第302話 リクの企みと夜明け前
「リク様、全員の捕縛が完了しました!」
「ありがとうございます。……マルクスさん、この野盗達はどうしましょう? 捕まえたのは良いですけど……村には連れて行けませんよね?」
「はい。馬車にて連れて行く事はできませんが……その辺りは安心して下さい。」
「ん? 何か方法があるんですか?」
「リク様が王都を出発してから、後詰めで野盗の討伐隊が出る予定なのです。ですから、明日にでも到着し、発見次第王都へ連れて行かれるものと思われます」
「成る程、そうですか。それなら良かった」
「なら、このまま放っておいても、死ぬ事は無さそうね」
「そうだな。野盗達相手に治療をするかはわからないが……2.3日程度なら死なないだろう」
マルクスさんの言う通りなら、明日の昼あたりにはここに討伐隊とやらが来る事になるんだろう。
そこで発見して、連れて帰れば野盗達が死ぬ事は無さそうだ。
数日飲まず食わずで放ったらかしにしてたら危ないけど、皆が見た限りだと、すぐに死ぬような人はいないみたいだ。
内臓が損傷とも言ってたけど……実際はそこまで酷くないのかもね。
その辺は、よくわかんないけども。
野盗であっても、無駄に死ぬことは無いと思う。
ボスを殺した俺が考える事じゃないかもしれないけど、生きたままの野盗から、情報を聞き出すとかもあるんだろうし……ね。
捕まった後の野盗がどうなるかは、国が決める事だ。
「リク兄ちゃん、父ちゃんの仇を討ってくれたの?」
「……うん、そうなるね」
「……リク兄ちゃん、ありがとう」
夕食も終わり、テントを張って就寝の時間。
俺とエルサとロータとマルクスさんが一緒のテントで、モニカさんとソフィーとユノが一つのテントだ。
野盗達は、焚き火の場所から見える所の木に繋いでいて、その監視も兼ねて見張りを交代で行う。
最初はマルクスさんで、モニカさんとソフィーの後、俺とエルサの番が来る予定だ。
ちなみに、今の状態で目を覚ました野盗は一人もいない。
マルクスさんの見立てでは、明日の昼くらいまで目を覚ます事は無さそうとの事だ。
テントの中、寝袋に包まれて寝ようとした時、ロータがポツリと呟いた。
馬車の中にいても、皆が真剣な雰囲気で動いてたから、何かがあったと悟ったんだろう……まぁ、見える所に野盗達も縛られてるしね。
俺が頷いて答えると、ロータに感謝される。
ロータにとっては、憎い相手の野盗。
ロータが父親の仇を討とうとして、無茶をする前に、野盗達を何とか出来て良かったと思う。
「……僕、リク兄ちゃんみたいに強くなるよ」
「ははは、そうか。でも、ロータの父ちゃんだって強いだろう?」
「うん。両方、僕の目標だよ」
「そうかぁ。頑張らないとなぁ」
「うん……すぅ……すぅ……」
「寝たみたいだね……」
夕食前にも寝てたロ―タだけど、父親を弔ったりと、気を張って疲れていたんだろう。
話しながら決意をしつつ、そのまま眠りに入った。
俺も、見張りの番が来るまでゆっくり寝る事にしよう。
……まだ、やる事は全部終わってないしね。
「……エルサ、ユノ。どこへ行くんだ?」
「!? 見つかったのだわ……」
「……リクはごまかせないの」
モニカさんとソフィーに起こされ、俺が焚き火で見張りをしている時、テントから出て来る気配を感じ、声をかける。
その気配はエルサとユノのもので、俺に見つからないよう、コソコソとテントを離れて行こうとしてた。
……見張りをするにあたって、探査魔法で周囲を探っていて良かった。
「それで、どこに行こうとしてるんだ?」
「……まだ野盗は残ってるのだわ」
「ロータの父親の仇を討つの。子供を悲しませる人はいけないの」
「……そうか……考える事は一緒なんだな……」
「……リクもだわ?」
「リクも考えてたの?」
エルサもユノも、ロータの父親の仇……というより、残った野盗を捕まえに行くつもりらしい。
もう少し待って、モニカさんとソフィーが熟睡した頃に行こうと思ってたんだけど……ユノが出て来たという事は、二人はもう寝入っているんだろうな。
「まぁね。探査魔法で、全ての野盗がここに来たわけじゃないってわかってたから。それはエルサもなんだろ?」
「馬車の中で探査魔法を使ってたのだわ。森の端に固まっているのだわ」
「エルサはこういう事に、自分から関わらないと思ってたけど……良い事か」
今まで人間に無関心な風だったエルサだけど、俺と一緒にいる事や、人と関わる事で、そういう考えが出て来たのかもしれない。
もしかすると、森に入る前に決めてたのかもしれないな……野盗達が襲って来なくとも、野営をした時点でそこから離れて野盗達を捕まえに行く……と。
多分、森へ入る前の休憩時、ユノと示し合わせるように頷きあってたのは、この事を考えてだったんだろう。
「それじゃ、ユノとエルサは、俺に黙って行こうとした罰と、見つかった罰で、ここで見張りを変わってくれ」
「横暴なのだわ!?」
「そうなの! 横暴なの!」
「いや、残った野盗なんて、俺一人で十分だろ? それに……エルサが行くと大事になりそうだしな……」
「私のせいなのだわ!?」
ユノだけならまだしも、エルサも自主的に行くとなると……巨大化しそうだしなぁ。
大きくなったエルサが森の木々を薙ぎ倒しながら、野盗達にブレスを吐いてる姿が想像される……。
自然破壊だとか口うるさく言うわけじゃないけど……そこまでするのはさすがになぁ。
それに、ユノはユノで、見た目が小さい女の子だから、暗い中、森に入って野盗達の所へ……と行くのは俺の感情が許さない。
ユノの強さとか経緯は知っていても、どうしてもなぁ。
赤ずきんちゃん的に、待ち受ける悪者の所へ何も知らずに行く……というような絵が想像される。
いや、ユノ一人で野盗達が寄ってたかってもかなわないんだろうけどね。
「本当なら、マルクスさんを起こして、見張りをお願いしようとしてたんだけど……ちょうどいいや。それじゃ、俺は野盗達の所に行くから、見張りよろしくな」
「ちょっと、待つのだわ、リク!」
「……こっそり後からついて行った方が良かったの……」
皆を起こさないよう、小声で叫んで俺に抗議する……という器用な事をするエルサとユノを捕まえて、焚き火の前に座らせ、俺一人で森の中へ入って行く。
後ろから言い続けてるような気がするけど、無視する事にした。
まぁ、マルクスさんには悪いけど、起こして見張りを変われば追いかけて来れば良いんじゃないかな?
エルサ達がそんな事をするかはわからないが、そんな事を考えながら、ちよっとだけ速足で人間の魔力反応が固まってる場所へと向かった。
早くしないと、夜が明けてしまいそうだ……。
――――――――――――――――――――
「で? こうなったと?」
「はい……その……野盗達だけかと思ったんです……」
数時間後、野盗の拠点で思わぬ事に遭遇した俺は、マルクスさんと見張りを交代したエルサやユノと一緒に、戻って来た野営場所の焚き火横、モニカさんの前で正座をしていた……。
……土の地面で直にだから、足が痛い。
俺の前で手を腰にやり、立ってこちらを見下ろしているモニカさんに恐縮しながら、ちらりと別の方向へ視線をやる。
そちらには、新たに追加された野盗達が繋がれていたが、それではなくその手前……マルクスさんと話している、名前も知らない女性が5人いた……。
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