれてるから、そちらは任せよう。

 村長であるイオニスさんや、村の人達と話すのはちょっと緊張するけど、隣にモニカさんがいてくれるから、多少間違った事を言ってもフォローしてくれるだろうと安心してる。


「リクさん達は冒険者なのはわかったのじゃが……ランクはいくつかのう? ……ヌートは確かCランクだったと聞き及んでおるが……」

「ロータの父親はCランクだったんですね」


 Cランクかぁ……モニカさんやソフィーさんと同じだね。

 年齢にもよるけど、それなりの実力者という事だったんだろうな……。

 そんなヌートさんを、野盗達は殺してしまったという事は、結構手練れだったのかな?

 いや、あいつらは奇襲と数で攻めるようだったから、まともに相手をしたとは言えないのか。


 落馬をして怪我をした事や、ロータを逃がす事を考えて、まともに戦えなかったんだろう。

 どれだけ高ランクになっても、どれだけ強くても、油断している所をつかれたら危うい……という事だね。

 俺も気を付けよう。


「えぇと、冒険者ランクでしたね……」

「私はCランクです。あっちの女性も、Cランクですね」

「ほぉ、Cランクが数人……これなら、ヌート一人では対処できない魔物も、なんとかできそうですのう……」


 俺がランクを答えようとすると、モニカさんが先に答えて、ついでにソフィーの方も指し示してイオニスさんに教えた。


「……リクさんのランクを聞いたら、私達が霞むからね……先に教えようと思って」

「そう、なのかな? まぁいいや。えっと、イオニスさん。俺はAランクになります」

「「「Aランク!?」」」


 モニカさんがこそっと俺にだけ呟いた事に答えながら、自分の冒険者カードを取り出して、それをイオニスさんに見せながら、Aランクだと伝える。

 それを聞いたイオニスさんを始め、近くにいた村人達が皆驚いた様子だ。

 ……Aランクってそこまで驚くの?

 まぁ、数は少ないみたいだけど。


「本当にAランクですじゃ……運が良ければ、Bランクが来てくれるかもと考えていたのですが……まさかAランク冒険者が来てくれるとは……」

「村長、Aランクって凄いんですか?」


 俺が出した冒険者カードを見て、本当にAランクである事を確かめたイオニスさん。

 Bランクというと、マックスさんとかヤンさんか……確かにあの人達が来てくれるなら、多少の魔物は問題ないだろうなぁ。

 そんな事を考えていると、集まっている人達の中から、俺よりも少し若いくらいの人が村長に対して質問した。


 見た目で判断すると、ギリギリ15歳前後ってくらいかな?

 まだ冒険者登録できる年齢かどうかくらいだから、ランクについてはよく知らないんだろう。

 イオニスさんが、その質問をした村人に対し、半身を向けながらAランクの事を説明し始める。

 元冒険者のヌートさんもいたんだし、村長というだけあって、冒険者の事もよく知ってるのかもしれないね。


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