第281話 姉に爆笑される



「……ただいま」

「あ、帰って来たわ」

「お帰りなさいませ、リク様。お早いお帰りで」

「その様子だと、やっぱりバレたみたいだな」

「りっくん、お帰りー」

「うん、バレた……何だろう?」


 部屋へと戻ると、皆がソファーに座ってお茶を飲みながら、くつろいでいた。

 何故か姉さんも参加してるようだけど、今はそれよりも何でバレたか……だ。


「いや、リクさん……本気でバレた理由がわからないの?」

「え? うん、わからないけど……モニカさんはわかるの?」

「えっと……なんて言ったらいいか……」


 モニカさんから不思議そうに言われたけど、俺としては完璧な変装だと思ってる。

 何故バレたかわからないと言うと、モニカさんは首を傾げて考える仕草。

 姉さんは……あれ、姉さんが何やら顔を俯けてプルプルしてる……どうしたんだろう?


「くっ……ふふ……ふふふふ……あははははは! りっくん、理由がわからないって! あははは! 駄目、お腹が痛いわ……笑いを堪えられない……あははははは……くぅ……」


 どうしたのかと姉さんを見ていると、急にお腹を押さえて笑い始めた。

 大爆笑してるけど……何故だ……。


「えっとだな、リク」

「うん、ソフィー?」

「その……フルプレートという案は悪くなかったんだがな? ……頭のエルサが、な?」

「エルサ……? エルサがどうかしたの?」

「私なのだわ?」


 爆笑し続ける姉さんを横に、ソフィーが言いにくそうにエルサを指し示す。

 エルサが何だって言うんだろう?

 俺の疑問とシンクロするように、頭にくっ付いてるエルサが首を傾げたような気がした。

 兜であまり感触とかはわからないけど、気配で何となくだ。


「リク、エルサを連れてたらバレるでしょう。エルサは、パレードにも参加しているし、リクが白い子犬のようなドラゴンを連れてるのは、知れ渡っているのよ?」

「……あ」

「……あ、だって。あ、だって。あははははは! りっくん、ボケボケね! もう、お腹が痛くて……くふふふふ!」


 見かねたフィリーナが、理由をはっきりと俺に教えてくれた。

 ……そうか、エルサか。

 エルサは毛並みがモフモフで、綺麗で目を引く存在だ。

 当然、パレードを見ていた人達は、エルサを見ているだろうし、そもそも今まで俺が普通にエルサを頭にくっ付けて行動してたから、覚えられてたんだろう……。


 いくら俺自身がフルプレートで全身を隠したとしても、エルサを頭にくっ付けていれば、バレてもおかしくない。

 エルサが頭にくっ付くのは、基本的に俺にだけだしな……。

 あー……肝心なとこが抜けてた……恥ずかしい……しかも、フルプレートの状態で見つかったから、町の人達には戦にでも行くのかと勘違いされたし……。

 穴があったら入りたい……というのはこの事なのだろうか……きっと、今兜を外したら俺の顔は真っ赤になってるだろう……しばらく兜を外さないでおこう。


「いつもは、しっかりしてるように見えるリクさんだけど、抜けてるところもあるのよねぇ……」

「そうなのか?」

「ええ。獅子亭で働き始めた頃は、オーダーの聞き間違いとか……他にも何度か……ね」

「へぇーそうなのね」

「エルフの集落にいる時は、そんな事は見られなかったな」

「リクを見てると飽きないの!」

「くっふふふふ! あはははは! もう駄目、もう……お腹が……はははは! 誰か、誰か助けて……あはははは!」

「……はぁ」


 モニカさんがしみじみと、俺の失敗談を話し始め、それに乗る皆。

 恥ずかしい話で、これ以上追撃しないで欲しいんだけど……。

 姉さんは、完全にツボに入ってしまったのか、笑いが止まる気配がない……そんなに笑ってる姉さんを助ける気は、俺には全く起きないな。

 よく考えればわかる事なのに、失敗してしまって、さらに盛大に笑われてる俺としては、もう溜め息しか出ない。


 ……ヒルダさん、「私はわかっていますよ」とでも言うように、良い笑顔で俺に頷かないで下さい。

 慰めるどころか、それすら今は辛いです……。



「……ともかく、もうそのフルプレート作戦は使えないわね。一度見つかったのだから、同じ事をしても無駄でしょう。それに、平時に町中でフルプレートなんて、目立つしね……そんな事をするのはりっくんくらいよ……くっ……!」

「いや、姉さん……言ってる事はわかるけど、急にキリっとして言われてもね……。それに、何を堪えてるの?」

「……いや、お腹に力を入れていないと、また笑い出してしまいそうで……くふ、くふふ……んん!」


 笑いを堪えてる姉さんは放っておいて……言われたように、もうフルプレートを使って見つからないようにする手は使えないだろう。

 噂ですぐに広まるだろうしなぁ……こういう時の噂って、広まるの早いよね……。

 兵士さんですら、緊急でもない時に全身に鎧を身に着けてるなんて事はないから。


 なんとか、失敗したショックから立ち直り、今は鎧も脱いだ。

 色々やっていて、いつの間にか結構な時間が経ってしまったのか、ヒルダさんが夕食の準備をしてくれて、今は皆でそれを食べている途中だ。

 姉さんだけは、笑い過ぎてまともに食べられていないけど……もういっそ、動けなくなるまでそのまま笑い転げていれば良いのに……。


「しかし、このままだとしばらく城に缶詰状態だよ……どうしよう?」

「そうねぇ……暗くなれば、何とか外には出られそうだし、私達は宿に帰るくらいならできそうだけど……」

「ほとぼりが冷めるまで、のんびり過ごしたら?」

「だが、それだと体がなまって仕方ないな……」

「その辺りは人間とエルフで、少々感じ方が違うのだろうな……」


 俺がキューを齧ってるエルサを弄りながら、悩むように呟くと、皆もどうやって外を出歩いたらいいか考えていたらしく、それぞれに悩んでいる。

 まぁ、フィリーナだけはのんびりする気のようだけど。


「アルネ、エルフと人間で感じ方が違うって言うのは?」

「あぁ、人間と違って、エルフは長寿だからな。生活ができるのなら、数日程度何もしなくても、気にしない者が多いんだ」

「人間の数倍は生きるエルフだから、って事なのね」

「羨ましいとも思うが……私の性格的に、あまり我慢できそうにないな」

「ソフィーは、何もせずに過ごすのは苦手?」

「いや、そういうわけでは無いんだが……体を動かさないと、なまってしまうのが心配だな」


 感じ方が違うと言ったアルネの言葉が気になったので、聞いてみると、生きる年月の違い……種族での違いでという事らしい。

 確かに、数百年生きるエルフからしたら、1日2日くらい、何も考えずに過ごしても大して気にならないんだろうね。

 人間だと、1日寝て過ごしたりしたら時間を無駄にしてしまった……なんて考える人も多いんだけど。

 ソフィーのように、なまってしまうのが気になるのは、冒険者として、体を鍛えてる人にとっては問題なのかもしれない。


「そんなに皆、冒険者として活動したいのね……?」

「んー、冒険者としての活動が……というわけでもないんだけど、他にやる事もないからね。何か優先する事があれば、そっちをするのでも良いんだけど……」



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