第299話 対野盗戦開始



「うりゃぁぁぁ!!」


 前方の野盗が、急に叫び声を上げ、いびつな形の斧を持って、木の上から俺に向けて飛び出して来た。

 野盗達からの合図、来たね。

 というか、今まで隠密で行動していたのに、いざ襲い掛かるって時に叫び声を上げるって何なんだろう?

 様式美?

 まぁ、そんな事どうでも良いか。


「ふっ!」

「「「!?」」」


 始めに飛びかかって来た野盗の男から続いて、同じ場所からもう二人の男も飛びかかって来る。

 一撃目を避けても、後続の野盗が攻撃を当てるという事なんだろうけど、俺はそれを見ながら大きく左後ろに飛び退った。

 俺がいきなり離れた場所へ飛んだことに驚いた野盗は、数舜前まで俺のいた場所に着地して、驚きを露わにする。

 その間に、俺は体をひねって方向転換をしながら、左後ろに向かいつつ、剣を抜いて驚き固まっている野盗へと斬りかかる。


 元々、襲うつもりだった野盗達は、既に何かしらの得物を持っており、それに向かって勢いをつけたまま剣を振り下ろした。

 狙うは、馬車へ向かおうとしていた後方にいた野盗……地上にいた左後方の野盗達だ。

 木の上にいる野盗達の方が、移動速度が遅いみたいだからね。


「ぐっ!」

「一瞬でここまで……」

「ただもんじゃねぇ!」

「今更そんな事言っても、遅いよ」


 俺の動きを見て、驚いたまま固まってる野盗の一人が持っている武器を叩き落す。

 その武器は、質が良さそうには見えなかったけど、頑丈そうな斧だ。

 その斧の刃部分を真っ二つに斬り裂きながら、野盗の手から飛ばした。

 ……魔法が掛かってるとは言え、やっぱりこの剣、切れ味良すぎだなぁ。

 仕方ない、殺す事が目的じゃないから……。


「くそ! このやろう!」

「全員で襲い掛かれ!」

「おうっ!」

「ヴェンツェルさんとかと比べると、動きが遅いなぁ。このっ!」

「ふっ!?」

「ぐぅ!?」

「っ!」


 野盗達は、俺が斬り裂いた斧の事が見えていたのか見えていないのか……多分、弾き飛ばされたようにしか感じなかったんだろう。

 それぞれが怯む事なく、それぞれの得物を持って俺に襲い掛かって来た。

 斧を叩き落とされた男は、素手だね。

 それを冷静に見ながら、最初に一番近くに来た剣を持った男の顔面を左手で殴り飛ばし、右からもう一人、剣を持った男には、左手を振り切った反動のまま、体を回転させて右回し蹴りを腹に叩き込む。

 それぞれくぐもった声を出しながら、崩れ落ちて動かなくなる……気絶したかな?

 最後に、素手で殴りかかって来た男の右拳を左に体をずらして避け、すれ違いざまに右膝を叩き込んだ。

 言葉を発する事もなく、口から息を漏らしてそのまま男は倒れ込んだ。


「さて、次は……」

「この野郎!」


 三人の野盗の意識を奪って、次に動こうとした時、最初に俺の前方に位置取っていた野盗の残りが、俺に向かって走って来る。

 元々地上にいた野盗の方だね。

 その後ろには、俺に攻撃を避けられた驚きから抜けた野盗達も一緒だ。

 俺が思わぬ動きを見せたから、冷静さを失って、バラバラに攻撃して来てるね……一応、仲間の近くで……くらいしか考えて無さそうだ。


「ふっ! はぁ! てい!」

「ふぐっ!」

「ぶべら!」

「うぎゃ! ……うぅっ……うぅ……」


 先に俺の所に辿り着いた野盗三人の、剣や斧による攻撃をよけ、それぞれに拳や蹴りを見舞って意識を刈り取って行く。

 素手で戦うのは慣れてないから、上手くできるかわからなかったけど、思ったよりもできてるようだ。

 まぁ一人、上手く意識が無くならなくて、地面に胃の中の物をまき散らしながら、起き上がれず痛みに悶えてたっぽいのもいたけど……そこはご愛嬌で……。


 とりあえず、2陣目の野盗達は全部倒したから、次は……。

 遅れて走り込んでくる野盗の三人を見据えて、体勢を整える。

 まず、一番足が速く先に走り込んで来る、斧を持った男だね。


「はいっと!」

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「あ、当てどころを間違えた……かな?」


 武器をがむしゃらに振っても、避けられると考えたのか、斧を盾代わりのように体の前に持って来て俺へと体当たりしようと考えていた男。

 その男を右手に持ったままだった剣の腹部分で打つ。

 俺を取り押さえれば、他の仲間だ止めを……と考えていたんだろうけど、斧に向かって野球のバットのように振られた剣は、男の持ってる斧の中心部分に当たって、後ろに弾き飛ばした。

 斧が押されて、もろに顔面にぶち当たった男は、痛みに転がって悲鳴を上げている。

 あ、鼻血も出てるな……無駄に痛みを与えちゃったか……手加減しながら、あんまり痛がらないよう、意識を奪うって難しいなぁ。


「この野郎!」

「てめぇ!」

「はぁ……突撃しか考えないんだなぁ……せい!」


 馬鹿の一つ覚えのように、転がってる男を乗り越えて、別の野盗が得物を振りかざして二人同時に襲い掛かって来る。

 さすがに片手に剣を持って素手で対応するのが面倒に感じた俺は、さっきと同じように、両手で構えて剣をバットのように振る。

 気分はホームランバッターだ。


 剣の腹で、片方の男を武器ごと弾き飛ばし、そのまま振り抜いてもう一人の男も弾き飛ばす。

 剣の腹だったし、ちゃんと武器を狙って打ったから、殺す事はなかったと思うけど……結構飛んだなぁ。

 当初の俺の位置から左後方の森の中、そこから道に向かって飛ばされた野盗二人は、逆側の森の中にまで飛んで行き、途中の木の幹にぶち当たって止まった。

 ホームランというより、ライナーで飛んで行った男達は動く気配はない。


 一応、探査魔法で探手見ると、微弱ながら魔力を感じるから、死んではいないようだね。

 ……おっと、残ってた野盗達が動き出そうとしてる。


「てめぇ……何もんだ? こんなに簡単にこいつらを……ただもんじゃねぇな!?」

「いきなり襲って来て、今更……」


 残っている野盗は三人。

 最初に俺から右後方にいて、木の上に陣取っていた野盗達だ。

 俺の動きに驚いて、今まで木の上にいたまま動けずにいたらしい。

 三人一緒に、木の上から道に降りて来て、真ん中の男が俺に今更何者かを聞いて来るけど……いきなり襲って来た奴らの言葉じゃないよね?


「俺が何者だったかを知ってたら、襲わなかったって? それとも、襲い方を変えてた? はぁ、そんな相手によって戦い方を変えられるくらい、器用なわけでもないだろうに……」

「うるせぇ! 俺らのやる事に文句を言うんじゃねぇ! てめぇは黙って命と金を寄越せば良いんだよ!」

「短絡的だなぁ……だから野盗をやってるのか。それしかできないのかな? まぁ、いいや。とにかく、お前達は今日でおしまいだよ?」

「ちっ! お前ら!」

「「へいっ!」」


 呆れたように野盗を挑発し、俺の方へ眼を向けさせる。

 モニカさん達に任せても大丈夫だろうけど、こいつらは俺の手で捕まえてやらないと気が済まなかいからね。

 まぁ、活躍の機会を奪ってしまって、モニカさんやソフィーには申し訳ないと思うけど……ロータの村の近くにいる魔物達と戦う方で活躍してもらおう。


 真ん中の男が、一緒にいる残ってる二人に声をかけると、そいつらが剣を持って構えた。

 今までとちょっとだけ雰囲気が違うから、もしかして真ん中のこいつが野盗のボスなのかな?

 一緒にいる二人も、ボスと見える男も、今までと違って持っている剣も上等そうだし……油断なく構えてる。

 今更感はあるけど、こいつらはただ無計画に襲い掛かるだけの、さっきまでの野盗とは違うようだね。


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