第303話 野盗の拠点にいた女性達
「えぇっと……事の始まりは、皆が寝静まった後に野盗の拠点に行ったんだけど……」
「……拠点があるなんて聞いてなかったんだけど、まぁ良いわ。それで?」
「はい……そこにユノとエルサを連れて行って……」
昨夜……というより、もう明け方になる頃の事をモニカさんに話す。
どうでも良いけど、俺だけ正座って不公平じゃないかな……?
ユノやエルサも一緒だったのに、あっちはロータと戯れてるし……はぁ。
俺が野盗の拠点に足早に向かっている時、マルクスさんを強襲して起こし、見張りを強制的に代わってエルサとユノが追いついて来たんだ。
そこから、俺達は走るくらいの速度で急いで野盗達の拠点に向かう。
拠点は、昔森で木を伐り出す仕事をしている人達が使っていたと思われる建物だった。
大分痛んで来ているその建物に、探査魔法で8人の反応がある事がわかっていたから、見つからないように近付いて、外を見張っている2人をユノと協力して強襲。
さっさと気絶させて中に入った。
この時、ユノに殺さないよう言っておいたためか、攻撃は盾を使っていたけど、シールドバッシュがもろに顔面へ当てられた野盗は少しかわいそうだったかもしれない。
俺がやった時よりも鼻がおかしな方に曲がってたからね……。
それはともかく、野盗達が使っている建物の中へ、音を立てないようこっそり入ると、一つの部屋の扉が適当に作ったような鉄格子になっていて、その前に一人の野盗が横になって寝ていた。
ユノが盾でその上にジャンプして圧し掛かり、さらに深い眠りに入ったのをみつつ、探査魔法で残り5人の反応が鉄格子の奥にあるとわかった俺は、横になったままの野盗を踏み越えて、そこを覗き込んだ。
そこには、汚れた衣服を纏った女性が5人、肩を寄せ合って寝ていたんだ。
いや、2人くらいは物音に気付いて、目を覚ましてこっちを見てたかな?
とにかく、ボスの言っていた「金と女は奪う物」と言っていた事を思い出した俺は、襲われた人達の中で連れ去られた人達だと考えて、女性達を救出。
明け方に小さな女の子であるユノ、それと犬にも見えるエルサを連れた俺に助け出され、よく状況もわからないまま、ここに連れて来られたってわけだね。
5人全員が、俺に連れられる事に抵抗したりせず、粛々と従ってくれたのは助かったけど、多分野盗達に捕まって絶望していたため、何も考えられなかったのかもしれない。
……寝起きだから、とかじゃないよね?
ともあれ、野営地に戻って来た俺達は、マルクスさんが詰め寄られモニカさんとソフィーに問い質されてた場面に遭遇。
そのままモニカさんによって俺が正座させられ、今に至る……という事だ。
マルクスさんは、ソフィーと一緒に連れて来た女性に事情を聴いてる。
こういう時、兵士の人がいてくれるとありがたいね。
相手が女性のみだから、ソフィーも一緒にいて安心させてるんだろう。
「と、いうわけです……」
「はぁ……野盗達に捕まった女性を助けたのは良い事だと思うわ。多分……どこかへ売られる予定だったんでしょうし……」
「そ、そうだよね。うん、未然に売られるのを防げて良かっ……」
「でも! 私達に黙って行く必要はなかったんじゃない?」
「……うん、そうだね……」
モニカさんのいう事は最もだ。
半分は野盗達への怒りから、もう半分は時間が惜しかったんだけど……。
モニカさんに言って行ったら、多分ついて来ると言ってただろうし、そうなるとロータの村へ行くのが遅くなってしまいそうだったから……。
そうモニカさんに言い訳すると……。
「結果論ではあるんだけどね。こうして女性達を助けた事で、結局私達はしばらくここから動けなくなったわ。助けるなというわけじゃないけど……それなら、最初から一緒に野盗達の所へ行っても良かったんじゃない?」
「それは……確かに……」
結局こうなってしまった以上、モニカさん達を連れて行っても出発が遅くなる事には変わりがない。
野盗達と違って、女性達をここに置いてロータの村に行くわけにもいかないしね。
マルクスさんが言ってた、討伐隊が来るまでここで待って引き渡さなきゃいけない状況だ。
でも、ここまでの事はさすがに予想できないと思うんだけどなぁ……。
「まぁまぁモニカ。そのくらいにしておけ。リクも反省しているようだしな。……次があれば、ちゃんと私達にも話してくれるだろう。な、リク?」
「は、はい。一人で考えて勝手な行動はせず、二人に相談させてもらいます!」
「……はぁ……まぁ良いわ。悪い事をしたわけじゃないしね。リクさん、今度はちゃんと相談してね?」
「……わかりました」
事情聴取が終わったのか、ソフィーが笑いながら怒っているモニカさんを止めてくれた。
こっちに問いかける時だけ、妙に目に力が入っていて、怖くて勢いよく頷いて勝手に駆動しないと約束した。
……姉さんに限らず、女性って怒るとなんでこんなに怖いのか……。
いや、相談しなかった俺が悪いからか……仕方ない。
「リク様、全員の聴き取りが終わりました」
「……ありがとうございます」
「ははは、疲れてますね。こってり絞られましたか……」
「はい。……マルクスさんもすみません。俺の見張りの時間を代わってもらって……」
「大丈夫ですよ。兵士の訓練で夜通し見張るものもありましたから、それに比べればこのくらい」
「そうですか……」
ようやくモニカさんから解放され、痺れた足を何とか動かしながら立ち上がると、女性達と話していたマルクスさんが俺のところに来た。
代わりに、女性達のところにはモニカさんとソフィーが向かった。
野盗達に捕まって絶望してたら、急に助け出されて……まだ混乱している人もいたようだから、安心させるためだろう。
「えーと、5人はそれぞれ別々に集められたようですね。この森を通る商隊等を襲い、金品と女性を強奪していたようで、この女性達はその被害者のようです」
「……そうですか」
「商隊は全滅、金品と馬は売り飛ばされたんでしょうね……遺体なんかは、森の適当な場所に捨てられたのを見た……と一人が証言しています。……多分、魔物の餌になっているかと……」
マルクスさんが聴き取った内容を説明してくれるが、その内容に改めて野盗達への怒りが沸きあがる。
まぁ、その野盗達はボスを除いて全員捕まえているし、ボスは俺が倒した。
木に括り付けられて、意識の無い野盗達を睨むだけで済ませておく。
「女性達は、ある程度集められたら裏ルートで、国外に売る予定だったそうです。野盗達がそう話しているのを聞いた方がいます。まぁ、この国では人身売買や奴隷なんて認められていませんし、見つけたら即刻処罰が下るので、国外なんでしょうね」
「成る程……」
姉さんが、女性を物のように扱う事を許すわけないもんな。
女性に限らず、人間を……か。
俺もそういう事には嫌悪感があるから、売られる前に女性達を助けられて良かったと思う。
「どういった経緯でこの森を通ったのか、襲われた状況は……等の詳しい事情は、もう少し落ち着いてからでしょうね。王都にて保護する事になるでしょう」
「そうですか。今回、助けられて良かったです……」
「はい。国に所属する私共がもっと頑張らねばと思う所なのですが……やはりどこにも抜け道や隠れる場所があるらしく……根絶やしにはできない状況なのが歯がゆいですがね……。まぁ、一番大変なのは、情報部隊でしょうが……」
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