第301話 野盗戦後の片付け



「モニカさん、ソフィー。終わったよ」

「リクさん……その、大丈夫なの?」

「え? 問題無く、襲って来た野盗達を全員無力化したけど?」

「そうじゃなくて……」

「私達は離れて見ていただけだから、はっきりとは言えないのだが……いつものリクとは、戦い方が違うように思えてな。モニカもそれが言いたいのだろう」

「そうなの、かな?」


 念のため、馬車の止まっている所へ戻る前に2.3度深呼吸を繰り返し、気分を入れ替えてモニカさん達の所へ戻った。

 モニカさんとソフィーに声をかけると、二人共武器を降ろしてくれたけど、なんだか俺を窺うような視線だ。

 ……やっぱり、いつもと感じが違ってしまったのかな。


「ええ。特に最後のは……」

「リクが無造作に剣を振るなんて事、今まで見た事が無かったな。それに、他の野盗達は斬ったりしていなかったのに、最後だけは……」

「あぁ、確かにね……」


 今まで、俺は戦う時軽く剣を振る事はあったけど、無造作に、構えもせずに振る事なんてなかった。

 あの時は、とにかく目の前で、無駄な事を吐き散らす男を黙らせたかったからね……。


「最後に倒した野盗は、ボスだったみたいで……ロータの父親をどうしたかって、自慢するように言ってたから……」

「……リクさんを怒らせると、怖い事がわかったわ」

「そうだな。私達も気を付けよう」

「いやいや、よっぽどの事がないと怒らないよ? ほら、今回はロータのような小さい子供があんな目にあったんだから、ね?」

「確かに今までリクさんは、怒るような事ってあんまりなかったわね」

「ヘルサルの時やエルフの集落の時の事はあるが……まぁ、いつものリクのようで安心した」


 二人共、冗談のような事を言って、俺がいつもの俺なのか試したみたいだ。

 むぅ……俺が二人に怒った事なんてないはずなのに……。

 笑ってる二人を見ていると、ささくれ立っていたさっきまでの感情も穏やかになって行くのを感じる。

 冗談を言って、いつもの雰囲気にしてくれた二人に感謝、だね。

 ……冗談だよね?


「リク、終わったのだわ?」

「あぁ、エルサ。うん、終わったよ。こっちは何の問題も無かった?」

「何にも無かったのだわ。リクが全部やっつけたのだわ。結界を張る必要があったのか疑問なのだわー」

「ははは、まぁ結界は念のためだからね。何も無かったのなら良かったよ」


 俺が近づいた事を感じたのだろう、エルサが馬車の周囲に張っていた結界を解いて、馬車の中からふわふわ飛んで来た。

 俺の頭にくっ付きながら、何も無かった事を確認。

 結界を張る必要があったかは……まぁ、ロータとか被害を増やさないために念のためだったからね。


「マルクスさん、ここに来た野盗達は全部無力化しました。あっちに気絶して倒れてるので、気が付いても暴れないよう、捕まえましょう」

「……は……はっ、了解しました!」

「ん? 何かありましたか?」

「いえ……遠目には見えていたのですが……あれだけの数の野盗を、この短時間で無力化するとは思わず……英雄の名にふさわしい方だと、改めて思わされました……」

「ははは、野盗が大した事ない人達だったのと、探査魔法で動きがまるわかりだったおかげですよ」


 馬の近くで、周囲を警戒したままだったマルクスさんに声をかけ、あちらで倒れてる野盗達を捕縛するように言う。

 マルクスさんは、しばし固まっていたけど、俺が声をかけて来たのだと認識すると、すぐに頷いてくれた。

 しかし何で固まっていたのか……と思って聞いてみると、何やら俺が野盗達を圧倒した事に驚いていたらしい。

 探査魔法のおかげで、野盗の位置だとか動きが全てわかってたからね……それに、野盗達自体も、ほとんど力任せに武器を振り下ろすくらいしか考えて無かったみたいだし。

 あれくらいなら、ヴェンツェルさんやマックスさんも一人で簡単にやってのけるんじゃないかな?

 ……体が大きいから、森の木に邪魔されそうだけど。


「じゃあ、マルクスさん」

「はっ!」

「あ、ちょっと待ってリクさん。そっちは私達がやるわ。リクさんは、ロータ君の様子を見ていてあげて?」

「そうだな。リク一人に全てを任せるわけにはいかない。私達も、手伝うくらいの事はしないとな」


 馬車の荷物入れのような場所から、捕縛用の縄を取り出したマルクスさんに声をかけ、一緒に野盗達が倒れてる場所へ戻ろうとしたところで、モニカさんとソフィーに止められた。

 二人も、ここでずっと警戒してくれたから、十分手伝ってくれてたと思うんだけど……。


「でも、女性にあの場所を見せるのはちょっと……」

「何を言っているの、リクさん? 私達はこれでも冒険者よ? 遠目からどういう事になってるのかみてるから、わかってるわ」

「うむ。魔物の解体でそのあたりはなれているからな。まぁ、人間相手だからと考えているのかもしれないが……これも大事な事だ。私達に任せろ」

「……わかった。そこまで言うなら二人に任せるよ。俺は……ロータにはさすがに見せられないから、そっちを見ておくよ」

「うん、お願いね」

「さすがに子供に見せるものではないからな」


 平気だと言う二人に、野盗達の事を任せ、俺はロータとユノが待つ馬車の中へと向かった。

 野盗のボス以外は、殴って気絶させたくらいだから良いんだけど……ボスは俺が斬っちゃったからなぁ。

 人間がそうなってる姿を、女性二人に見せたくないと思ったんだけど、冒険者ならこれからの事を考えて見ておく事も必要なのかもしれない。

 ……本当に大丈夫かな?



「はぁ……リクさんは色々とやり過ぎね」

「そうだな……さすがにあれは少しきつかった……」


 数十分後、馬を休ませてから木に繋ぎ、野営の準備を終えて、焚き火を囲みながら一息入れたところで、モニカさんとソフィーが溜め息混じりに呟いた。

 ……やっぱり、人間が斬られた姿は女性にはきつかったのかな。


「あのボスの死体は、やっぱり駄目だった?」

「いえ、そっちは全然平気よ。魔物の解体の方がよっぽど見た目にもきついわ」

「あぁ。そちらの方は何ともなかったな」

「じゃあ、何でそんな溜め息を吐いてたの?」


 マルクスさんが、三人で縛ったうえで運んで来た野盗達を、逃げ出さないようさらに木に括り付けているのを見ながら、モニカさん達に聞く。

 二人共、ボスの死体に関しては何ともなかったと言ってるね……じゃあ何で溜め息を吐いてたんだろう?

 ちなみに、ロータとユノは一緒にエルサを抱いてまだ馬車の中にいる。

 仲良く中で寝てるから、無理に起こす事もないと思ったからね……夕食の支度ができたら起こすけど。


「あぁ……気絶してた野盗達がね……吐いてたのよ。あれはきつかったわ」

「あぁ。血を吐いてる者も含めて、吐瀉物がひどかったな……特に匂いが……」

「あぁ……そう、なんだ」

「軽く見たかんじだと、内臓を損傷している者もいるようだったぞ? まぁ、すぐに死ぬような事は無さそうだったが……」

「鼻が折れてた人もいたわね」


 鼻が折れてた……?

 あぁ、斧を盾代わりにしてた人か……剣で殴ったら、持ってた斧が顔にぶち当たってたからね……痛そうだ。


「ほとんどが、起きたら激痛でしょうね」

「すぐに死ぬ事はないだろうが、痛みでのたうち回る事請け合いだな。むしろ、あの状態で厳重に縛る必要があるのか疑問なくらいだ」

「そうね。放っておいたら死ぬくらいの怪我だから、痛みでまともに動けないでしょうね」

「ははは……そうなんだ……」


 あの時は、死なないようにする事と、意識を奪う事しか考えて無かったからなぁ。

 もしかしたら、ほとんどは激痛で意識が無くなったのかもしれない。

 もっと効率の良い意識の奪い方とか、勉強する必要があるかな?

 なんて考えつつ、モニカさんとソフィーがジト目でこっちを見ながら言うのに、俺は乾いた笑いで返すしかできなかった。



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