第306話 ロータの村へ到着
「それにしてもリク。野盗の拠点に行く時、捕まってる人達がいるとはわからなかったのか?」
「さすがにそこまではね……探査魔法で、魔物か人間かくらいはわかるけど……そこまではわからないよ。集中したら、性別くらいはわかるかもしれないけどね……」
「そうなのか。まぁ、わかってたら私達を置いて行こうとはしないか……」
「ははは……これからはちゃんと相談します……」
探査魔法でわかる事は、魔力の反応を探る事だから、それで場所や魔力の大きさを知る事ができる。
魔力の大きさや反応の感じで、人間か魔物か……エルフの集落に行った経験から、エルフも判別できる。
さらに、体の大きさも集中したら、なんとなくわかるから、それで性別もわかるかもしれない……確実じゃないけどね。
男性のような体格の女性もいるだろうし、その逆のあり得るから。
ともあれ、今回は野盗達の動きを追うための探査魔法だったから、性別を知ろうは考えてなかった。
だから、拠点まで行かないと捉えられてる人達がいるなんて、考えもしなかったんだけどね。
俺やユノ、エルサで呆然としてる女性達を、野営場所まで連れて行くのは結構苦労した。
おかげで、モニカさん達が起きるまでに帰れなくて、俺が勝手に行動したのがバレたしなぁ。
こんなことになるなら、最初からモニカさん達に相談しておけばと後悔。
こちら側の人数が増えれば、連れて行くのも楽だっただろうしね……モニカさんにも怒られたし、今度からは勝手な行動は控えよう……というより、ちゃんと相談しよう。
あと、救いだったのは、女性達が乱暴に扱われていなかった事かな。
まぁ、連れて行かれる際に、軽い暴力くらいはあったのかもしれないけど、男達が寄ってたかっての乱暴……とかはなかったみたいだ。
どこかへ売るためにそうしていたのかはわからないけど、もしそんな様子が垣間見えたら……また野盗のボスを相手にした時みたいに、怒りを抑えられなかっただろうなぁ。
捕まえてた野盗達も、ヴェンツェルさん達に引き渡す事なくなっていたかも……。
モニカさんやソフィーに改めて、何かする時は相談すると約束し、そんな事を考えながら、馬車に揺られてロータの村へと向かった。
……お尻が痛いのをごまかすための思考だけどね。
「リク兄ちゃん! あれだよ、あれが僕達の村だよ!」
しばらく馬車で移動し、日が暮れて薄暗くなって来た頃、馬車が向かう先に村が見えて来て、ロータが御者台ではしゃぐ。
色々あったから、ようやく自分の故郷に戻って来れて嬉しいんだろう。
「ロータ、道案内ありがとう。なんとか、今日中に村へ着けたようだね」
「そうね。……ここから見る限りだと、魔物に襲われた様子もないし、大丈夫そうね」
窓から顔を出して、見え始めた村の様子を窺う。
火の手が上がっていたり、誰かが戦っている様子もなく、建物が壊れているようにも見えないので、魔物が襲ってきたりはしていないんだろう。
魔物がいる場所の様子を知る必要はあるけど、とりあえずは安心だ。
「おーい、皆! 冒険者さんを連れて帰って来たよー!」
ロータが御者台から村の皆に伝えるように叫ぶ。
俺達は、村の入り口で馬車を止め、村の様子を見ていた。
日が暮れ始めて薄暗いから、奥の方までは見えないけど、村のあちこちで人の姿が確認できた。
……中央の方へ集まっているようだけど、何かあったのかな?
「……ロータ、ロータかい!?」
「おばちゃん! そうだよ、ロータだよ!」
「良かった……帰りが遅いから心配してたんだよ! それにしても、こんな立派な馬車に乗って……ヌートさんは、馬車の中かい?」
「……父ちゃんは……王都に向かう途中で、僕を逃がすために野盗に……」
「……そうか……ロータだけでも、無事で良かったよ……」
ロータの声で、村の中にいた複数の人がこちらを向き、その中から一人、恰幅の良いおばさんが進み出てロータに声をかけた
俺達が乗って来た馬車が、豪奢なのに驚きながら、ロータが帰って来た事を喜んでるから、知り合いなんだろう。
ロータから視線を外し、俺達の方を見たり、馬車の方を見たりして、ヌートという人を探していたようだけど、ロータの言葉で項垂れながら、ロータを抱き締める。
ロータの父親は、ヌートさんって言うのか……帰りにでも、墓標に刻んでおかないとね。
「それで、ロータ。そっちの人達が冒険者さん達かい?」
「うん。リク兄ちゃんだよ!」
「えぇと……初めまして。冒険者のリクです」
「同じく冒険者の、モニカです」
「同じく、ソフィーだ」
「ユノなの!」
ロータを抱き締めていたおばさんが、俺達の方へ視線を向けたので、皆で自己紹介。
ユノは冒険者じゃないけど……良いか。
ちなみに、エルサは村が近づいたあたりで、ロータから離れて俺の頭にドッキングしてる。
「そう、ちゃんと冒険者さん達を連れて来てくれたのね……随分若いようだけど……」
「大丈夫だよ、おばちゃん! リク兄ちゃんはすごいんだ! あっという間に、父ちゃんの仇を討ってくれたんだ!」
「そ、そうなのかい?」
ロータと話すおばさんは、俺達が若く見えるから、少し不安に思ったようだ。
まぁ、確かに年齢的にもベテラン冒険者とは言い難いから、気持ちはわかる。
マックスさんのように、見た目での安心感とかは、俺やモニカさん達にもまだ出せそうにないね……。
「申し訳ありません。詳しいお話はまた後で……まずは、馬達を休ませたいのですが……」
「あぁ、はいはい。おーい、アンタたち、手伝って!」
マルクスさんが御者台から降りて来て、おばさんに話しかけた。
ここまで休憩無しで頑張ってくれたからね、馬達も相当疲れてると思う。
おばさんが、後ろで様子を見ている男達に声をかけ、皆で馬を連れて行く。
入り口近くに、厩があるみたいだ。
その様子を見送りつつ、マルクスさん以外とロータ、おばさんは一緒に村の中へ。
ロータの声が聞こえたのか、建物の中からも俺達を見に出て来る人達や、中央の広場になっている場所に集まっている人達がこちらを見ている。
……ちょっと注目され過ぎて緊張するね。
王都で人に囲まれるよりは、全然マシだけど。
「おばちゃん、どうして皆集まってるの?」
「それがねロータ……昨日くらいから、魔物達が村の方に近付いているみたいなんだ……ロータやヌートさんも帰って来ないし……どうしようかと村の皆で話し合ってたところなんだよ」
「魔物がこちらに向かってるんですか?」
「あぁ、いえね。向かってるというより、少し移動しただけなんだよ。まだ村を襲っては来ないみたいでね。だから、今のうちに村を捨てて逃げるか、もう少し助けを待つかを話し合ってたんだよ」
「そうなんですか……成る程」
村の中央へ向かいながら、おばさんの話を聞く。
どうやら魔物達は、最初に発見した場所よりも村寄りに移動したようだ。
まだ村に向かってはいないから、襲われてはいないだけで、危機感は皆が持っているんだろう。
村の中を歩きながらも、見かける人達の表情は深刻そうだ。
おばさんとロータに連れられて、途中マルクスさんが追いついて合流しながら、村の中央広場へとたどり着く。
そこでは、数十人の村人が集まって何か話している様子だった。
さっき聞いた、これからどうするかの話し合いかな?
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