第305話 休憩場所は宿場へ



「この森の中心……この場所で休憩所を作り、森を通る者達が利用する事ができるようになれば、通行者も増えるかもしれません。……もちろん、安全なように兵士や冒険者による見回りは必要でしょうけど」

「ハーロルトさんは、ここを宿場にしようと?」


 広場を見て考えながら話すハーロルトさんに、モニカさんが聞く。


「いえ……宿場にするかどうかはわかりません。何か小屋のようなものを建て、一時的にでも休憩する場所ができればと考えただけですので……。まぁ、野盗が潜伏していた事と、魔物が散らばっているので、森狩りは必要でしょう。安全を確保した後、休憩所として利用……定期的に警備や監視をして安全を保つ……そうすれば、この森を通る事を躊躇している者達も気軽に通れるのではないかと……」

「確かに、そうですね。私達は馬車でしたけど……馬を使わない人達もいますし、森の途中で安心して休める場所があるというのは、良い事だと思います」

「そうですな。これは、王都に帰ってから検討しましょう」


 最終的に、俺を余所にモニカさんとハーロルトさんで話が決まってしまった。

 まぁ、俺はちょっと休憩するだけのために作ったけど、それが今後も有効に使ってくれるのなら嬉しいね。


 ちなみに、俺が作った広場は、大体100メートル四方くらいの正方形。

 北側から南下する途中の左側に、ぽっかりとその空間が開いている。

 ちょっとした、小学校のグラウンドくらいの大きさかな?

 目測だから、広さが正しいかはわからないけど、そんな感じだ。


 地面は固めるようにしたから、コンクリートやアスファルト程じゃないけど十分固い。

 広場にした場所の外側には、森に向かって無数の木々が吹き飛ばされて散乱してる。

 ……ハーロルトさんというか、国が何かに利用するなら、片付けもしてくれるだろうから、任せようと思う、うん。

 決して、無計画にやってしまって面倒だと思ったわけじゃないぞ?

 それに、国が管理してくれるのなら、すぐ隣にあるロータの父親のお墓も、荒らされたりしないだろうしね。


「リク殿、ご苦労だったな」

「ヴェンツェルさん。お疲れ様です」


 広場の利用を考え出したハーロルトさんから離れて、自分で作った場所に座って休憩していると、ヴェンツェルさんが近付いて来た。

 ……相変わらず、筋肉が暑苦しいなぁ……エルサがヴェンツェルさんを警戒して、こちらに近づいて来ないのは、わからなくもない。


「しかしリク殿……野盗達の頭領だけ、殺したんだな。その他の者達も、無事とは言い難いが……」

「……まぁ、色々と馬鹿な事を言ってましたからね……。ロータの父親を殺した事を自慢してましたし……ちょっと我慢しきれなくて……」

「リク殿を怒らせるとはな……馬鹿な事をしたものだ」

「ははは、そうですかね。あぁ、ヴェンツェルさん。今度王都に帰ってからになりますけど……俺に訓練をつけてくれませんか?」

「リク殿に? しかし、リク殿に訓練を付けるような事なぞ、無いと思うのだが?」

「いえ、今回の事で思い知りました。俺は、まだ精神的に未熟だなぁと……なので、その辺りを鍛えてもらえればと思いまして……」

「ふむ、そうか。……リク殿の年齢にしては、しっかりしていると思うのだがな。そう考えるのなら了解した。何か、リク殿でもできるような訓練を用意しておこう」


 肉体を鍛える訓練じゃなくて、精神を鍛える訓練をしたいと思う。

 今回は、怒りに任せて色々やり過ぎた感があるからね。

 野盗のボスも、殺さずに捕まえても良かったはずだ……。

 ヴェンツェルさんは、俺の言葉に頷いて、訓練を用意してくれるみたいだ。


「まぁ……あまりきつくない訓練でお願いしますね?」

「ははは! 訓練にきつくない物なんでないぞ? リク殿がしっかり鍛えられるように、特別訓練を考えておこう!」


 ……相談する相手を間違えたかもしれないなぁ。

 でもまぁ、確かにきつくない訓練をしても、精神が鍛えられる事なんて無いか……。

 何物にも動じない精神を……とまでは思わないけど、できれば怒りに任せて行動するような事はなくしたい。

 今回は大丈夫だったけど、魔法を怒りに任せて使ったら、味方まで巻き込んでしまうかもしれないしね……。



「それじゃ、ヴェンツェルさん、ハーロルトさん。後は任せました!」

「はっ! お気をつけて!」

「リク殿、帰って来るのを楽しみにしているぞ!」


 ハーロルトさん達と情報を共有し、色々と話し合って野盗達や助けた女性達の引き渡しを終える。

 途中でいったん休憩し、俺達と女性達はモニカさんの作ってくれた料理を食べて昼食を済ませた。

 野盗達には当然そんな物はないけどね。

 ハーロルトさんはともかく、ヴェンツェルさんはたまには王都を離れて実戦訓練を……と考えてここまで来たらしく、野盗達を相手にできないのが少し残念そうだった。


 女性達は、エルサのモフモフが気に入ったのか、やたらとエルサを触ろうと近付いて来たけど、エルサが構われ過ぎるのを嫌って、キューを持ったまま俺にくっ付いて離れなかった……と言うのは余談か。

 諸々の準備を済ませ、この場の事を任せてマルクスさんを御者に、皆で馬車に乗り込んで出発する。

 俺達の馬車を見送るヴェンツェルさん達に、馬車の中から声をかけ、その場を離れる。


「「「「「冒険者さん、ありがとうございました!!」」」」」


 少し離れたところで、助けた女性達が並んで一斉に俺達へお礼を叫んで、頭を下げるのが見えた。

 ……助けられて良かったなぁ……野盗達に売られていたら、ろくな扱いをされなかったのは簡単に想像できる。

 無事で良かったという気持ちを込めて、馬車の窓から手を出して向こうへと振っておいた。

 というか、久しぶりに英雄だとか言われず、純粋に冒険者としてお礼を言われた気がする……。



「リク様、皆様。森を抜けましたが……休憩を取りますか?」


 馬車に乗り、森の中を今度こそ速度を出して通過したあたりで、マルクスさんが御者台から声をかけて来た。

 休憩は、出発前に結構取ったからなぁ。

 当初の予定では、森を抜けて休憩、一泊するつもりだったから、マルクスさんは聞いて来たんだろう。

 森の真ん中あたりからの出発だから、まだ体感で1時間程度しか経っていないはずだし……。


「んーと、今日中にロータの村まで行きたいと思うんだけど、どうかな?」

「そうね……野盗達に時間を取られたから……休憩は無しでいいかもね」

「そうだな。到着が遅れれば遅れる程、村が魔物の脅威に晒される可能性が増えるしな」

「わかりました。ロータ君、こっちに来て村までの道を案内してくれるかな?」

「うん!」


 皆も、俺と同じく休憩は無くても構わないと考えているようだ。

 ここで休憩したら、村への到着が深夜になるか、明日になってしまうからね。

 夜間の移動は、できなくはないんだろうけど……ロータもいるためにあまりしない考えだ。

 俺も、視界が悪い中での移動は慣れてないから、何かあった時に対処できる自信はないからね。


 マルクスさんに呼ばれて、村への道案内のために、一旦馬車を止めてロータが御者台へ。

 ロータがマルクスさんの隣に座った事を確認し、再度出発する。

 よっぽどエルサのモフモフが気に入ったのか、ロータはエルサを抱いたままだ。

 ……俺のモフモフ……とは思うが、それでロータがここ数日で起こった事に対し、心の傷を癒せるのなら良い事だと思った。



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