第294話 森に入る前に一旦休憩
「しかし……やっぱりちょっとお尻が痛いね……」
「こればっかりは仕方ないわよ、リクさん」
「うむ。これもまた、馬車移動の醍醐味だ」
「むぅ……そうなんだけど……ちょっと慣れないなぁ……」
クッションとかは無く、木の板に座っているような感じだから、揺れる馬車によってお尻が痛くなるのは仕方ないのかもしれない。
一応、木の板自体は多少柔らかい物を使ってるようだけど……すぐに壊れてもいけないから、それなりに耐久性のあるものだろうし、柔らかすぎる物も使えないんだろうなぁ。
モフモフクッションとかあれば……。
と考えて、エルサの抜け毛とかを使えば、良いクッションができるかな?
という考えが浮かんだ。
「……モフモフのクッションか……でも、あまり馬車に乗らないなら、必要ないのかな? 今回だけ我慢すれば……」
「何かリクさんが考え始めたわ」
「まぁ、モフモフとか聞こえたから、趣味の事だろうな。……私もモフモフに包まれたい」
「ソフィーも、リクさんと似た趣味だったわね……」
一人でぶつぶつと呟きながら、考え始める。
モニカさんとソフィーが何やら話して、エルサを羨ましそうに見ている気がするけど……そちらは気にしない事にする。
モフモフクッションか……馬車に乗る機会が少ないなら、作っても無駄になるかもしれないし……でも、今回のように乗る事もあるかもしれないしなぁ。
というかそもそも、エルサって抜け毛があるんだろうか?
お風呂で洗ってる時とか、ドライヤーで毛を乾かしてる時も、毛が抜けるのは見た事がないぞ……?
人間に限らず、毛のある生き物なら、多少は抜けてもおかしくないんだけど……どうなんだろう。
今はエルサが拗ね気味だから、今度機嫌の良い時に聞いてみよう。
機嫌が良かったら、もしかすると毛を分けてくれるかもしれないしな。
……モフモフが無くなるのは嫌だから、それが無くならない程度に少しずつってところだろうけど。
いずれそういった物を作ってみるのも楽しいかも、と移動する馬車の中で考えた。
「皆様、こちらで少々の休憩をしたいと思います」
「はい、わかりました」
「休憩か、昼食には遅いが……」
「俺は、お尻が痛くなって来たからありがたいよ」
「キューを食べて休憩するのだわ」
「あっちに森が見えるのー」
御者台からマルクスさんの声が聞こえたのと一緒に、馬車の速度が遅くなっていく。
窓から外を見ると、ユノが言う通り森が見えた。
ロータが言うには、あの森を抜けた先に村があるみたいだから、マルクスさんは森に入る前に休憩を……と考えたんだろう。
ソフィーの言う通り、昼食にはちょっと遅い気もするけど、森に入れば抜けるのは暗くなる頃だろうからね、今のうちにしっかり食べておかないと。
「ロータ、森は結構深いの?」
「んー、どうだろう……? 僕も王都に行くために初めて通ったから……。父ちゃんが襲われたから、どれくらいなのかあまり覚えてないし……」
「そう。ごめんな、嫌な事を思い出させて……」
馬車から降り、馬を休ませてるマルクスさんや、休憩というより食事の準備を始める皆を見ながら、ロータに森の事を聞いてみた。
ロータには、あの森がどれくらい大きいのかわからないみたいで、言葉の後半は俯いてしまっていた。
そうか……あの森でロータの父親が……つまり、野盗があそこにいるって事か。
「キューなのだわ!」
「はいはい。あまり食べ過ぎるなよ?」
「わかってるのだわ。けど、キューの魔力に吸い寄せられて、ついついいっぱい食べてしまうのは仕方ないのだわ!」
キューに魔力なんてあるのか……?
エルサにキューを渡しつつ、その言い分にふと考え込みそうになったけど、特に意味があることじゃなく、単なる食べ過ぎる言い訳だろうと思い直した。
ロータと一緒に焚き火の枝拾いをして、ソフィーが火起こし。
モニカさんとユノが鍋とかの準備をして、料理をしてくれた。
マルクスさんは、馬を休ませた後、近くの川へ行って水を汲んで来てくれた。
準備がしっかりと終わった後、皆で焚き火を囲みながら食事を始める。
暖かい食事は、食べられる時に食べないとね。
「休憩が終わりましたら、この森を一気に抜けます。抜けた後は、野営をして1泊。明日の夕方に村へと到着する予定です」
「わかりました。マルクスさん、ありがとうございます」
昼食を頂きながら、マルクスさんによる今後の予定を聞く。
今日は森を抜けた後に休んで、明日には村に着けるようだ。
ベテランの人がいると、楽で良いね。
それは良いんだけど……やっぱり気になるのは、さっきロータが言ってた事だよね。
「マルクスさん、皆。ロータが言うには、あの森の中で野盗に襲われたらしいんだ」
「あの森で……」
「そうか……確かに野盗が隠れやすそうな場所だな」
「……父ちゃん」
「そうですか。もし野盗が現れたら、予定通りには行かないかもしれませんね……」
さっきロータから聞いた事を皆に伝える。
俯いて耐えるようにするロータには、思い出させてしまう事になるけど、これは皆知っておいた方が良いだろうからね。
モニカさんとソフィーは、食事をしながらも、その話を聞いて森の方を睨み、マルクスさんは考えるように眉を寄せた。
「当然、襲われたら戦う事になるけど……重要なのはそこじゃなくてね?」
「うん? リクさん、何が重要なの?」
「仇討ちを、という事じゃないのか?」
俺が考えているのは、野盗をどうこうするというのとは別の事だ。
モニカさんとソフィーは不思議そうに俺を見て、マルクスさんも首を傾げてる。
ロータは……俯いてゆっくりとスープをちびちびと飲んでるな。
……あまりロータには聞かせたくはないと思うけど……でも、俺達と一緒にいるんなら、見る事になってしまうだろうから、仕方ないか。
「えっとね……ロータの父親の亡骸が、必ずあると思うんだ……魔物に食べられたりしてない限り……」
「……そうかもね」
「うむ……野盗が隠したりしていない限り、そのままになっているだろうな」
「確かにそうですね。もし魔物に食べられていても、その痕跡は残っているかと……」
「……」
あー、ソフィーが言うように、犯行がバレないように野盗が隠すと言うのをあまり考えて無かった……。
「野盗が隠したりするかな……?」
「どうだろうな……それは野盗の動き次第としか言えないが……」
「リク様、私は隠さないと考えます」
「マルクスさん? それはどうしてですか?」
「野盗は、森の中で虎視眈々と道を通る者を狙っているはずです。その際、道に何かの死体があり、それを調べるために馬や馬車を止める者を狙うと考えれば……」
「囮に使うんですね」
「はい……」
そうか……そういう可能性もあるか……。
とにかく、今はロータの父親の亡骸がそのままにされてる……という事で話を進めよう。
自分の父親の話になり、食事をする手を止めてしまったロータにすまないと思いつつ、続きを話す。
「では、隠されずにあるという前提で話しますが……ロータの父親を弔ってやりたいんです。このまま森の中で朽ちて行くのは……かわいそうだから」
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