第298話 対野盗戦準備



「大丈夫か?」

「まぁ、何とかなると思う。もしもの時は、周囲に魔法を使うから」

「リクさん……本気ね」

「まぁ……ね。肉親を殺されたロータの事を思うと、どうしても昔の自分に重ねてしまってね……」

「そうか……」


 つい最近まで、辛いからか無意識のうちに記憶を封印していた俺。

 この世界に来る前、随分前の事になるけど、俺もロータくらいの時姉さんを失った。

 肉親を目の前で失うというのは……やっぱり悲しい。

 当然の事なんだろうけど、それをやった野盗達を、俺は許せそうにないから。


「魔法を使うのは良いけど、大丈夫かしら?」

「ははは、まぁ失敗しないように気を付けるよ。それと、エルサに結界を張ってもらおうと思うからね」

「それなら、こちらへの影響もないか……わかった」

「じゃあ、モニカさんとソフィーは、マルクスさんと一緒に馬を守るのと、馬車に野盗を近づかせないようにしてね」

「ええ、わかったわ。もしリクさんが野盗を取りこぼしてこちらに来ても、何とかして見せるわ」

「野盗の一人や二人、警戒していたらなんとかなるからな」

「うん、お願い。あぁ、あと、逃げる野盗がいたら、捕まえていて欲しいな。もちろん、深追いは厳禁で」

「わかったわ」

「あぁ、しっかり野盗の動きを見ておこう」


 数が多いとはいえ、野盗だから……魔法を使う程の事はないだろうし、俺一人でさっさと倒してしまおう。

 警戒すべきは、遠距離からの攻撃で馬車や馬に何かされる事だけど、それもエルサの結界を張っていればなんとかなる。

 さすがに、俺一人で12人の野盗相手と考えた場合、手が追いつかずに逃げ出してしまう奴もいるかもしれないから、そっちや取りこぼして馬車に向かう野盗の事は任せる事にする。

 まぁ、馬車に向かっても、エルサの結界があるから、野盗に抜ける事はできないだろうけど……念のためね。



「……どうしたの?」

「ちょっと、やる事があるから……ロータは馬車の中に入っててね。……エルサ、ユノ頼んだ」

「わかったのだわ。結界は任せるのだわ」

「わかったの!」


 エルサを撫でていたロータを馬車の中へ。

 一緒にエルサとユノも入れておき、結界の事やロータの事を頼む。


「マルクスさん、エルサが結界を張ってくれるので、大丈夫だろうとは思いますが……もしもの時はお願いします」

「エルサ様も結界をお使いに……さすがはドラゴンと言ったところでしょうか……。了解しました」

「私達は、結界の外で野盗達とリクさんの戦いを見ておくわ」

「うん、馬車に向かってきたり、逃げようとしていたらお願い」

「任せろ」


 マルクスさんは馬の横で、一応の警戒。

 エルサも結界を使える事に驚いてた様子だけど、本当は先に結界を使てたのはエルサなんだよなぁ。

 モニカさんとソフィーは、エルサの結界の外で野盗達の動きを見る役目。

 無理は厳禁だけど、逃がしたり馬車に向かって来た場合の対処を任せた。

 これで、後は野盗達の到着を待つばかりだ。


 んー……ちょっと遅れてない?

 予想より近づいて来る速度が遅いんだけど……何でだろう?

 反応を見る限りだと、もうそろそろ俺達を囲み始めても良さそうなのに、まだ野盗達が合流して12人になり、ここから少し離れた場所にいるな……。


「遅いなぁ……」


 探査魔法で野盗達の動きを監視しつつ、一人呟く。

 俺が一番最初に狙われるよう、警戒しているモニカさん達とは離れて、一人だけ突出している。

 馬車から数十メートル南へ行ったところで、野盗達を迎え撃つつもりだ。

 南側から近づいて来るから、多分最初に俺の方に近付いてくれるはずだしね。


 馬車の方に向かおうとしたら、向こうが来なくともすぐに打って出よう。

 そこまで考えて、一つ気付いた。

 もしかして……野盗達は、俺達を見失ってるんじゃないか?


「あぁ、そうか……さっき監視の野盗を倒したから……」


 監視は、獲物の現在地を報せる役目もあったんだろうと思う。

 それがいなくなったから、野盗達は俺達が今どの位置にいるのかわからなくなって、動きが遅くなってしまっているのか……。

 というより、仲間に随時報せるなら、最低でも二人いた方が良いんじゃないか? とは思うけど、森の中に慣れてる野盗達だ、何かしら連絡する方法があるんだろう。

 それは今俺が気にする事じゃないけど……それが無くなったから、俺達を見失い、戸惑っているのかもしれない。


 とはいえ、俺達が南下しているのは、最初の段階でわかっているはずだし、今も南から野盗達が固まって北上している。

 いずれは俺達を見つけて襲い掛かって来るだろう。

 とりあえず、今は我慢して待つかな……。


「お、来た来た」


 考えていたよりも10分と少し遅れて、野盗達が俺の近くに来た。

 当然ながら、その姿は俺からは見えない。

 道にいる俺から見えないように、木の影や木の上に隠れながら移動してるようだ。

 まぁ、探査魔法で動きは丸見えなんだけどね。


「さて、どう動くかな……?」


 俺を発見した事で、さらにゆっくり動くようになった野盗達。

 小さく呟いた俺は、探査魔法でその動きを捉えながら、どう動くのか様子を見る。

 野盗達は、俺が一人で動いてる事に少し戸惑った様子だったけど、すぐに複数に別れて行動を始めた。


 3人の組が4つ。

 それぞれ、南を向いてる俺の右前方と左前方。

 さらに右後方と左後方に分けて、俺を囲む。

 後方に行った組は、馬車の方に行くのかと一瞬思ったけど、馬車と俺の中間あたりで様子を見ている。

 ……先に前方の奴らが俺に襲い掛かって、驚いてる間に、後方の野盗が馬車へ奇襲……かな?


「えーと、右後方の野盗が木の上……左後方が地上にいるのか……よし、決めた」


 野盗達がジリジリと俺に近付きながら、包囲を狭めて来るのを確認しつつ、どう動くかを決めて呟く。

 馬車に行かれると面倒だから、先に後方の野盗を攻撃する事にしよう。

 開始の合図は……野盗達がやってくれそうだね。


「さすがに慣れてるだけあって、目視はさせないんだね。熟練? 野盗に熟練もなにも無いか……」


 もう少し、もう少しと前方の野盗達が近づいて来る。

 向こうは、俺が動かない事を不思議に思わないのだろうか?

 それとも、足を止めてるのは好機と捉えてるのかもしれない。


 森で活動しているのに慣れてるからか、こちらから目視されるような場所に来たりはしないけど、そのあたりの警戒が薄いのは、野盗らしいのかもしれない。

 もしかすると、ロータの父を襲った事で、変な自信を付けたのかもしれないね……それなら、その自信をへし折らなきゃ。

 前方の野盗は見えない……多分後方の野盗が俺を見て指示を出してるんだろう。

 もし今、俺が振り向いたら、すぐに後方の野盗は身を隠して動きが止まるんだろうな……なんて考えつつ、野盗達からの合図を待った。


 こうして待つのも、ちょっと焦れるから……早くして欲しいなぁ。

 こっちに野盗の行動は筒抜けなんだから……とは思うが、向こうはそんな事知らないから、仕方ないか……。

 そんな事を考えながら、道に佇んで野盗達からの動きを待っていると、左前方の木の葉がガサガサと大きく揺れた。



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