第297話 偉大な父に弔いを
「……リクさん?」
「邪魔な野盗を一人、排除しておいたよ。それで……ロータ、父ちゃんを弔ってやろう?」
「そう……」
「……うん、わかった」
モニカさんがこちらを窺うように声をかけて来るのに答えながら、ロータの方へゆっくりと近づく。
野盗を攻撃するのに使ったけど、本来の目的は、ロータの父親を弔う事。
俺は、ロータと一緒に、乾いた血で覆われた、ロータの父親を抱き上げ、開けた穴の所へ運んで行く。
「ロータ……これを」
「父ちゃんの剣?」
「あぁ。ロータの父ちゃんは立派な人だった。これからは、ロータが父ちゃんの意志を継がないとな」
「……うん!」
俺が魔法で開けた穴に、ロータの父親の体を横たわらせ、その硬直している手をゆっくりと開かせ、持っていた剣をロータに渡す。
腰についていた鞘も一緒に。
パッと見た感じ、剣には汚れがあるくらいで、手入れをしたら使えそうだったし、なんも形見がないというのは、悲しいからね。
ロータも、父親の剣を受け取り、その剣と父親を見比べて、力強く頷いた。
これでロータが、すぐに父親の事を吹っ切れるというわけじゃないだろうけど、それでもロータが前を向くための一助になれば良いな。
「じゃあ、ロータ。やるよ?」
「うん。わかった。……父ちゃん、俺頑張るよ。頑張って、父ちゃんみたいに皆を守れるようになる!」
「……サンドウォール」
ロータが最後のお別れを父親に向かって叫んだのを聞き、イメージを浮かべて砂や土を固めた物で穴を完全に塞ぐ。
これで、ロータの父親のお墓が完成だ。
上に乗っている砂や土は、魔法で凝縮して硬くなるようにしておいた。
これで、簡単には掘り起こしたりはできないだろう。
「……リク様、これを」
「これは?」
「少し離れた場所に落ちていました。……おそらく」
「……父ちゃんの盾だ」
ロータの父親が埋まった場所を眺めていると、後ろからマルクスさんが一つの盾を持って来た。
それは、ロータの父親が持っていた物らしい。
たしかに、盾の内側には血がこびりついており、外側は傷だらけだった。
この盾と剣で、ロータの逃げ道を守ったんだろう……。
「……ロータ、これをロータの父ちゃんの墓標にしようか?」
「……うん、わかった。でも、どうやるの?」
「それは……こうやるんだよ。 ん……サンドウォール」
盾を受け取り、ロータに許可を貰ってその盾を、ロータの父親が眠っている場所に立てる。
その周囲を、さっき使った魔法で砂や土で囲み、盾がはまり込むようにする。
道の方から、立った盾が土の土台にはまっているような形だ。
盾と土の間を、念入りに硬い土で埋め、掘り返されたり盗られたりしないようにする。
そのうえで、隣に、「勇敢な戦士、ここに眠る」と文字で掘り込んでおいた。
これで、野盗なんかの無粋な人間以外は、変に手出しをしなくなるだろう。
まぁ、そのうち様子を見に来て、盗られてたり、荒らされてたりしたら、犯人を捜索して捕まえに行こう。
「ロータ、これをあげるの」
「ユノちゃん? お花?」
ロータと一緒に墓標を見ていると、トコトコと近づいて来たユノが、いくつかの花を摘んで持って来た。
多分、そこらの木の隙間に咲いていた花を摘んできたんだろう。
エルサを頭にくっ付けたユノが、ロータにその花を渡す。
ロータの父親に、花を供える……って事なんだろうな。
「ユノ、ありがとな。ロータ、その花を父ちゃんに手向けてやろう?」
「ううん、ちゃんと弔ってあげるのは良い事なの」
「ユノちゃん、ありがとう。わかった……リク兄ちゃん、一緒にいい?」
「あぁ……」
モニカさん達が見守る中、ユノからロータが花を受け取って、二人で一緒に墓標に花を手向ける。
台座にはまっている盾に向かって、そっと手を合わせる。
この世界には手を合わせるという習慣がないのか、ロータは最初俺の方を不思議そうに見ていたが、やがて真似るようにして手を合わせた。
二人で目を閉じ、祈った――。
「さて、これで森での目的は達成されたわけだけど……」
「リク様、野盗の方はどうしましょうか?」
「うーん……どうしましょうか……このまま、無視して馬車で移動したら、森を抜けるのはどのくらいになりますか?」
「そうですね……この森に入って、馬車の速度を落としましたから、抜ける頃には夜になっているかと……」
ロータの父親をしっかり弔った後、モニカさん達にロータの事を任せ、馬車の近くでマルクスさんと話す。
ここまで来るのに速度を落とした事と、お墓を作っていたから、森を抜けるのはやっぱり遅くなってるみたいだね。
「だとすると、ただでさえ暗い森の中を、さらに暗い中移動しないといけなくなりますね」
「はい。私は訓練されているので、夜間の馬車や馬での移動はできますが……野盗もいるとなると、危険かと……」
「そうですね……まぁ、その野盗もすぐ近くに来てるんですけどね?」
「そうなんですか!?」
「はい」
お墓を作る時は一時的に探査魔法を切っていたけど、今はまた探査魔法で野盗の動きを追っている。
南側の監視をしていた野盗が4人と、南東の拠点あたりから8人……計12人がこっちに向かって来てる。
さっき野盗の一人を吹き飛ばした魔法の音が、森の中に響いたらしく、様子を見るためなのか少しだけ動きを止めていたけど、今はまた動き出してる。
このまま俺達がここにいたら、30分も経たないうちに囲まれるだろうと思う。
「では、野盗の対処をした後、この場か少し移動した先で野営する方が良いかもしれませんね」
「そうですね。夜間の移動はあまりしたくないですしね」
「森の魔物もいると思われるので、暗い時は周囲を警戒しながらも、あまり動かない方が良いと思われます」
「確かに……わかりました。野盗もこちらへ近づいてきているので、とりあえずしばらく待ちましょう。ここで迎え撃ちます」
「はい、わかりました。周囲の警戒を致します」
「馬に被害が出たら、移動が難しくなるので、お願いします。俺は、モニカさん達にも伝えて来ますので」
「はっ!」
マルクスさんと話し、馬達をお願いしてモニカさん達の方へ。
なんだか、マルクスさんが俺の部下のような感じになってしまってるけど、良いのかな?
「モニカさん、そっちは大丈夫?」
「リクさん。ええ、ロータ君も落ち着いているから、大丈夫よ」
固まっている皆のうち、モニカさんに声をかけて軽く確認。
ロータ君は、父親から受け継いだ剣を鞘に納めて握りながらも、開いている方の手でエルサを撫でているようだ。
ユノが抱いているエルサを、一緒に撫でる事で、心を落ち着かせているみたいで何より。
「えーっと、モニカさん、ソフィ」
「うん、どうしたんだ?」
モニカさんはこちらを向いていたけど、エルサを撫でるロータ君達を羨ましそうに見ていたソフィーにも声をかけた。
二人共がこちらに顔を向けている事を確認して、話し始める。
「もう少ししたら、野盗達が襲って来ると思う。最初は、俺達を囲んで距離を詰めて来るとは思うけどね」
「そうなのね。だったら、ロータ君は馬車の中の方が安全かな?」
「うん、その方が良いと思う」
「それで、私達は打って出るのか?」
「んーと、それは俺がやるよ」
野盗達が来る事を、二人にも伝える。
ロータ君に聞こえないよう、少し小さな声だ。
野盗達が襲って来るって聞いたら、ロータ君が以前の事を思い出してしまうかもしれないからね。
ロータ君は馬車の中に避難し、ソフィーが野盗達へ向かおうとするけど、それは否定する。
あんな野盗達相手には、俺一人で十分だ。
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